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デジタルで「聴く読書」 スマホ追い風

「道をひらく」のオーディオブックカード付き書籍を手に「本を聴くという行為を当たり前にしたい」と語る上田渉会長=東京都文京区本郷3のオトバンクで、錦織祐一撮影
オトバンクは社内に自前のスタジオも備え、迅速な音声化を可能にしている=東京都文京区本郷3の同社で、錦織祐一撮影

 本を「聴いて」みませんか--。書籍をプロが朗読し録音した音声コンテンツ「オーディオブック」が見直されている。おなじみのカセットテープやCDではなく、デジタルコンテンツとしてインターネットで配信され、購入や持ち運びが格段に手軽になったことが背景にある。スマートフォンの普及も追い風となり、通勤電車の中やランニング中、また育児や家事でまとまった読書時間が取れない人たちにも「聴く読書」が浸透中だ。

     オーディオブックのネット配信はアマゾンの「Audible(オーディブル)」やアップルの「iTunes(アイチューンズ)」などが手掛けているが、国内最大手は「オトバンク」(東京都文京区)が運営するサイト「FeBe(フィービー)」(https://www.febe.jp/)。2007年1月の開設以来、業績を伸ばしている。これまでに出版社450社と提携して1万9000点を音声化。会員は今月で20万人を超えた。

     創業者の上田渉会長(36)によると、オーディオブックは1970年代の米国で普及した。車社会だけに長距離ドライブの間、本を朗読したカセットを聴く文化が定着したという。「日本では電車通勤が多いためカセットを何本も持ち歩くのは不便だし、ラインアップも文学作品が多く、サラリーマンには普及しなかったのでは」と分析する。

     その日本で上田会長がオーディオブックに目をつけたのは、本好きの祖父が緑内障で失明したことがきっかけだった。「祖父の書斎には大量の蔵書があった。緑内障の進行で視力が落ちても、大きな虫眼鏡で一生けんめい、本と格闘していたのを見て『何とかしてあげたい』と思っていました」(上田会長)。同じ境遇にある人たちのためにオーディオブックを普及させたいと、東京大経済学部に在学中の2004年、国内では珍しいオーディオブックに特化した「オトバンク」を創業した。

     ラインアップはビジネスパーソンを意識してビジネス書や実用書を多く導入。「嫌われる勇気」「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」などの人気作をそろえた。ビジネス書に続いて「火花」「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」などの文芸作品にもジャンルを拡大。ベストセラーを素早く商品化するため、録音スタジオを社内に備える。毎月約400点の新商品のうち半数は自社制作だという。

     最近のヒットは、松下電器産業(現パナソニック)創業者の故・松下幸之助の名著「道をひらく」だ。ハリウッド映画の吹き替えで知られる声優の大塚明夫さんが全121編を朗読。すべて聴くと4時間かかる大作だが、2月の発売以来、FeBeのダウンロード数ランキングでは3週連続で1位を記録した。活字版にオーディオブックをダウンロードできるカードが付録としてついた書籍(PHP研究所、1620円)も刊行した。

     同書の音声化を提案した同社の佐伯帆乃香さん(24)は「濃厚な経験を重ねてきた松下幸之助さんが考える人生のエッセンスがたくさん詰まっている。大事なことがシンプルに書かれているので、どの年代の誰が読んでも響く言葉がある」と話す。

     オーディオブックを8年間使っているという横浜市のシステムエンジニア、北真也さん(34)は、通勤途中やランニング中に聴くほか、「疲れ果てて本を読む気になれない時」など毎日2時間以上利用している。

     「体系的に書かれたことを理解するには活字の方が優れているが、オーディオブックは繰り返し聞き直すことが苦痛ではないので、何度も何度も聴き込んで自分の中に内容を染み込ませるという使い方には向いている」と北さん。

     オトバンクの上田会長は「まだ米国に比べて市場規模が小さく、認知度も低いが、これからはスマホとともにさらに普及が進み、『本を聴く』という行為が当たり前になっていく。オーディオブックを生活の一部にしたい」と話している。【錦織祐一/デジタル報道センター】

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