qBizのコラムでおなじみの「今週の『取材中に刺さった』一言」。経済人の印象深い発言を紹介するコーナーだが、“名言”は何も経営トップだけのものではない。前回のサラリーマン編に続き、今回は学生編だ。
⇒【前回】刺さった一言・サラリーマン編 「今、1階にいますっ」
平日昼、福岡市・天神の飲食店。隣のテーブルに座ったスーツ姿の若い男性4人が、食事をしながら議論を始めた。テーマは就職する企業の選び方。大学生で、会社説明会の帰りのようだった。企業のパンフレットをペラペラめくる姿もあった。
「やっぱり自己資本率の高さやろ。40%以上あれば倒産しないらしい」と1人が言った。財務の健全性を示す自己資本比率は、高いほど会社の経営が「安定している」とみられることが背景にあるようだ。
一方で、借り入れを増やして投資に回し成長する企業もあるため、「安定」と「成長」は必ずしも重ならないケースも指摘される。
このためか、他の男性は「売上高の推移」や「将来取り組む事業内容」を挙げた。
男性たちは大学の就職相談窓口やゼミの教授から教えてもらった知識や、友人から聞いた情報を次々に披露。話は次第に熱を帯び、笑いも交えて声のボリュームはだんだん大きくなっていった。
その時だ。これまで黙って聞いていた1人が、話の流れをひっくり返すような発言をした。
「俺はその会社の社員の顔を見るね。さっきブースにいた社員の目、死んでたよ」
彼は会社説明会の様子を振り返っていたようだ。複数の企業が集まる合同説明会だったらしく、三つか四つ企業の出展ブースを回り、社員たちから話を聞いたようだ。
「あの顔、もう完全に疲れ切ってたね。ブラックって顔に書いてあった。あんなとこ入ったら、俺も将来、死んだ目になるかも…」
雄弁に語っていた3人を含め、全員が黙り込んだ。店に流れるBGMがよく聞こえた。
2015年12月。広告大手、電通の新入社員の女性が過労自殺し、16年9月に「労災」と認定された。厚生労働省は違法な残業がはびこっているとみて、本社や出先を強制捜査。社長が今年1月、引責辞任した。
この惨劇に、学生が企業を見る目は厳しくなっているようだ。どんな企業なのか。シェアトップ、売り上げナンバーワン…。数字だけは“一流”でも、その過程が問われている。
18年に卒業する大学3年生などの採用に向けた主要企業の会社説明会が3月1日に解禁され、今年も就職活動が本格的に始まった。
人手不足を背景に学生の売り手市場が続いているとはいえ、就職先によっては、違法な長時間労働を強いられる恐れがあることは否定できない。
既に、過労死防止を求める世論は高まり、政府は残業に上限規制を導入する方向だ。
4人の男性は、それから誰も笑わなくなった。これから自身に降りかかってくるかもしれない大きな不安に覆われていたようにも見えた。
「やりたいこと」や「やりがい」といった前向きな理由で選ばれる企業で当社もありたい。そう思わせられた一言だった。
西日本新聞社