十五年近く前のことなのに、その瞬間はいまだに脳裏に焼きついて離れない。
仕事を終え帰宅しようと、車を走らせた直後だった。暗がりの中、急に視界に人影が入った。慌ててブレーキを踏んだが間に合わず、衝撃とともに男性が路上に倒れこんだ。フロントガラスにはひびが入っていた。雨上がりの夜という細心の注意が必要な状況で、前方の安全確認を怠ったのが原因だった。
男性の生命に別条はなかったものの、一つ間違っていたら、との思いはずっと消えない。夜間にハンドルを握る時は、どうしても慎重になるし、できれば運転を避けたい、と思うことすらある。事故で亡くなったいとこや後輩記者の姿が頭をかすめたりもする。
かつては年間一万人を超えていた全国の交通事故による死者は、近年減少傾向にある。警察庁によると、今年は二十四日現在で四千二十七人と、五十四年ぶりに六千人を下回るペースだという。一方で事故件数や負傷者数は、死者数が最も多かった一九七〇年(一万六千七百六十五人)と比べ大きく増えており、安全な交通環境実現には程遠いのが現状だ。
三十日までの秋の全国交通安全運動に合わせ、岡山県内でも事故防止に向けた県民運動が展開されている。十九日には飲酒運転の罰則を強化した改正道交法も施行された。「取り締まりが増えるから」「法律が厳しくなるから」でなく、事故を起こすとどうなるのかを肝に銘じて、安全運転を心掛けたい。自戒を込めてそう思う。
(社会部・前川真一郎)