現在位置:asahi.com>社説 社説2007年09月28日(金曜日)付 福田外交―世界に向けて所信を語れ福田新内閣にはどんな政策課題に取り組んでほしいと思うか。朝日新聞社の世論調査で、外交への期待を答えた人が55%にのぼった。年金問題に次ぐ高さだ。 偏狭なナショナリズムをあおったり、理念が先走ったりする外交はもう結構。落ち着きを取り戻してほしい。そんな気持ちも含まれているのではないか。 外国のメディアも「アジア隣国との良好な関係を望むハト派」(英フィナンシャル・タイムズ紙)などと分析し、穏やかな協調路線への期待を見せている。 外交は、福田首相がかねて関心を寄せてきた得意分野だ。1日の所信表明演説では、世界に向けて新しい日本の外交を語ってもらいたい。 まずは「歴史」をめぐる外交摩擦に、明確に終止符を打つべきだ。 小泉元首相はA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に参拝を繰り返した。一方、かつて慰安婦問題についての政府見解を批判してきた安倍前首相は、不用意な発言で国際社会の批判を浴びた。米下院が謝罪要求決議をつきつけるまでに至ってしまった。 戦後日本は植民地支配と侵略戦争の過去を反省し、民主主義国としての今日の地位を築いた。その歩みについて疑念を抱かせるような言動を、国のトップである首相がするような時代が続いたのだ。 福田首相は所信表明で、こうした疑念を一掃するような歴史認識をはっきり語ってはどうだろうか。 そのうえで、日米関係を基軸としつつ、アジアにも配慮したバランスのとれた外交を組み立てると表明すれば、世界は安心するに違いない。 小泉政権は、対米一辺倒と言われるまでに日米同盟にのめり込んだ。その背景のひとつには、核やミサイルを開発する北朝鮮の脅威があった。 米国との同盟を強め、安定させなければならない。世論の反対を押し切ってイラクに自衛隊を派遣したのも、そうした配慮があったのは間違いないだろう。 その肝心の北朝鮮政策で、米国は対話重視にかじを切り、強硬一本やりできた安倍時代の日本との間にすきま風が吹いている。ここの食い違いは早く修正しておかないと、日米関係がぎくしゃくしたものになる恐れがある。 首相は対話の重要性を主張してきた。拉致問題は大切だが、核やミサイルの脅威が除けるのなら、日本も真剣にその可能性を追求すべきだ。訪米することになれば、そうした姿勢を明確にして北朝鮮への共同歩調を固め直すことだ。 中国へも早い時期に訪問するのがよい。流血の事態になっているミャンマー情勢でともに影響力を発揮するよう求めるなど、二国間だけでなくアジア地域をにらんだ協調関係に広げていってもらいたい。 前首相の突然の辞任による政権交代は日本政治の危機ではあるが、外交を再構築するチャンスでもある。 脱温暖化―「消極派」になっては困るこれでは、日本は温暖化対策で「消極派」のレッテルをはられてしまう。 今週開かれた国連のハイレベル会合は、そんな心配を抱かせた。 二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減を先進国に義務づける京都議定書第1期が12年に終わった後、国際社会はどんな枠組みをつくるのか。それがテーマだった。 先進国の発言は、義務方式に積極的な主張と、各国の自主性を重んじる消極派に大きく色分けされた。積極派は欧州、消極派は米豪、カナダと日本である。そんな構図が定着してしまった。 日本の提唱もあって、世界の温室効果ガス排出を50年までに半減させるという長期目標を真剣に検討することが、今年のG8サミットで合意された。来年は洞爺湖G8サミットがある。日本の環境外交にとって今が最も大切な局面だ。 それにしては、首相特使の森喜朗元首相の演説は物足りなかった。 まず、13年以降の枠組みは「柔軟で多様に」と改めて強調したことだ。京都議定書から抜けた米国や、いまは途上国扱いで義務のない中国やインドを取り込もうとしての「柔軟」「多様」だろうが、その言葉だけでは「義務はイヤ」と受け取られる。せめて、柔軟だが効果の大きい具体案ぐらいは示すべきだった。 環境保護型の製品の関税を各国が削減、撤廃することも提案したが、これにも「自主的に」との条件をつけた。 森元首相は、12月にインドネシアのバリ島で開かれる国連気候変動枠組み条約締約国会議への期待も語らなかった。 今年のG8サミットの成果の一つは、脱温暖化を国連の枠組みで進めると確認したことだ。各国の足並みをそろえるには、国連の下での交渉が欠かせない。日本も「バリで交渉を始めよう」とのメッセージを発すべきだった。 こんなあいまいな姿勢は、日本自身の脱温暖化策が定まっていないからだ。 今回、森元首相が最も力点を置いたのは、省エネルギーなどの技術力が大切だということだ。 だが、技術力を高めるには、後押しする仕組みが要る。そのカギが排出量取引制度だ。CO2などの排出を目標以上に減らせば、その分を枠として売れる。この取引市場をつくるには、まず先進国が削減義務を負い、産業界にも目標値を課すという枠組みが欠かせない。 国だけでなく企業に義務を課すことから逃げている限り、ことは進まない。 今回の会合では、排出量取引に前向きな米カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事も発言し、脱温暖化へ意欲を示した。いつまでも「米国は消極派」の固定観念にとらわれるべきではない。 ワシントンで米政府が主催する会議からバリ島の締約国会議まで、年内は環境外交の機会が相次ぐ。 日本が大きな役割を果たすには、自らの環境政策を固めることが先決だ。 PR情報 |
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