妖怪検定の内容、第二弾は「憑きもの」について紹介したいと思います!
紹介したい一冊は、小松和彦『憑霊信仰論』です。
幼い頃(?)台湾で京極夏彦の『姑獲鳥の夏』の翻訳を読みました。台湾に類似する概念がなかったため、ずっと「憑きもの筋」のことを理解できませんでした(…と言っても、取り敢えず「呪われた家の設定」と思って、普通に小説の方を楽しんでいました。傑作です!!!)
その後、ずっと『姑獲鳥の夏』の参考文献として載せられていた『憑霊信仰論』が気になって、日本に来た後、すぐに本屋さんで購入しました。
『憑霊信仰論』は言うまでもなく名著で、優れている書評や感想文も数多くあります。そのため、ここでは妖怪検定に役に立つ、小松先生の本を読みながら私が勝手にまとめた「憑く」の4つの概念について、紹介していきたいと思います。
ⅰ.家に憑く、憑きもの(悪)
「憑きもの」とは、超自然的な「もの」が人、家、土地、動物などに憑いたり、あるいは人に使役されたりすることを指しています。「憑きもの」は民俗学の専門用語で、一般的に使用されている言葉ではありません。日本各地では、「狐持ち」、「犬神筋」など違う語彙が使われています(これも、妖怪検定の中に出てくる様々な項目の原因です!)。家に憑く「もの」は様々ありますが、概ねのパターンはこの感じです。
- 村のある金持ちの家に、〇〇が祀られで、その家は〇〇を使役し、村人の財産や収穫などを盗んだり、気に入った村人に病気をさせたりしました。
- 色々悪い働きをしました。そのため、その家は村八分されていました。
- また、結婚によって〇〇が移る可能性がありますので、その家との結婚はタブー視されました。
(事例は、妖怪検定ノートの項目3から項目6を参照お願いします)
このような「憑きもの」は、戦後の民俗学において一つの重点項目ともいえるぐらい、数多くの研究者が研究してきました。研究が盛んになる原因は、戦後の憑きものにまつわる差別事情が目立つようになってきたことと関連しています。
例えば、速水保孝の『憑きもの持ち迷信: その歴史的考察』の著作中の一段落をここで掲載させて頂きます。
「(略)……これ(犬神)を憑かれぬ為には筋の家の人の履いた草履や草鞋を盗んで来て、一足ずつくくり合わせ、小便所に浸し、これその筋の家の屋根越しに投げるとよいなどという。筋は他人から教えられることがないので大抵自分では知れないが、縁組をする人はない……(略)」
速水保孝、1999(1953)『憑きもの持ち迷信: その歴史的考察』
こうされたら絶対嫌ですね……
今ときの近所トラブルに置き換えて考えても、やはり嫌ですね………
上記のような、憑きものに苦しめられた人々もいましたため、研究者たちは割りと迷信を撲滅する立場を示しました。(ちなみに、上記の引用文献の速水保孝先生は、研究者でありながら、自身も狐持ちの家の出身でしたため、著作の中には、自身の経験、家族の歴史などにまつわる論考も数多くあります。絶版して、入手し難いと思いますが、生の声が聞きたい人ならぜひ!)
非常に乱暴なまとめを言いますと、
憑きもの筋の背景には、村の中の金持ちと小作人たちの間にめぐる経済的な対立、そしてドロドロな嫉妬心が潜んでいました。
そうしたら、経済化、都市化が進んでいくなら、このような差別も徐々に自然消滅していくのでしょう………でも、果たしてそう簡単に消えますか……
そして、今回紹介させていただきました小松和彦『憑霊信仰論』の中では、小松先生は「憑きもの」の概念を「憑霊」に拡大しました。つまり、扱われてきた対象は、単なる忌避される家筋ではなく、「憑く」という状態に着眼し、元々違う分野(例えば、以下のⅱーⅳの方)で扱われてきたものも「憑霊」の範囲内に入れました。
ⅱ家に憑く、憑きもの(良?)
座敷童子のような差別のない事例、家に憑くと金持ちの原因にはなるか、他の人に害を与えられない存在です。
(妖怪検定ノートの項目9の金神などもこの類に属するのでしょう!)
ⅲ.呪術者、霊媒、シャマン
霊を下ろすことができるイタコとか、霊が憑くことによって力を貰える人とか(例えば、妖怪検定ノート項目7 トリダシ を参照!)、超自然的な存在を操作することができる人々の役割も含まれました。
人々の病気を直したり、異常現象の原因を判断したりして、『憑霊信仰論』の中でも、このような宗教者の役割をかなり重要視していました。
ⅳ.普通の人が何かに憑かれた
これは『憑霊信仰論』と関係なく、自分が妖怪検定の対策を考えて勝手に加えたものです。普通の人が普通に憑かれた(?)。
狐、狸とか、猫を殺したせいで猫に憑かれたとか、このタイプの方は、奇妙な声を出したり、奇妙な動きを示したりする。
(例えば、妖怪検定ノート項目1 アゼハシリ を参照!)
そして、動物ではなく、人間性のない「カゼ」、病気になる原因として人々に憑かれる場合もあります。この時は変な言動よりも、むしろ体の不具合が強調されます。
(例えば、妖怪検定ノート項目2 カゼ を参照!)
「憑霊」と関係する妖怪はあまりにも多いので、ここで10個を選んで掲載しました。
出典元は、もちろん、妖怪検定中級のテキスト『日本妖怪大全』です。
繰り返して言いますが、あくまでも自分用のまとめで、妖怪検定中級を受けたい人は、絶・対テキスト『日本妖怪大全』を手元に参照してください!
キャロルの妖怪検定ノート
1.アゼハシリ(頁44)
- 地域::佐賀県
- アゼハシリの意味は、田んぼの畦をはしる動物などに憑くの意味で、動物、特に狐狸の場合が多い。
2.カゼ(頁190)
- 遭うと病気になる
- 地域:九州地方
- 宮崎県:人名の後に付けて呼ぶと、その人に呪いをかける。そして、その人が病死し、更に他人に拡散する場合は、、ウネメカゼ、ゴロカゼと呼びます
- 長崎県五島列島:憑き物のことを言う。憑かれたことを「風を背負う」といいます。佐賀にも同じ伝承があり、風を背負わないようには三度唾をはけば良い。
(憑きものとそんなに関係ないが、類似項目、悪い風 頁789も参照!)
3.ケド(頁285)
- 山陰地方の西に「ケド持ち」と呼ばれる金持ちの家があります。
- その家の稲を盗む人は精神異常になり、ケドに噛まれたといいます。
- 姿形:猫ぐらいの大きさで、黒褐色
4.クダ(頁265)
- 地域:山梨県、長野県、静岡県
- 姿形:モルモットぐらいの大きさ、管に入れて持ち歩けます。
- 信州辺りでは、家に憑くもの・嫁についていく。たちまち75匹まで増えます。
- 管使い:クダを管に入れて持ち歩き操る人。金峰山で修行しました。
- クダショウとも呼ばれます。
(類似項目、江戸の管狐 頁117も参照!)
5.そんずる(頁417)
- 地域:伯耆(鳥取県)
- 姿形:蛇・ミミズようなもの
- 家に憑く。皮膚と肉の間に入って、害をなします。
- 憑かれると人が抜け殻のようになります。
- 病人に『あなたの体はどうでしたか?』と訪ねると、木の陰に憑き物が答えます。
6.ネブッチュウ(頁547)
- 地域:埼玉県秩父地方
- 姿形: 小蛇のようなもの
- 結婚によって、他の家にその蛇はついていきます。
- 山神は時々蛇の姿で表します。
7.トリダシ(頁500)
- 地域:
- 福岡県宗像郡:急に何かに取り憑かれて、今までのない通力を得た人のこと
- 佐賀県東松浦郡:急に神が乗り移る人のことを「トリイザシ」と呼びます。
- 九州や四国において、トリイダシ(地蔵や稲荷などに憑いて人の禍福を予言し、病気を治す)とい占いの一種も関係ある。
- 福岡県のある場所:トリイダシ=野狐使い 、病気治しもやっています。
8.マブイコメ(頁677)
- 地域:沖縄石垣島
- 石で躓いた子どもはぼんおやりの状態になり、母親がそれをユタの所に連れて、石に供物、石を子どもに抱かせる。魂が戻りました。
- この地域(沖縄)の言葉:マブイ(魂)、マブイ落とし(魂が落とす)、マブイコメ(マブイをこめる)。生ちマブイ(生者の霊)、死にマブイ(死者の霊)
9.江戸の金霊(頁116)
- 無欲でいると、埋蔵金の上に立てると気を見分けることができます。
- 上田秋成の『雨月物語』の黄金の精霊と異なるものです。
- 金玉(かねだま)とも言われます。床の間に安置すると、大金持ちになります。
- 正体は、隕石とも言われます。
(類似項目、金霊 頁207も参照!!)
10.座敷童子(頁326)
- 人が寝ている間に枕返したり、寝ている位置を換えたり、音を立てたりします。
- 見知らぬ子どもが家にいて、去るとその家は貧乏になります。
- 岩手遠野土淵村:小学1年生しか見えない小さな子どもが小学校に現れました。
- 様々な種類があります:チョウピラコ(色白くて綺麗)、ウスツキコ・ノタバリコ(種族下等)
今回は日本の憑きものを中心に紹介させていただきましたが、このような人間の嫉妬心、不祥事の原因つけに関して、西洋の魔女狩りにも見られる気がします……
魔女狩りについての記事です。