左:ファーストサマーウイカさん(BILLIE IDLE®)、右:藍さん(「ヲタ夫婦」作者)
とつぜん自宅に届いた高額チケット
藍 前回の課金の話で思い出したけど、ヲタ夫は高額なものを買う前に必ず悩むんですよ。私に言ってくる。
ファーストサマーウイカ(以下、ウイカ) 高額っていうのは?
藍 例えば、ウイカさんがいるBILLIE IDLE®のファンクラブの年会費(笑)。
ウイカ たしかに最初は高かった。3万円。
藍 「3万円どうしよう」って相談されて、「いま入る人少ないかもしれないから、認知してくれるかもだし、入っといたら?」って言ったら、ヲタ夫は「お金ないしやめとこうかな」って言うんですよ。なのに、その一週間後くらいにBILLIE IDLE®事務局から小包が届いて(笑)。
ウイカ あれ?
—— 「入ったんかい!」っていう。
藍 同じようなことが何回かあったんですよ。BiSの横浜アリーナの解散ライヴのプレミアムチケットもそうだったし。
—— 10万円の。
藍 「10万円も払えないよ~」って言ってたのに、その一週間後くらいにチケット届いてたし。
詳しいエピソードは、本日公開の最新話でお読みいただけます。
ウイカ 実際には払えないことはないんですよね?
藍 うん。だから、なんで私にそういうアピールをしてくるのかわからないけど、届いたらバレバレなんですよ。
ウイカ 保険かけてるんですよね。はじめから「行く行く! お金使っちゃう!」って言うと心証が悪いからは、まず先に「高いよね……」って言っておく。
—— エクスキューズを一発入れておくと。
藍 悩んだ上であえてお金を消費したっていう感じを出してくるんですよ(笑)。
ウイカ でも、GOする瞬間の相談はないわけですよね。
藍 ないです。だからこれは絶対に今日ネタにしてやろうと思ってたんです。
—— 決断して支払う流れだけ謎に包まれてるのがこわいですね(笑)。
ウイカ 逆に重症なんじゃないかって思えてきた(笑)。
藍 BILLIE IDLE®の小包が届いたときは、「こんなの来たんだけど」って言ったら、「電話したときにウイカさんが出て(※1)、『ちょうどあなたで最後ですよ。』って言われたから、つい」って。
※1 ファンクラブ入会の受け付けは電話のみで、メンバーが電話対応した。
ウイカ 私、それ全員に言ってました。
—— それもひどい!
藍 やっぱり! 絶対みんなに言ってるって思った! ヲタ夫には言わなかったけど(笑)。彼はそういうところチョロいんですよね。素直でいいところでもあるんですけど。
ウイカ チョロいのはヲタクの本質ですね。
藍 たとえば、のんちゃん(※2)のところに握手に行くじゃないですか。握手から帰ってきたあと、ヲタ夫に「のんちゃんとどんなこと話したの?」って聞くと、「『背が高いから、あそこにいたの見えたよ』って言われるんだ」って言ってくるんですけど、聞くたびにいつも同じ答えなんですよね(笑)。
※2 BiSの元メンバーで、現在BILLIE IDLE®メンバーのヒラノノゾミ。ヲタ夫の推し。
ウイカ のんちゃんいつもそれしか言ってないですもん。「見えたよー」つって。でも、毎回それで満足し続けられるのはいいですよね。のんちゃんと挨拶するだけで幸せ、みたいな。エスカレートしていく人もたまにいるので。
藍 与えられた餌で十分に楽しい人なんですよね。
ドルヲタの妻はアイドルに嫉妬するのか?
—— かといって、藍さんには嫉妬心みたいなものもないんですよね?
藍 うーん、ないですね。私は漫画家ですけど、自分も下積み時代が長くて、プロになるまですごく苦労したんです。セクハラ、パワハラ、モラハラとかも一通り経験した。だから、苦労が多いアイドルをやってる子を見ると、嫉妬するよりも頑張ってほしいなと思っちゃうんですよ。
—— 自分の通ってきた境遇と重ね合わせてるところもあると。
藍 そうですね。私も福岡からひとりで上京してきて、友達もいないなかで、なんとかプロとしてやっていくぞと思って生活していたから。特に上京している人は……ウイカさんもそうですよね。人生の勝負の真っ最中じゃないですか。だから大局的には、そういう子を悪くは見れないなっていうのはあるんですよね。
ウイカ 藍さんて、すごく理性的ですね。本能を爆発させたら絶対別れるところなのに。ヲタ夫にも同じだけの理性があれば……。
藍 そういえば、以前ヲタ夫に「僕とTPD(東京パフォーマンスドール)の(小林)晏夕ちゃんどっちが好き?」って聞かれたんですよ。
ウイカ 漫画のなかにありましたね。「晏夕ちゃん」って即答したってやつ。
ヲタ夫婦 第9話「ヲタクにプロポーズは荷が重い」より
藍 そしたらすごい傷ついてて。
ウイカ それがもう狂ってるじゃん(笑)。男性アイドルならまだしも、女の子だし。
藍 そのときは「自分もしてることじゃん、悲しむ権利あるの?」と思ってしまいました(笑)。
ウイカ ポーズじゃないの? 藍さんがバイとかなら、まだわかるけど、本気で悲しんでたらヤバいですよ。その質問してくること自体ちょっと……。「おれと仕事どっちが大事なんだよ」みたいな質問と一緒じゃないですか。
藍 一緒だね。
ウイカ 好きな人がいるから仕事頑張るし、仕事頑張るのは一緒に暮らすためで、全部がリンクしてるわけじゃないですか。それもわからないで、相手を責め立てるのはもう病んでますよ。それか、ただのおバカ(笑)。傍から見るぶんには可愛いですけどね。自分の伴侶だったらって考えると、正直大変だなって思う。
藍 もうヲタ夫に対しては半分教育というか、子育てみたいに思っているところもあります。
アイドルへの「センスのいいプレゼント」とは
—— ヲタ夫がユニクロばかり着るから、藍さんが服を買ってあげたのに、もったいないからって結局ユニクロを着続けるっていうエピソードもいいですよね。
藍 で、アイドルに会うときだけ私が買った服を着たりしてるんです。私の言ったとおりのコーディネートで着てる。
note「藍さんの新作ラボ」より
ウイカ はあ、可愛い! 藍さんはお母さんかよっていう(笑)。ヲタ夫さんは推しに手紙を書いたりとかはないんですか?
藍 書いてるのは見たことないです。
ウイカ 貢いだりは?
藍 それはあるかな。
ウイカ 何をあげてるか知ってます?
藍 そういうのは見せてくれないんですよね。
ウイカ センスよければいいけど、センスが悪かったら介入したいところですよね。
藍 たしかに、センスを人並みにしたいというのはありますね。
ウイカ 私が奥さんだったら、100歩譲って金使うのは許す。でも金使ってダセーもの贈るなって、旦那に言いたい。特にヲタ夫さんは「ヲタ夫婦」で有名人になっちゃったわけだから、ヘタなものをあげられないですよ。
—— あげてる前提で話してますけど(笑)、藍さん的には知らないあいだにモノを貢いでるよりも、推しに手紙を書いてるほうがショックじゃないですか?
藍 うーん……。
ウイカ 手紙は基本、もらうほうは嬉しいですからね。たまに受け止め切れない思いとかもありますけど(笑)。ヲタ夫さんがもし手紙を書いていたら、内容を知りたくはありますよね。のんちゃんにも毎回同じ会話しかしてない彼が、何を書くのか(笑)。
藍 あはは。
ウイカ これだけおまいつ(※3)で、これだけ時間を割いてくれてるんだから、彼はどんな気持ちなんだろうっていう。
※3 「おまえいつもいるな」の略。アイドルイベントやコンサート会場にいつもいる人のことを指す。
藍 ヲタ夫は文章が苦手なんですよね。手紙を書いていたなら、私も逆に読んでみたい(笑)。字もヘタだし。一枚も書けないんじゃないかって疑惑はあります。
ウイカ 思いが溢れすぎて?
藍 いや、単純に理数脳すぎて、文章が書けない(笑)。パソコンのこととか小難しいことはめっちゃ喋れるけど、「ちょっといい感じのお土産を用意しておいて」とかがすっごい苦手で。「お礼状をちょっと入れといて」って言っても、何回も確認しに来て、30分かけて1行書けた、みたいな人だから。
ウイカ そうなんだ。いっそのこと、妻への思いを手紙にしてもらったらどうですか? 書いてもらって、それを漫画にしてほしいな。
藍 私には何も出てこないんじゃないかなー(笑)。そういう人なんですよ。
でも、私もアイドルオタクだし、彼もそうだから、言わなくてもわかる部分は多いかも。今日は結構ノリでおとしめてしまったけど、もう漫画の中の出来事は通り過ぎた話です(笑)。今はヲタ夫も家事ができるようになって、私にも気を遣ってくれるまで成長したので、ヲタ夫婦ともに平和にくらしています。「ヲタ夫婦」でネタにすることを歓迎してくれたヲタ夫には、感謝していますね。
(おわり)
聞き手・構成:南波一海 写真:君島悠