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2007年9月28日

◎金沢・南砺災害協定 「医療圏」構築も検討に値する

 金沢、南砺両市が行政懇談会で合意した災害応援協定の締結が実現すれば、「加賀藩」 という歴史を共通項にした住民交流や広域観光推進から、一歩進んだ地域間連携へと踏み出すことになる。今後の具体的な協議では、災害発生に伴う救急医療体制などもテーマになるとみられるが、これを機に県境を越えた「医療圏」の構築も検討に値するのではないか。

 地域医療計画は都道府県単位でまとめられ、石川、富山県もそれぞれ地理的条件や医療 資源の分布状況などを考慮して二次医療圏を設定しているが、一刻を争う救急患者では県境を越えて搬送した方が望ましいケースもあると思われる。患者本位で考えれば行政の縦割りは意味がなく、県が設定した医療圏とは別に、自治体間の医療連携があれば、全国的に問題となっている患者のたらい回しなどを防止するうえでも二重の備えになる。

 金沢市には金大附属病院や県立中央病院、金沢医療センターなど高度医療を提供できる 施設が集中しており、富山県では「砺波医療圏」に属する南砺市側にとっても住民の医療サービス充実につながるだろう。

 南砺市をはじめ富山県西部には金大附属病院の協力病院がいくつもあり、医師派遣や臨 床研修ですでに交流を持っている。そうした病院間の結び付きを下地にすれば、県境をまたいだ「医療圏」の構築は、両県の調整があるとは言え、決して難しい話ではない。

 金沢、南砺市では「塩硝の道」ツアーや蓮如ゆかりの史跡をめぐる旅など、共通の歴史 を生かした交流が活発化しており、県境を越えた自治体交流のモデルケースと言える。さらに「医療」という生活に密着した分野で連携していけば、地域間のつながりは一層強固なものになるに違いない。

 金沢、南砺市で災害応援協定の締結が具体化したのは、旧福光町時代から定期的な行政 懇談会を重ねてきたことに加え、両地域の交通アクセスが徐々に改善されてきたことも見逃せない。先ごろ開かれた行政懇談会では、山出保金沢市長も両市の救急救命体制の連携に言及したが、そのためには何より増して主要地方道金沢井波線など幹線道路の整備を急がねばならないだろう。

◎緊迫するミャンマー 日本は沈静化に努めたい

 軍事政権の経済政策の失敗から、大半の国民が世界で最も貧しい生活を強いられている といわれるのがミャンマーだ。そのミャンマーで、生活物資が大幅に値上げされ、大衆の困窮を見かねた僧侶による抗議デモが盛り上がり、反政府的な様相を帯びたため軍政当局が弾圧の実力行使に出て、流血事件や大量拘束の事態を招き、先行きが心配されている。

 軍政当局は、民主化を求める最大野党の国民民主連盟(NLD)や民主化運動団体「8 8世代学生グループ」、海外のメディアを含む自由主義の「扇動者」に感化されたデモだと主張している。ミャンマーでは、十九年前に民主化運動が鎮圧され、民主化運動家のアウン・サン・スーチーさんが自宅に軟禁され、解除と軟禁の繰り返しで動けなくなっている。あのときのデモより今回は賢くなっているとの見方もあるが、現段階ではデモが軍政打倒を目指す組織的な動きとはいえないようだ。

 米欧はいち早く反応し、とりわけ米国は「デモ参加者らの声に耳を傾け、政治的自由を 認めるように」と軍政当局に呼び掛け、来週中にも国連安全保障理事会を再開し、軍政に対する制裁決議などの対応を決めたいとする考えを示している。

 米国は同時に「ミャンマーに影響を持つ自由な国」として日本とインドを名指しし、影 響力を行使して軍政当局に冷静な対応を促してほしいと要請している。日本はインドとともに制裁ではなく、国民和解を目指して事態の沈静化を働きかけるのが望ましい。

 日本はスーチーさんの軟禁など民主勢力に対する締め付けを遺憾として、このところ援 助を減らしているが、もともとミャンマーとは友好的であり、今も友好が続いている。ただ、ミャンマーは米欧の制裁を機に、中国寄りの姿勢を強めており、中国もインド洋への出口を求めてミャンマーに近づいている。

 中国は表向きは軍政当局に荒っぽいことをするな、と求めているようだが、さらなる制 裁はミャンマーをより中国寄りにしかねない。それは中国の望むところかもしれない。そうなると、東南アジア諸国連合(ASEAN)のエリアで地政学上の重大な変化を招くことになるのだ。


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