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メシ通 Produced by RECRUIT

食のこだわりと食欲を満たすためのWebマガジン

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久住昌之さんに聞いてみた。「イイお店、どうやって探せばいいですか?」【野武士のグルメ】

東京 居酒屋 居酒屋系おつまみ インタビュー 鈴木長月 久住昌之 Pickup

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定年退職によって時間とお金を自由に使えるようになった主人公が、心のうちに潜む自由で粗野な“野武士”とともに、好きなものを、好きなときに、好きなように食していくさまを描いた人気コミック『野武士のグルメ』(原作:久住昌之/漫画:土山しげる)が、このほどNetflixのオリジナルドラマとして実写化される。

 

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▲主演はもちろん、前回インタビューにもご登場いただいた竹中直人さん

 

そんなわけで、『メシ通』では、3月17日の全世界同時配信にあわせ、特別インタビューを敢行。

第2弾の今回は、ドラマの舞台ともなった新宿・歌舞伎町のホルモン焼肉店「幸永」に原作者・久住昌之さんを迎え、いわゆる“メシもの”ブームの火つけ役ともなったご本人の心境から、昨今の“検索文化”に対する思いまでを、率直な言葉で語ってもらった。

 

食べることの滑稽さを描く

── 人気シリーズとなった『孤独のグルメ』に続き、今回こうして『野武士のグルメ』もドラマ化されたわけですが、原作者としてこの“久住人気”をどうご覧になっていますか?

 

いやぁ、別になんとも思いません。そもそも『孤独のグルメ』を書いたのは、僕がまだ30代の頃。30年前に人気になっていたらいろいろ考えたんだろうけど、今は遠くから静かに見ている感じです。

 

── 見方を変えれば「時代が追いついた」と、とらえることもできますよね。

 

そう言っちゃうと、いかにも前を走っているみたいだけど、僕の感覚からすると、横でマイペースに走っていた僕のほうを、時代がたまたまチラッと見ただけ。「一貫してる」って言えば聞こえはいいけど、ワンパターンの極みです。ずっと同じこと書いてる。

 

── たしかに、タイトルには『グルメ』とついていても、久住さんの作品はいわゆる“グルメもの”とはずいぶん趣も違います。

 

昔あった、いわゆる“グルメブーム”を「嫌だな」「ウザいな」と思っていた人たちに「そうじゃない方向性で食べものについて描いてほしい」って言われて描いたのが『孤独のグルメ』だったわけだし、そのスタンス自体は今もまったく変わっていない。実際問題、僕にとっての食べものの話っていうのは、“下ネタ”に対する“上ネタ”だと思っています。

 

── それは「性欲」に対する「食欲」という意味で?

 

いや、食べ物に対するウンコって意味だけど(笑)でも性欲とも言えます。グルメとかなんとか言っても、元は食欲って、欲だからね。欲望はあんまりむき出しにすると恥ずかしいでしょ(笑)下も上も。よく人気の飲食店のまえに長蛇の列ができていたりするのを見かけるけど、同じ欲という本能から見たら、人気の風俗店に並んでるのと同じかもしれない。そしたら急に恥ずかしくなる、そんな恥ずかしさが僕の食マンガの底にいつもあるんです。

 

── となると、“上ネタ”に過ぎない食べものを、さも上等なものであるかのように扱うことへのアンチテーゼみたいなものも、ご自身のなかにはあるのでしょうか?

 

それはない。「アンチ」嫌い(笑)。「アンチグルメ」とかくくっちゃうと、自分を縛ることになるし、悪口っぽいし、なんか卑屈だし、面白くない。強いて言うなら「アンチ=反」ではなく「非グルメ」。僕が描いているのは、人がものを食べることの滑稽さだけだから、人と戦う理屈はいらない。孤独、なんです(笑)。

 

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▲ドラマにも登場する「幸永」で焼肉を楽しむ久住さん

 

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イイ店よりも自分好みかどうか

── 実在の店舗を取材される際には、決めごとなどがあったりしますか?

 

だから決めごとはしない(笑)決めごとは理屈。ただ、一生懸命歩くだけ。たとえば「方南町って行ったことないな」と思ったら、すぐ行く。そして歩く。そうすると「なんでこんなに古い八百屋さんがいっぱいあるんだろう」とか、思ってもいなかった街の顔に出会う。「旅」なんです。そしてその旅先で、お腹をすかして、入るべき店を必死で探す。僕の目的はあくまで、おもしろい漫画を描くことだから「ウマそうだと思って入ったらマズかった」っていうのも、それはそういうドラマなんです。その時は悔しいけど(笑)。

 

── スマホで検索すれば、さまざまな情報を得られるご時世だからこそ、あえて歩くと。

 

もちろん、効率よくおいしいものを食べたいと思ったら、検索するのが普通です。でも、それだとドラマが見つかりにくいんです。僕は自分の勘だけを頼りに、入るお店を決め、そのお店のメニューを全部よく見て、何を食べるべきか一生懸命考えるんです。それが僕の仕事だから。結局、オリジナルな面白いものを作ろうと思えば、自分で苦労をする以外にはない。いい店が見つからなかったら「ハイ次!」です。

 

── ちなみに、久住さんの目には、何でもかんでもスグに調べて出てきちゃう昨今の「検索文化」どう映っていますか?

 

まぁ、それも時代だよね。老人が若者に対して「刺青なんか入れて!」とか「男がピアスして!」とかって言うのと同じで、やだと思っても言わない(笑)。ただ、グルメサイトのレビューなんかを見ていると「失礼だなぁ」と思う書きこみもずいぶんある。たった一度行っただけなのに、なんでそんなにエラそうにお店の料理の悪口書けるんだろう、と腹が立つ。だからそういうのも見ない(笑)。

 

── 自分が気に入ったお店であれば、第三者の評価は関係ないですしね。

 

そうだね。情報だけに頼らないで、自分の頭で考えて、お店を選んでっていうのを重ねていくと、「ウマい店」がわかるようになるのではなくて、自分はどういう店や味が好きなのかがわかってくる。失敗や成功を繰り返してわかるのは、「自分の好み」。それがわかってくると、他人が付けた点数がどうだとか、星がいくつかだとか、どうでもよくなる。

 

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▲「おいしい」という“評判”より「自分の好みかどうか」が大事

 

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面倒くささをいとわない心意気

── ところで、『野武士のグルメ』や『孤独のグルメ』は、舞台となっているのが実在のお店です。裏をかえせば、さきほど指摘のあった「失礼な」書きこみにさらされるリスクもあるということですよね。

 

実は『孤独のグルメ』がドラマになるときに、いちばん心配したのもそこだったんです。でも、「シーズン1」が終わって、特典映像のために「その後」を撮影しに、各店舗に行ったら、「大変でしたよー」って言いながらも、みなさん笑って迎えてくださってね。「嫌なお客さんとかいなかったですか?」って聞いたら、「みなさん、すごく静かな人ばかりで」って(笑)。それはすごくうれしかったですね。 

 

── お客さんも、ドラマのように心の声で味わっていたわけですね(笑)。ちなみに、今日の撮影は『野武士のグルメ』にも登場するお店でやっているわけですが、ロケ地選びには久住さんの意向も?

 

そこはまったくノータッチです。『孤独のグルメ』をやって、みんなが作品の世界観をすごく大事にしてくれているっていうのはすごく伝わってきたし、今回に関してもその同じスタッフがやることなので、基本は信頼しているし、なにも言いません。こっちが「よく読みこんでるなぁ」って感心するぐらい、それらしいお店をちゃんと選んでくれていますしね。

 

── 「丁寧に作りこんであるなぁ」というのは、拝見していても伝わってきます。

 

『孤独のグルメ』や、今回の『野武士のグルメ』は、実在の店を使いながら、店主役にはわざわざ役者を立てるし、主人公がその場にいるのに、大半はモノローグでしゃべらせる。映像化された僕の作品が「おもしろい」と言ってもらえている背景には、そうやってすごく面倒くさいことをしてまで作ってるからじゃないか、と個人的には思ってます。今テレビってそこまでしないでしょ?

 

── とはいえ、こうまで人気が出てしまうと、お店に行きづらくなったりもするのでは?

 

ですね。このあいだ博多に行ったときも4軒行って、4軒とも顔バレして……。正直、あんなコーナー(ドラマ『孤独のグルメ』終了後に放送される「ふらっとQusumi」)出るんじゃなかったとは思ってますよ。どうせなら、そこもヒゲでメガネの誰か別人を立てて「久住昌之」ってことにして出てもらえばよかったって(笑)。ボクはタレントではないんで、顔を売る仕事でないんです。人知れず静かに取材して、仕事場に戻って一生懸命お話を作って、それを楽しんでもらう仕事なんですよ。困ったもんです(笑)。

 

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【久住昌之】

1958年7月15日、東京都生まれ。81年に、泉晴紀氏との共同ペンネーム『泉昌之』として、『月刊漫画ガロ』にて漫画家デビュー。99年には、実弟・久住卓也氏とのユニット『Q.B.B.』名義で発表した『中学生日記』が、第45回文藝春秋漫画賞を受賞した。漫画家、漫画原作者はもとより、エッセイスト、装丁家、ミュージシャンなど多彩な活動でも知られる。

 

【作品情報】

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ドラマ『野武士のグルメ』2017年3月17日、Netflixにて全世界同時配信!

※本記事は2017年3月の情報です。

 

撮影協力:幸永西武新宿

インタビュー撮影:石川真魚

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

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