2007年09月28日 更新

【大相撲】17歳力士死亡事件、立件なら時津風親方廃業へ

相撲協会へ謝罪に訪れた時津風親方。硬い表情を崩さなかった(撮影・浅野直哉)

相撲協会へ謝罪に訪れた時津風親方。硬い表情を崩さなかった(撮影・浅野直哉)

 大相撲の時津風部屋の序ノ口力士、時太山(ときたいざん)=当時(17)、本名・斉藤俊さん=が6月に愛知県犬山市で急死した問題で、師匠の時津風親方(57)=元小結双津竜=が27日、日本相撲協会の理事会で謝罪した。自身の去就については明言を避けたが、協会幹部は「立件された場合には進退問題になる」とし、退職または解雇が避けられない状況となった。

 渦中の時津風親方が両国国技館に突然現れた。午後1時すぎ、北の湖理事長(元横綱)、武蔵川事業部長(元横綱三重ノ海)、伊勢ノ海生活指導部長(元関脇藤ノ川)らが待つ協会役員室へ。1時23分には、定例理事会の冒頭で「お騒がせして申し訳ありません」と謝罪した。3時すぎには部屋持ちの親方が集まる師匠会にも出席。お詫び行脚をした親方は「みなさんにご迷惑をおかけしましたから」と話した。

 愛知県警は、斉藤さんが急死した際に、兄弟子らから制裁目的の暴行があったとみている。遺族によると、斉藤さんが死亡した際、時津風部屋が無断で火葬する準備をしていたといい、遺族は暴行行為の痕跡を隠ぺいしようとした可能性を指摘している。調べでは、時津風親方がビール瓶で殴り、兄弟子らに「かわいがってやれ」などと指示したという。県警は、親方や兄弟子を傷害致死や傷害容疑などで立件する方針を固めている。

 時津風親方は、斉藤さんへの暴行を認めているとされ、辞職願を提出するのではとの憶測も飛んだが、この日は相撲協会への謝罪にとどまった。しかし、協会内では厳罰ムードが漂う。北の湖理事長は「捜査結果が出たら、きちんとしたい」と立件された場合の厳罰を示唆。ある幹部は「立件されたら進退問題になる」と廃業が避けられないとの見通しを語った。

 斉藤さんの遺族はこの日午後2時すぎから、都内で記者会見した。遺族に対して時津風親方は「なんとも言いようがありません」とコメントした。“相撲の神様”双葉山が興した名門部屋で起きた不祥事に対し、理事会は捜査の進展を見て処分を決めることを確認。巡業をさぼってサッカーをして2場所出場停止となった横綱朝青龍とは比較にならない厳罰が、双葉山道場の継承者に下される可能性が高まった。

■時津風部屋

 不滅の69連勝を記録した戦前の大横綱、双葉山が現役中に「双葉山道場」として創設。昭和20年の引退後に「時津風部屋」となり、横綱鏡里のほか大内山、北葉山、豊山の3大関を輩出した。時津風親方は日本相撲協会の理事長も務めた。44年に豊山が部屋を継承し、平成10年に協会の理事長に就任。14年に現在の時津風親方が師匠となった。秋場所の番付では幕内時天空、豊ノ島、時津海、十両の霜鳳ら15人の力士が所属している。

★どうなる時津風部屋

 平成14年に元大関豊山の時津風前理事長の定年退職により、現親方が引き継いだ。部屋付きには錦島(元幕内蔵玉錦)、枝川(元幕内蒼樹山)両親方がいる。現親方が辞職の場合、いずれかが継承するのが自然だが、分家独立した湊(元小結豊山)、荒汐(元小結大豊)、式秀(元小結大潮)ら、一門の親方が合併の形で引き継ぐ可能性もある。

■この日の時津風親方

 ▼午後1時 スーツ姿で両国の時津風部屋を出る
 ▼同10分 両国国技館に到着。そのまま北の湖理事長らが待つ役員室へ
 ▼同23分 役員室を出て、理事会が開かれる第2会議室に入る
 ▼同25分 冒頭で謝罪し、会議室を出る
 ▼同30分 再び、一人で役員室に戻り待機
 ▼2時 都内で時太山の父・正人さんが会見
 ▼同40分 役員室を出て、師匠会が開かれる大広間に入る。この際、カメラマンに向かって「みんなに迷惑かけるから来ないでくれ」
 ▼3時10分 理事会終了
 ▼同15分 師匠会開始
 ▼同45分 師匠会終了。車に乗り込む際に「みなさんにご迷惑をかけましたから」などとコメントし、国技館をあとにした

◆板倉宏・日本大学法科大学院教授(刑法)

 「無断で火葬しようとしていたとすると、悪く考えれば証拠を隠そうとしていたことになる。他人の刑事事件で証拠を隠すと証拠隠滅罪になるが、自身の刑事事件では証拠隠滅罪にはならない。しかし情状が悪く、量刑に相当跳ね返ってくる。傷害致死罪は懲役20年以下だが、相場は主犯格で懲役5年ぐらい。隠ぺい工作をしていたことになると、それが7年ぐらいになる可能性がある」

★指導検討委発足

 相撲協会は今回の一件を受け、理事長の発案で「力士指導に関する検討委員会(仮称)」を27日付で発足。委員会は伊勢ノ海生活指導部長(元関脇藤ノ川)、高砂指導普及部長(元大関朝潮)、友綱教習所長(元関脇魁輝)の3理事と、5つある一門の代表者の計8人で構成され、来週早々に3理事が話し合い、方向性を決めるという。伊勢ノ海部長は「53の各部屋で、生活面も含めてどういう指導をしているか把握する必要がある。その上で方針が間違っていれば、正すように指導したり、困ったときにはアドバイスしたりできると思う」と見通しを説明した。

★愛知県警、傷害致死や傷害容疑の適用を検討

 斉藤さんが、愛知県犬山市でけいこ後に急死した問題で、県警捜査一課と犬山署は、制裁目的の暴行があったとして、時津風親方と部屋の兄弟子ら数人を立件する方針を固めている。死因を詳しく特定するため遺体の組織片の鑑定が進められており、その結果とそれぞれの暴行の関与によって、傷害致死や傷害容疑の適用を検討している。

 県警に対し、時津風親方は「ビール瓶で額を殴った」と、兄弟子の1人は「金属バットで殴った」などと、それぞれ暴行の事実を認めている。

 調べでは、兄弟子らは6月26日午前11時ごろ、けいこ場で斉藤さんに暴行を加え、同日午後2時10分ごろ、搬送先の病院で死亡させた疑いが持たれている。県警は斉藤さんが多発外傷性ショックで死亡したとみて、時津風親方や部屋の全力士から事情を聴いていた。