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栗原 潔
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株式会社テックバイザージェイピー(TVJP) 代表取締役 弁理士
IT、知財、翻訳サービスを中心とした新しいタイプのリサーチ会社を目指しています。

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« MYUTA事件に関する分析記事 | | 著作権法における複製とコンピュータについて »

2007年09月26日

ダウンロードに関する著作権法改正案について

asahi.comの記事では、ダウンロード関連法改正の中間報告案が26日に公表されるとなっていました。これは、Web上で公表されるということかと思っていたら、著作権分科会・私的録音録画小委員会の場で「公表」されるという意味だったのですね。議事録や資料が文化庁のWebサイトに載るのはかなり先の話と思われるので、Internet Watchの取材記事をベースに書きます。

法改正案は私が知ってたのと大きく変わることはなく、要するに「権利者の許諾なしにアップロードされたコンテンツを情を知って(その事実を知って)ダウンロードする行為を、著作権法30条の私的複製の定義からはずす」ということです。今までは権利者の許諾が不要であったダウンロード行為において、許諾が必要となる(許諾なしに行なえば違法となる)ケースがでてきたということです。

新聞等でよく見られる「ダウンロードを違法化」という書き方はちょっとはしょりすぎです。ただ、権利者がアップロードを許諾しないで、ダウンロードだけを許諾するというのは考えにくいので実質上は、この改正案が通れば、許諾なしにアップロードされたコンテンツをその事実を知ってダウンロードする行為は違法ということになるでしょう。

なお、一般に故意の著作権侵害は刑事罰の対象になり得ますが、このケースは例外的に刑事罰(罰金・懲役)の対象にはなりません。ゆえに、「違法コンテンツのダウンロードは犯罪」という書き方は正しくありません(「犯罪」という言葉を刑事犯罪という意味で使っているという前提ですが)。警察が捜査を行うことも(少なくとも建前上は)ありません。もちろん、権利者からの民事上の損害賠償を請求されることはあり得ます。規定ぶりとしては、今はほとんど意味がなくなってしまった公共の場所での自動複製機器でコピーする場合を私的目的複製とはしないという規定(著作権法30条1項1号)に似てます(これも刑事罰の対象外です)。

なお、仮に許諾なしにアップロードされたコンテンツであっても見たり、聴いたりするだけでは規定上は違法にはなりません。問題になるのはあくまでもダウンロード(複製)です。前も書いたように、コンテンツの視聴を規制するのは、現在の著作権法の「設計思想」から逸脱すると思います。

ここで、これも前に書いたように、IT系の人なら誰でも気になるであろう視聴時のキャッシュへの複製はどうなのかというお話ですが、やはり、津田大介氏が問題提起されたようです。これに対する文化庁担当者の回答は、「それが複製にあたるかどうかの知識はない」、「法改正事項として挙げられている」ということです。法改正で行くか、解釈論で行くかは別として、この問題は早急にクリアーすべきと思います。

あとは、YouTube等のストリーミング視聴前提のサイトからツールを使ってダウンロードするとどうかという話ですが、文化庁担当者の回答は、「コピーコントロールを回避する行為と認められれば著作権侵害になる」ということだそうです(個人的には、この回答はどんなもんかなーと思いますが)。

もうひとつのポイントは「情を知って」というところです。これは訴える側が立証しなければなりませんが、ちょっと聴いただけでは、通常のCDと聞き分けができないような高品質の作品がどんどんネット上に出現してくる中でどうやって、一般消費者が、権利者の許諾のあるなしを判断できるのかというのはなかなか難しい問題です。今後はますます難しくなってくるでしょう。

この問題についてはまた書いていこうと思いますが、いずれにせよ「違法コンテンツのダウンロードなんだから違法にするのは当たり前」というような単純なお話しではないでしょう。

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