顔の病気 悩みを超えて
本で紹介された1人、富山県で暮らす、河除静香さんです。
生まれつき、顔の血管の病気のため、鼻や口が変形しています。
「なんでこんな見た目なんだろう、この見た目でなかったら、うまくいったのか」と、今でも自問自答する河除さん。幼い頃、いじめられることもありましたが、どれだけ嫌なことがあっても学校には通い続けたといいます。
しかし、そんな河除さんも思春期になって、壁にぶつかります。
「高校や短大の時、顔の症状があることで『異性の恋愛対象にならない』ことに悩んだ」と、当時を振り返ります。
それでも河除さんは短大を卒業後、お見合いを決意。しかし、結果は出ませんでした。傷つくことも多かった河除さんですが、あきらめず、ある行動に出ます。
「自分のことをできるだけ知ってもらうために、男の人と一緒に働けるような職場がいいと思って探しました」
自分の“魅力”に気付いて!
河除さんの体験談には、常に前向きな生き方が描かれています。河除さんは26歳の時に、新たに勤めた物流会社で、今の夫と出会い結婚。2人の子どもに恵まれました。
夫の悟さんは…。
「見た目が気になるということは自分の中ではあまり強く思ってなくて、むしろ強い個性の持ち主と思っている」
河除さんは、これからの人生についてこう語っています。
「顔の見た目とか、嫌なこともあるけど。楽しく生きて“あー楽しかったな!いい人生でした!。みたいな感じで終わっていきたいなと」
河除さんからのメッセージです。
『“外見以外の部分で自分には多くの魅力があることに気付く”』
支えになった母親の言葉
本の中で、最も反響が大きかったのは、大学院に通う石田祐貴さんの体験談です。
生まれつき、顔や耳の骨がうまく形成されない「トリーチャーコリンズ症候群」を患っています。幼いころから、心ない言葉を浴びせられてきました。
「気持ち悪い人と関わりたくないよ、みたいな。関わる人なんかいないよとか、関わりたくないみたいな」
両親は石田さんを普通の子と同じように育てます。
プールや遊園地など、積極的に外にも連れ出しました。
「両親も心ない言葉を浴びせられたりしたこともあったでしょうし、周りの視線だって気になってると思うんですけど、『この子は自分たちの子ども、普通に育てる』という信念があった」(石田さん)
石田さんを今でも支えている、母親の言葉があります。自分の顔について、いらだちをぶつけた時に返ってきた、ひと言です。
「私はあなたがこの状態で生まれてよかったと思ってる。それがあなただから」
“変えられること”に目を向ける
高校に入った石田さん。前に踏み出そうと考え、卓球に打ち込みました。これまで避けていた友達とのつきあいも積極的にするよう心がけました。
「変えることができない外見について悩むのではなく、行動を変えていこう」
そう考えるようになってから、1つ1つの出会いが自分を成長させてくれていると石田さんは感じています。
石田さんのメッセージです。
『変えられないことは割り切って“自分の変えられること”に目を向ける』
本の言葉 反響広がる
石田さんの言葉に影響を受けた50代の女性がいます。シングルマザーの杉山恵子さん(仮名)です。
離婚後、身を寄せていた親族から暴力を受け、娘と身を隠しながら暮しています。杉山さんの娘には障害があります。重度の自閉症です。娘とうまくコミュニケーションが取れないことは長年続く悩みです。先が見えない日々に不安を抱える中、ネットで見かけたこの本が気になり手に取りました。
変わらないことよりも“自分の変えられることに目を向ける”という石田さんのメッセージに、大きく心を動かされました。
「悪いほうにばかり目を向けて、そこを叱ったりとか直そうとしてしまった部分があった。障害があったらすべてダメというわけではなくて、その子なりに良いところがたくさんあって、それを伸ばしていきたいと考えるようになった」(杉山さん)
取材の日、杉山さん親子は買い物にでかけました。
これまで無理だと思っていた支払いや袋詰めを体験させてみました。これからは、1つずつ娘ができることを増やしていきたいと考えています。取材の最後に、杉山さんは、こう語ってくれました。
「障害も含めてこの子なので、ささやかな幸せを見つけて生きていく」
生きづらさ 乗り越えるヒントに
この本を企画したNPO「マイフェイス・マイスタイル」は、外見からうまれる、さまざまな問題を解消しようと啓発活動などを行ってきました。今回の本には多くの人から予想を超えた反響が寄せられたといいます。
NPOの外川浩子代表は、本が広く受け入れられた理由をこう分析しています。
「彼らの生き方というのが、見た目に症状がない人たちでも、いろんなコンプレックスとか壁にぶつかったときに、それを乗り越えていくすごく大きなヒントになると思っています。すごく生きづらいと思っている人たちみんな通ずるものがあるのではないか」
“行動すれば道はひらける”
今回の取材で、特に印象的だったのは、石田さんの前向きな生き方でした。石田さんは、自分を変えるためにやれることはすべてやろうと大学時代には、積極的にアルバイトの面接を受けたといいます。コンビニなどの接客業は10社ほど不採用となりましたが、居酒屋やスーパーの調理場の仕事には採用されました。
石田さんは、そうした経験から、「自分に合うこと」と「合わないこと」があり「自分のできること」を伸ばしていこうと“悩み“を“発想の転換”で乗り越えていく考え方を学んだと、話していました。
私たちも悩んだ時やつらい時、どうしても“もう変えられない”ことを悔やんでしまうことが多いと思います。河除さんや石田さんからお話を聞いて、何か壁にぶつかった時には“行動する”のが何より大切だと痛感しました。
“行動すれば必ず道はひらける” ことを改めて学んだような気がします。
- おはよう日本
- 北條泰成 ディレクター