未知の領域に踏み込む英国-メイ首相がEUにきょう離脱を通知
- 英国のEU大使が午後にトゥスクEU大統領に首相の書簡渡す
- 2年間の離脱交渉開始へ、EU拠出金や貿易、移民などで協議難航か
英国は29日、欧州連合(EU)離脱のための2年にわたる交渉プロセスを開始する。離脱は英国にとって最大の貿易相手との関係を再定義するものであり、欧州大陸への政治的統合を深めた数十年の歴史に終止符を打つことになる。
英国のEU大使はブリュッセル時間同日午後1時半(日本時間同8時半)ごろ、トゥスクEU大統領にリスボン条約50条を発動するメイ英首相の署名入り書簡を手渡す。これにより、1973年以来続く英国とEUとの関係はほころび始めることになる。メイ首相は同時刻ごろに議会で演説する。
英国民投票での予想外のEU離脱決定から9カ月が経過した中、複雑な離脱条件を巡り他のEU加盟27カ国との論争が本格化する。EU拠出金や貿易、移民などの分野を巡る協議は難航すると見込まれ、英国とEUの双方に負担となりそうだ。
グローバル・カウンセルのチーフエコノミスト、グレガー・アーウィン氏は「英国の一人芝居から困難な交渉に移りつつある。この過程で多くの番狂わせがあるだろう」と述べた。
メイ首相は2019年3月29日までに移民労働者の管理権限や立法作業の支配権を取り戻し、EUとの新たな自由貿易協定を締結することを目指している。一方のEUは、英国がまず500億ポンド(約6兆9000億円)を支払うよう要求しており、間に合わない場合は広範囲の関税の導入も辞さない構えを見せている。
英首相府によれば、メイ首相は29日の議会演説で、「英国民全員にとって正しい取引をまとめるため断固たる決意で臨む」考えを表明し、「古くからの友好国や世界の新たな同盟国との関係を構築していく真にグローバルな英国での暮らしをわれわれ全員が求めている」との見解を示す。
離脱交渉の背景には、金融センターとしてのロンドンの将来と金融機関流出への懸念がくすぶっている。また、スコットランド議会は28日、英国からの独立の是非を問う住民投票の再実施への支持を決めており、英国が分裂する可能性すらある。
こうした中で進める交渉は、就任後8カ月のメイ首相の手腕を試すものとなる。英国内では、EUとの合意なしで離脱する「ハードブレグジット(強硬離脱)」と、無関税貿易を継続させる「ソフトブレグジット」の2つで意見が割れており、スコットランドや親EU派はソフトブレグジットを望んでいる。
一方、欧州にとっては、英国の離脱はEUの結束を問うものだ。英国が今後EUとまとめる合意は、同国が他の加盟国にとって離脱の先駆者となるか否かを決めかねない。EU当局者らは他国の追随を回避するため、英国が離脱後に従来より好条件を享受できないようにする方針だとしている。
英国とEUは共に対立を避ける必要性を明言している。メイ首相は離脱通知前日に「新しく深い特別なパートナーシップ」について言及し、トゥスク大統領とメルケル独首相、ユンケル欧州委員長に電話。英首相府によると「強いEUが全員の利益であり、英国は今後も親密な友好同盟国」との見解で一致した。ただ、ユンケル委員長は以前に、「極めて困難な」交渉になると予想しており、英国のデービスEU離脱担当相は「史上、最も複雑になり得る交渉」に備えている。
EUのトゥスク大統領は29日午後に記者会見し、EU側の交渉担当者となるミシェル・バルニエ氏向けの大まかな指針を週末までに公表する。各国首脳はこの指針を4月29日の首脳会議まで承認することはない。
原題:Britain Heads Into Unknown as May Signs Brexit Trigger (1)(抜粋)