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“元出演者”としてAV出演強要問題について思うこと【カリスマ男の娘・大島薫】

週刊SPA! 3/27(月) 16:20配信

見た目は美女でも心は男――。「カリスマ男の娘」として人気を博し、過去には男性なのに女優としてAVデビューを果たした大島薫。女性の格好をしたまま暮らす“彼”だからこそ覗ける、世の中のヘンテコな部分とは?

 長らく続くAV強要問題について、政府が動きだそうとしている。

 そもそもこの件の発端は、アダルトビデオ出演を拒否した女性に対して、所属プロダクションが違約金として2460万円の支払いを求めた裁判だ。結果的にそれが、アダルトビデオ業界に存在していた”慣例”を明らかにする形になった。

 内閣府の最近の調査結果も注目を集めている。当初の勧誘や募集に沿って契約まで至った197人のなかで、契約の有無にかかわらず望まない性的撮影をされた女性は73人にものぼるという。

 これに対して当のAV業界関係者の間では「撮影中そんな素振りも見せなかった子ばかりなのに、何を言ってるんだろう?」という反応が多い。

 業界自体の混乱が進む中、とうとう政府は3月21日、首相官邸で関係府省の対策会議を初めて開いたことが、NHKニュースで明らかになった。

 これついて、AV関係者や現役のAV女優などがコメントをすると、たいていが

「強要なんて特殊な例。ほとんどの女優が望んでやっている」

 という話に終始する。

 さて、ボクはこの件についてなんと書こうか。ボクは元AV女優であることを公言している身であり、AV関係の知り合いもいまだに多い。では、AV業界側を擁護してみようか。

 いや、実際のところ、ボクは他と違った視点でこの件を見ている。

◆女性は、男性には見えない「壁」を持っている

 少し話は前後するが、この見た目になって、一つ気付いたことがあった。

 それは女性が女性だけに見せる姿だ。ボクが女装で生活するようになって、初めて女性同士のお泊り会に呼ばれたときのこと。ボクは肉体的にも精神的にも男性なのだが、女性というのは女性の見た目をしていると、親近感があるのかそんなボクでも女性と同じように扱ってくれる(それで困ることもあるが……)。

 さあ、いまからお泊りスタートといったところで、女性たちが突然変化した。髪を乱雑にまとめ上げ、メイクを落とし、あぐらをかき、聞いたこともないような声の低さで話し出す。特に声のほうは衝撃を受けた。例えるなら、「普段のお母さんと、電話に出るときのお母さん」くらい違う。

 ボクは23歳のころまで普通に男性として生活をしてきたが、彼女だろうと仲のいい女友だちだろうと、こんな姿を見せられることはなかった。普段男友だちのように付き合っている女の子が「私って男みたいなもんだからさー!」などと言っていたが、そんな比ではない。

 そこにボクが想像していた女の子はいなかった。

 さて、いま書いているエピソードは、「女性たちは普段男に媚びている」というような話をしようとしているのではない。何度かそういった彼女らの外面と内面の違いを見て、その理由に気付いた。

 これは彼女らが、女性として生きるうちに身に付けた「見えない壁」なのだ。男性がいる場で見せるにこやかな顔、愛嬌のある仕草、高めの声のトーン……そういったもの全てが男に対する防御壁だと感じる。

 女性は男性と話すとき常に身構えているのだ。性的な目線、暴力、威圧。そういったもののリスクを、女性はいつも感じている。それはつまり、基本的に女性らにとって男性が《恐い対象》であることを意味しているといえるかもしれない。

◆誰も強要しなくても、女性の中で強要は進んでいく

 そういう女性の一面を見てきたボクは考える。

 果たして、「強要」というのはどこまでを指すのだろうか、と。

 たしかにAV関係者らが言う通り、借金の形に無理やりAV現場に連れて来られたという強要は「特殊な例」だと思う。そんな大昔のAV業界のようなことは、1件2件くらいあったとしても、正直あり得ない。あれば問答無用で強要といっていいだろう。

 しかし、我々男性は、知らぬ間に女性に何かを「強要」しているときがある。合コンでいい感じになった女性を何時間も口説いてホテルに連れ込んだり、交際を渋っている女性に会うたびにアプローチして付き合うように仕向けたり。もちろん最後にイエスを出すのは女性側だ。これに対して男は強要したつもりなんて、これっぽっちもない。だが、もし仮に女性すべてが男性のことを、《恐い対象》として見ていたとしたらどうだろうか?

 あなたの性別が男性で想像しにくいのならば、身近な恐いもので考えてもらって構わない。ヤクザやイカつい男性に「契約書にサインしてくださいよ~」と言われたとして、必ずしも断りきれるだろうか? そこに恫喝や脅迫の言葉はない。むしろ優しい口調だ。だが、もう、そんな人たちに何かを迫られること自体が、強要だと思うのではなかろうか。

 AVプロダクションもAVメーカーも必死だ。かわいい子が面接にやってきたら、なんとしてでも撮影を組みたい。だから、「どうする? イヤならやめてもいいよ?」なんてことは言わない。だって、営業マンが自分の商品を売り込むときに「いやいや、こんな商品買わなくっていいですよー!」とは言わないだろう。できるだけメリットを伝えるはずだ。それが仕事だし、AV業界の経営努力。何らおかしいことはない。

 しかし、当の女性側から見れば、また違った視点が見えてくる。事務所で見知らぬ男性たちに囲まれて、何時間もAVに出演することを勧められる。AV現場ではちょっとイヤなことがあって監督に相談しても、「ええ! それくらいみんなやってるよ?」と突っぱねられる。誰も強要せずに、彼女の中だけで強要は進んでいく。そんな印象に思えるのではないだろうか。

 最終的にイエスを出したのは、すべて彼女自身だ。この話はどこまでいっても、それを覆すことはできない。しかし、果たしてそれは彼女自身が自ら望んで出したイエスだと言い切れるのだろうか。この問題を見つめるとき、単純なデータや女性の言動をそのまま受け取るのではなく、女性が置かれている《女性という社会》についても考えることが必要だと、女装のボクは思うのだ。

【大島薫】

作家。文筆家。ゲイビデオモデルを経て、一般アダルトビデオ作品にも出演。2016年に引退した後には執筆活動のほか、映画、テレビ、ネットメディアに多数出演する。著書に『大島薫先生が教えるセックスよりも気持ちイイこと』(マイウェイ出版)。大島薫オフィシャルブログ(http://www.diamondblog.jp/official/kaoru_oshima/)。ツイッターアカウントは@Oshima_Kaoru

日刊SPA!

最終更新:3/27(月) 16:20

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