
最後は神戸のホルモン屋へ
旅の最終日、せっかくなので一人で神戸までやってきた。目指す店は中畑商店。アメ横の軍服屋みたいな名前だがホルモン焼き屋だ。
ここは当初の予定になかったのだが、たまたま出発前に飲み仲間のパリッコさんが、『
大衆酒場ベスト1000』という連載で「完全に実写版「じゃりン子チエ」の世界」と紹介していた店。
もう羨ましすぎて途中からその記事を読むのを我慢して、今この瞬間に至る訳である。おかげで店の場所がわからず迷子になったよ。
住所だとこのあたりだが、休日のためか営業している気配がゼロ。
休日だからなのか、ずっとこうなのか。
昔はチーマーとかもいたであろうセンター街。阪神淡路大震災の影響なのか、取り壊されている建物も多い。
ものすごい遠回りをしてようやく店が営業している一角を発見。
ヤマザキパンの看板が掲げられた駄菓子屋、お好み焼き屋(きっとアントニオの剥製がある)、そしてお目当てのホルモン焼き屋。
ちょっと短いけどチエちゃんっぽさの詰まった商店街だ。
諦めて帰らなくてよかった!
昔はこういう店がこの辺りにたくさんあったのかな。
でました、この旅の最安値ホルモン。その上に書かれている「活気を取り戻したい」という文字が切実だ。
ここだけ現代風。
ここのホルモンは牛の肺
この店はご夫婦で50年に渡って営業しているそうで、ご主人は75歳になるがホルモンを毎日食べているから元気いっぱい。二代、三代と孫の代まで通っているお客さんも多い。
仮に奥さんがチエちゃんだとすれば、働き者の旦那さんと結ばれて神戸に引っ越し、震災などを乗り越えて今に至っている訳だ。あ、妄想だけど涙があふれてきた。
50年後のチエちゃんは神戸にいたのか。ご主人はチエちゃんのおじいさんにちょっと似ているかな。
ここは串に刺したものを鉄板にギュウギュウと押しつけながら焼くスタイルで、肉類はすべて国産牛。牛だけにギュウギュウ。
50円のホルモンは肺を茹でて臭みを抜いたもので、この一番安いホルモンが一番手間が掛かっているそうだ。
アバラ、シンゾー、レバーは100円。そしてこのとき見逃していたミノが200円。この店でミノを頼まなかったことを、いま強く後悔している。
メニューの丁寧な文字がもううまそう。
「押し付ける理由?早く焼きたいだけや」
これが神戸の底力なのか
まずはホルモン2本とアバラ、シンゾー、レバーを1本ずつ。
ご主人が仕込む特製の甘辛い味噌ダレを纏ったホルモンは、クニクニフワフワという独特の食感。肺と聞いて身構えてしまったが臭みはまったくない。
しみじみとうまく、いくらでも食べられそうなホルモン。70本食べる人はザラで100本食べた強者もいるそうだ。100本食べても5000円。
左からアバラ、シンゾー、レバー、ホルモン、ホルモン。このタレが最高なんですよ。
大ぶりなホルモンも嬉しいが、この薄いホルモンもまた魅力的。串に刺さった50円の食べ物では日本一かもしれない。
この店も会計は串の数で計算するのだが、値段の違うホルモンは短くなっている。またホルモンだけネギが挟まっていないのは、「ネギをねぎっとるんや」とのこと。
アバラとはカルビのことで、これが鳥肌が立つほどにうまかった。焼く前のものをみたら見事な霜降り肉で、間に脂身を挟んである。そしてネギがしっかりと付け合せの役目をしてくれる。
これは串に刺した高級焼肉だ。100円だけど。
「この脂がないとおいしくないんや」とご主人。ですよねー。
アバラとホルモンを2本ずつ。
レバーもシンゾーももちろんうまい。全部100点。いやでもアバラとホルモンは120点だな。
この押し付けて焼くスタイル、すっと口に入っていく肉の薄さは酒のアテとして最強の部類かもしれない。これぞ大人の駄菓子。
ネギを頼んだら、これもペチャンコになって出てきた。100点。
この後何回もおかわりをしたのに、なぜミノの存在に気が付かなかったのだろう。この店だったら絶対にうまいはずなのに。
この心残りは、この店でなければ解消できないんだろうな。
店の奥が住居というところがチエちゃんの店と同じなので高ポイント。
子供がホルモンを買いに来た。あれはきっと時を超えたマサルとタカシ。
今まで廻った店にはちょっとずつチエちゃんの要素があり、箇条書きにすれば全要素を集められたような気がするので満足。
そしてなにより、あのホルモンを探すことで普通の観光ではいかないであろう街を歩き、出会わなかったはずの人と話し、初めて食べる味に触れることができたので大満足だ。
さてホルモンの正体とは
このようにして、じゃりン子チエのホルモンを探してみた訳だが、チエちゃんの焼くホルモンは概念としてのホルモンであって、特に正解はないのかなというのが結論だ。ばくだんも然り。
地域や店によってホルモンは違うものだから、あえてぼやかして描くことで、逆に全国の読者が愛着のある身近なホルモンを、そこに投影できたのかもしれない。