WANIMAとヤバTの“身体性”
大谷ノブ彦(以下、大谷) WANIMAは今、ほんとすごいことになってますね。
柴那典(以下、柴) たしかに。今年に入ってからブレイクの規模が増してきた感がありますね。
大谷 地方にDJをしに行くとすごくわかるんですよ。WANIMAをかけたら間違いなくワッと盛り上がる。東京だけじゃなくて、田舎まで届いてる感じがあって。
柴 今年のはじめには彼らが歌ったauの「三太郎シリーズ」のCMソングが、がんがんテレビで流れてました。
大谷 「やってみよう」ですよね。
柴 あの曲、歌い出しからいきなり「正しいより楽しい」「正しいよりおもしろい」じゃないですか。それをみんなが知ってる童謡のメロディーに乗せて歌ったWANIMAと、あれを企画したCMプランナーは、ほんとすごいなって思って。
大谷 我々もそれに近いことをずっと言ってきましたよね。
柴 そうそう。それが今の時代のモードだと思うんです。たとえば宮台真司さんが『正義から享楽へ』という批評集で書いてるのが、まさに「正しいより楽しい」が世界的な潮流になってるという話だったりして。
大谷 なるほど。でも、どうなんですか、柴さん。音楽ジャーナリストとしては、正しいことを言わないでどうすんだ、ってところもあるわけでしょう?
柴 そりゃありますよ。別に楽しけりゃ正しさなんてどうでもいいって思ってるわけじゃなくて。
柴 というより、正しいことを言ってる人、正義感からくる発言って、どうしても独善的な見られ方をするじゃないですか。それよりも楽しさで人を巻き込んでく方がいいとは思っていますね。
大谷 僕らがよく言う「かわいげ」があってほしいってやつですよね。
柴 で、そういうことって、評論で書こうとしたら何万字も書いて示さないといけないところだと思うんです。それを、CMソングだと最初の5秒で言える。それもWANIMAがあの声とあのキャラクターで歌うから説得力がある。
大谷 今それ聞いて思い出したんですけど、僕、『北の国から』が大好きで。『北の国から2002遺言』で、高校生の子が説教されるシーンがあるんですよ。携帯電話のメールに夢中になってる男の子に地井武男さんが「携帯だけでなんとかしようとすんな」みたいなことを言う。僕はそこがすごくイヤだったんですよね。
柴 というと?
大谷 たぶん倉本聰さんはそういうメッセージを伝えたかったんだと思うんですけど、作者が自分の正義をキャラクターに無理やり言わせてるような感じがしちゃったんですよ。それより、田中邦衛さんが演じてる五郎さんの唇の動きとか、あの言い方とか、そういうのを観るだけで「文字だけじゃ伝わらない」っていうのがすっと入ってくるわけじゃないですか。
柴 なるほど。メッセージに身体性が伴っているかどうかが大事だ、と。
ヤバイTシャツ屋さんの大ブレイク
大谷 そういうことを思ったのが、僕が初めてヤバTを観た時で。
柴 ヤバイTシャツ屋さんもここにきて一気にブレイクしてますね。僕らも去年「獄中の木嶋佳苗をトリコにするオシャレなバンドの秘密」でSuchmosと一緒に取り上げましたけど、その頃に比べても全然売れてきてる。
大谷 実はヤバT が一番最初にもらった賞が「出れんの!?サマソニ!?」の大谷ノブ彦賞なんですよ。
柴 それが2015年だから、2年前だ。
大谷 実はその前まで、審査員のみんなが選ぶバンドが一緒になっちゃってたんですよ。クオリティの高い音楽をやってる、総合的に評価しやすいバンドが選ばれてた。でも、そのバンドが実際にサマソニに出て野外で演奏するんですけど、お客さんが寄ってこない。
あれ? 審査員の評価したものに、現場の熱気が伴ってこないぞ、ということを感じるようになって。そこから、僕は芸人だし、ライブの見せ方やバンドの身体性の説得力を評価する役割をやろうかなって思った。それで選んだのがヤバTだったんです。
柴 いわゆる大道芸性で選んだってことですか?
大谷 そうそう。でも実はヤバTの前に一つ布石があって。むすめん。って知ってます? イケメンたちがモーニング娘。の曲にあわせて踊るグループなんですけど、2013 年の「出れんの!? サマソニ!?」ではそいつらに大谷ノブ彦賞をあげたんです。その時はまわりから大反対されたんですけど、直感的にこいつら、ウケるだろうなって思っちゃって。
柴 たしかに音楽性うんぬんじゃ評価しづらいかも。
大谷 でも、この子たちテレビにはまったく出てないですけど、気が付いたら単独でZepp(キャパシティ約2500人)を埋めるくらいの人気になっちゃって。その時に「でれんの!?サマソニ!?」の立ち上げプロデューサーだった人は今、むすめん。の制作やっているんですよ。
柴 へー! すごい。
大谷 やっぱり、格好いいこと、クオリティの高い音楽をやる、っていうのはサマソニの「正しさ」だと思うんです。でも、それがなかなかお客さんに届かないことがあった。そんな時に現れたのがむすめん。であり、ヤバTだったんですよ。
柴 それが2年前のことですよね。そこから今じゃここまでブレイクして、彼らからお礼になんかもらってもいいんじゃないかっていう(笑)。
大谷 もらってない! でも勝手に貸しはあるって思ってる(笑)。
ただ正直、ここまでの人気になるって全然思ってなかったですから、ちょっと驚いてますよね。「あつまれ!パーティーピーポー」をDJでかけたら、もう大合唱が起こる。ちょっとひいちゃうくらい(笑)。
柴 そうなんだ。でもそれ聞いてふと思ったんですけど、今ってひょっとしたら少しずつムードが変わり始めるタイミングなのかもしれない。「正しいより楽しい」っていうテーゼがCMソングでバーンと世の中に示されるくらい大きくなってしまうと、今度は「楽しいだけってバカみたいじゃない?」とか「正しさも必要じゃない?」というアンチテーゼが生まれはじめる。
大谷 なるほど。逆にね。
ヤバTはサザンになれるか
柴 そうなると、ヤバTも今はすごく勢いがあるし、いい時期を過ごしているけど、ここから大変だぞってことになるかもしれない。
大谷 だとすると、そこで大事なのが「泣ける」ってことかもしれないと思うですよ。そういう意味で注目なのが四星球(すーしんちゅう)というコミックバンドで。
柴 彼らは去年の10月にビクターからメジャーデビューしましたしね。
大谷 四星球はもうかれこれ15年以上やってるバンドで、キャッチフレーズが「日本一泣けるコミックバンド」なんですよ。実際ライブ会場でも泣いている人がたくさんいて。
柴 笑ったり泣いたりできるコミックバンドってすごいですよね。
大谷 彼らはおそらくライブをやりながら、「喜ばして笑わせる」ということとは別に、もう一つ感情を揺さぶる方法に気が付いてるんじゃないかなって思ったんです。そして、この「泣ける」というキーワードはヤバTにとっても重要なものになってくるんじゃないかなと。
柴 というと?
大谷 過去の大物がそのルートを辿ってるんです。たとえばサザンオールスターズって、『勝手にシンドバッド』でデビューした当時はいわゆるコミックバンドとしてみんなに認識されてたんです。でも、その後に「いとしのエリー」というど真ん中の泣けるバラード曲がヒットして国民的バンドになった。
サザンはアミューズに所属していますけど、アミューズがサザンの後に当てたバンドが爆風スランプ。これもデビュー当時はコミックバンドですよ。ところが、その後「Runner」や「大きな玉ねぎ下」という名曲を出してヒットした。
柴 なるほど。最初はコミックバンドだけれども、泣ける名曲を出したら、国民的なバンドになる。ということは、ヤバTはデビュー当時の爆風スランプってこと?
大谷 もっというと、『勝手にシンドバッド』時代のサザンオールスターズ。
柴 そう考えるとヤバTはとても大事なターニングポイントに立ってますね。もうすぐ、ものすごい名曲を出しちゃうのか。
大谷 まさにそういうことだと思います。
生活密着型ラウドロックバンドとは
柴 そう考えるとすごくピンとくるんですけど、ヤバTをマネージメントしているのは10-FEETが所属しているBADASSという事務所なんです。
大谷 彼らが10-FEETのこと大好きだからそこを選んだんですよね。
柴 10-FEETは新曲の「ヒトリセカイ」もすごくエモーショナルだし、泣ける曲を沢山持ってるパンクロック界のヒーローみたいなバンドなんですけど、やっぱりおもしろいことの好きな関西人気質なんですよね。だからその後輩としてヤバTがいるとすると、すごく納得がいく。
柴 ちなみに四星球がメジャーデビューすることになったのも、10-FEETのやっている京都大作戦に呼ばれて評判になったのがきっかけだと思っていて。
大谷 間違いなくそうですよね。そこから四星球はポルノ超特急とか、関西のメロコア系のフェスにどんどん呼ばれるようになった。
柴 あと、こういう流れでいうと打首獄門同好会も見逃せない。
大谷 打首ね! 彼ら、最初出てきた時は、マキシムザホルモンのフォロワーみたいなイメージだったんですよ。
柴 たしかに情報量多いところは似てますね。
大谷 でも最近は、いろんなフェスには呼ばれて、動員もすごい伸ばしている。久々にライブに行ったら、食べ物の歌しか歌ってない。
柴 「生活密着型ラウドロックバンド」ってキャッチコピーですからね。
大谷 岩下の新生姜の歌とか、うまい棒の歌だとか、きのこの山とたけのこの里の歌とかね。
柴 そうそう! こないだ栃木にある「岩下の新生姜ミュージアム」に行ったんですけど、あそこにも打首獄門同好会のポスターが貼ってある。こんなタイアップあるんだって思ったり(笑)。
大谷 あははは。彼らのライブは一見さんが見て楽しめるんですよね。オリジナルのVJがいて、歌詞が全部出るし、ヘッドバンキングのタイミングとかも全部出る。
柴 「歯痛くて」もいいですよね。ずっと虫歯のことを歌ってる。サビで「歯いたくて震える」って。
大谷 「会いたくて震える」じゃない(笑)。
柴 これ、おそらく飲み会で「ぎゃはは」って盛り上がったネタが元になってると思うんですよ。でも、それを実際に曲にしてしまうっていうのが、さすが打首獄門同好会だなって。
大谷 で、いまや打首も四星球もヤバTもフェスに引っ張りだこですからね。
柴 でも、だからこそ、今の「正しいより楽しい」の流れはずっと続くわけじゃない、とは思いますけどね。
大谷 なるほどなあ。それは今回柴さんに言われてハッとした。
柴 一つの潮流があまりにも見えすぎちゃうと「あー、このノリね。はいはい、わかった」ってなるんですよ。いろんなブームはそういう風にそっと去っていくんですけど、サザンオールスターズみたいにそのことに気が付いてている人は次の手を打つ。。
大谷 だからマネージメントの力ってすごい大事ですよね。
柴 大事。大事だし、WANIMAも打首獄門同好会もヤバTも、そういう意味で言えば、ちゃんと次に向けた戦略を持ってると思いますね。四星球はちょっとどうなるか分かんないけど。「メジャーデビューというボケ」ってアルバム出しているくらいだし(笑)。
大谷 一枚で契約きれたら、それはそれでネタにしそうだな。
柴 『一枚で契約切られました』って次のアルバムのタイトルになっているかもしれないし(笑)。
大谷 ははははは! 四星球もきっとタフに生き残りますね。
構成:田中うた乃