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三越伊勢丹 突然の社長辞任が示すもの

大手デパートを運営する「三越伊勢丹ホールディングス」は、3月7日、任期途中の大西洋社長の辞任を発表しました。さらに、石塚邦雄会長も6月に予定されている株主総会で退任するとしています。
9年前、老舗の「三越」とファッション性の高い「伊勢丹」が経営統合して誕生した国内最大のデパートグループ。かじ取りを担ってきた2人の突然の退任は何を意味するのか。苦境に立つ“デパートの雄”の裏側を取材しました。
(経済部 長野幸代記者)

最大手デパートが騒然 “事実上の解任”

「事実上の解任劇」の動きが表面化したのは3月4日の午後でした。
大西社長によると、定例の経営会議のあと、石塚会長から「今月いっぱいで身を引いてほしい」と告げられたというのです。

大西社長自身は、現在進めているビジネスモデルの改革が軌道にのるまでは、社長を続ける意向でしたが、強く辞任を求められたため、その場で了承したといいます。

そして3日後、本社で開かれた取締役会では、全会一致で辞任が決まり、後任には杉江俊彦専務執行役員が就任することになりました。

発表文に記された社長交代の理由は「経営体制の一新により、更なる企業価値向上を図っていく」だけでした。

会社はこのとき、厳しい業績の続く地方や郊外の店舗の在り方を見直す経営計画の策定を進めていて、大事な時期でした。いったい何が起きているのか。従業員は動揺し、統合前の旧「三越」と旧「伊勢丹」による対立かという臆測も流れました。

2人の経営トップ

大西社長は経営統合前の伊勢丹に入社し、当時のデパート業界では傍流と言われた紳士服担当を長く務めました。

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その大西社長が一躍注目を集めたのが、新宿本店の「メンズ館」のリニューアルです。品ぞろえだけでなく、売り場の内装の見直しなども主導し、若い男性を中心とした新たな顧客層を獲得するなど、成功を収めました。こうした実績を買われ、伊勢丹と三越の経営統合後、平成24年に三越伊勢丹ホールディングスの社長に就任しました。去年からは業界の顔とも言える日本百貨店協会の会長も務めていました。

一方、石塚邦雄会長は平成17年に業績が低迷していた三越の社長に就任。郊外型のショッピングセンターに出店するなど、これまでのデパートにない戦略で名門復活に取り組みました。さらに、伊勢丹との経営統合に踏み切り、三越伊勢丹ホールディングスの初代社長に就任しました。

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石塚氏(左)と大西氏(右)2011年

2人は、富裕層に強い老舗の三越と、最先端のファッションを提供する伊勢丹という、カラーの違う2つの会社の融和を進め、売り上げの低迷が続くデパート業界で収益力の強化に取り組んできました。

東京都心にある旗艦店の大規模な改装や、商品力をいかした小型の店舗の出店拡大。そして、飲食やブライダル事業にも参入し、エステや旅行会社など異業種も買収して事業の多角化を進めました。デパートの売り上げ回復に加えて、新たな収益の柱を作ろうとした大西社長を石塚会長も支持し、二人三脚で経営のかじ取りを進めてきた、はずでした。

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三越伊勢丹の化粧品専門店

亀裂はいつから?

2人の間に亀裂が入ったきっかけの1つとされているのが、去年11月の中間決算の記者会見です。この会見で大西社長は、業績を支えてきた“爆買い”の失速に伴い、採算のとれない地方や郊外の店舗の売り場面積の縮小や業態転換などを検討することを明らかにしました。

ここまでは機関決定された方針でしたが、大西社長は、発表予定になかった具体的な店舗名をあげたのです。背景には、地方店の改革がなかなか進まないことへの焦りがあり、店舗名を明らかにすることで、現場の協力を期待したと言います。

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しかし、現場の反応は逆でした。

複数の関係者によりますと会見の2か月前、千葉市と東京・多摩市にある三越の店舗の閉鎖を発表していたこともあり、三越の店舗の従業員は「なぜ三越ばかり」という不満が、そして伊勢丹の従業員には「次は自分たちの店舗が閉鎖するのではないか」という不安が広がったというのです。会見で名前のあがった店舗には、「閉鎖するのではないか」という不安に駆られた取引先からの問い合わせが殺到したということです。

さらに異業種の買収など、経営の多角化の成果があがらないことへの経営幹部、OBなどの批判もあったと言います。記者会見をきっかけに大西社長への不満や不信感が一気に広がり、石塚会長が辞任を迫ることになったと見られています。

大西社長はNHKの取材に対して、「今後もデパート業界は縮小に向かうと思うので、成長に向けた種まきをしなければいけないと思ってやってきた。今でもやってきたことは間違ったとは思っていないが、結果として成果に結びつかず、評価されなかった。これを機会に現場の若い人たちがお客さまのことを第一に考えて今までどおり仕事をして、三越伊勢丹が成長していくことを望んでいる」と話しています。

一方、辞任を迫った石塚会長も、大西社長を支えてきた自身にも経営責任があるとして、ことし6月に予定されている株主総会で退任することを明らかにしています。ただ、今回の騒動後、会見などには出席していません。

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三越伊勢丹の構造改革は急速だった?

社内で不満が広がったという店舗の閉鎖などの改革。三越伊勢丹の取り組みは急進的だったのでしょうか。

デパート業界では、専門店やネット通販などとの競争の激化で、去年の売り上げは36年ぶりに6兆円を割り込み、ピーク時の6割程度にとどまっています。
このため、高島屋や大丸松坂屋を運営する「J.フロント リテイリング」は、低価格を売りにする衣料品や家電などの専門店をテナントとして積極的に誘致しています。J.フロント リテイリングは、東京・銀座の店舗の建て替えにあたって、「銀座ではこれまでのデパートのビジネスモデルは通用しない」として、従来のデパートの売り場は設けず、テナントだけの商業施設も4月にオープンします。

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松坂屋銀座店跡に完成した複合商業施設

「そごう・西武」はこの5年間で、地方の7店舗を閉鎖しました。

小売業界に詳しい野村証券のアナリストの正田雅史さんは、「大西社長が進めようとしていたことは他社がすでに進めていることで、三越伊勢丹では先送りにされていたものだ。業績が悪化する中で、やらなくてはいけないことを一気に進めようとしたことが今回の事態の背景にあるのではないか」と話してきます。

混乱の三越伊勢丹 今後のかじ取りは?

「基本的な経営方針の方向性は大西社長と変わらない」。
大西社長の辞任発表から6日後の3月13日、三越伊勢丹の次の社長に就任する杉江俊彦専務執行役員が記者会見を開きました。会見では、地方店の在り方の見直しなど、改革を引き続き進めることを繰り返し強調しました。

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一方で、2つの点で大西社長との違いを打ち出しました。
1つは社員との対話です。
杉江次期社長は「大西社長は社員とのコミュニケーションが不足していたのではないか」と振り返り、「新しい経営体制では役員や中間管理職を含めた従業員との対話、コミュニケーションを重視していく」と述べました。

もう1つは、「構造改革」と「成長戦略」のどちらを優先させるかという点です。「大西社長は、成長戦略を先に進めながら構造改革をするという考え方。私は、構造改革を先にやって、要員などが多少生まれたあとに、その要員を成長戦略に活用するという考え方だ」と述べました。

ほかのデパートが先行するテナントの導入、不動産会社との店舗の共同開発を検討し、自社が関わる売り場を減らすなどして、生まれた要員で成長戦略につながる新たなビジネスに挑戦するというのです。

杉江次期社長は、ことし5月をめどに新たな経営計画をまとめる考えです。

三越伊勢丹の2トップの退任は、売り上げの不振が続く中でも、長年培ってきた商売のやり方をスピード感を持って変えることができない現状を、浮き彫りにしました。
杉江次期社長には、2トップの突然退任による社内の混乱を収束し、改革を着実に実行することができるのか、早速、経営手腕が問われることになります。

長野幸代
経済部
長野幸代 記者