初年度から2,000人を超える生徒が集まった
—— 昨年10月、角川会長となぜN高をつくるのか、というお話をしていただきました。そして、2016年4月にN高が開校し、そこから約1年が経ちましたね。
川上量生(以下、川上) はい、無事開校できてよかったです。高校をつくると決めてから1年半で一気に準備をしたんですよ。新しい学校を設置します、という申請書を出したのが、2015年の3月。そして、正式に認可が降りたのは開校直前の2016年3月でした。
—— それはすごい……。
川上 2015年の9月に学校設置計画の妥当性が認められたので、そこから学生や教員の募集を始めたんです。それでも、開校時点で、1482人の生徒が集まった。2016年度は、途中から入学してきた人も含めて、全部で2257人の生徒が集まりました。
—— それって、初年度としてはすごく多いんじゃないですか? だって、それまで誰にも知られてない学校だったわけですよね。
川上 僕らは、ウェブビジネスの規模と比較してそんなに多いと思っていなかったんですけど、教育関係の人に聞くとものすごい数みたいですね(笑)。いろいろな人に、異例のことだと言われました。
—— N高のことを何から知って応募してくるのでしょうか。やっぱり、ニコニコ動画の会社だから、とか?
川上 いや、ニコニコ動画や生放送のことを知ってる子は多いですけど、N高を知るきっかけがニコニコだという人は、高校1年として入ってきた人のアンケートで16.2%だそうです。
—— 意外と少ないですね! では皆さん、テレビやウェブメディアなど、別のところから知って集まってきているんですね。
川上 この1年で、友達から、親から、そして学校の先生に紹介されたという回答が増えました。最初、学校の先生から、というのはゼロに近かったんですよ。それが今は、約25%が先生からの紹介です。
—— なぜこの1年で風向きが変わったのでしょうか。
川上 それは僕たち、ものすごく真剣にやってますからね。生徒やメディアから、N高の評判を聞く機会が増えたのではないでしょうか。活動実績が増えると、やっぱり学校の先生からの認知も上がります。
これまでの生徒とN高の生徒が違う点
—— N高にはどんな生徒が集まっているんですか?
川上 不登校であった子もそれなりに多いです。でも、想定していたような不登校の子とは違うんですよね。僕らの世代だと、不登校って人と関わらずに自室に引きこもっている、みたいなイメージだったんですけど、N高に来る子はそうじゃない。なかにはそういう子もいますが、大多数は普通の子です。
—— 僕も不登校というと、引きこもりっぽいイメージを持っていました。
川上 N高の設立メンバーには、通信制高校に長らく関わっていた人がいます。その人に聞いたところ、既存の通信制高校の生徒と、N高の生徒はずいぶん違うそうなんです。そのひとつは、明るくて、コミュニケーションが好きな子たちが来ているということ。
—— それって、もともとコミュニケーション能力が高い子が来ているのか、N高がコミュニケーションを促進するような仕組みを用意しているからそうなっているのか、どちらなのでしょう。
川上 僕らとしては、「仕組みがあるからです」と言いたいけれど、それは正直わからないですね(笑)。おそらく、両方の要因が組み合わさっていると思います。集まった生徒のコミュ力がそもそも高い、ということももちろんある。それにプラスして、僕らがN高自体を楽しくして、友達ができるように努力していることも影響しているはず。通信制高校はこれまで、生徒がコミュニケーションする場をあまり与えていなかったんだと思いますよ。スクーリングなどの登校も、高校卒業資格をとるのに必要だから仕方なく行くけど、コミュニケーションを目的としていない。
—— 『ネットの高校、はじめました。』でも紹介されていますが、N高では普段からSlack(スラック)というSNSツールで生徒同士、生徒と教員がコミュニケーションをとっていると。ちゃんとクラスもあって、ホームルームをネット上でやっている。まったく知らない子にスクーリングで初めて会うのではなく、普段からチャットとかしている子に会えるんだから、仲良くなりやすいですよね。
Slackでのホームルームの様子。
川上 通信制高校は、高校卒業資格を取ることが目標で、友達をつくらせようという意識がない学校が多かったんじゃないでしょうか。でも僕としては「友達ができる学校にする」ということを、最初から目標としてもっていたんです。
「全員を救おうとするのはやめよう、と思っていた」
—— どうしてそれを目標としていたんですか?
川上 そもそもN高の企画が始まる初期段階で、「不登校の子たちが心から行きたいと思える学校がない」ということが問題意識としてあったんです。だったら僕らが、第一志望として「行きたい!」と思えて、通っていることを誇りに思える学校をつくろう。そういうところから、始まっているんですよね。生徒であることが誇りに思える高校をイメージした時に、友達ができるっていうのは当たり前だと思ったんですよ。
—— たしかに友達ができる場所であることは、学校の大事な役割ですよね。でも、N高生は毎日校舎に通うわけではないから、ネットで友達ができるような仕組みをいろいろつくった、と。
川上 僕自身は、パソコン通信時代からネットでコミュニケーションをとってきた人間だから、ネットで友達ができるっていうのは当たり前の感覚だったんです。でも、パソコン通信でもネットでも友達ができる人とできない人がいるんですよね。でも、それはそれでいいと思ってたんです。
—— N高生で、ネットで友達ができない子がいてもいいんですか? そこをまた違う仕組みで解決するとか……。
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