「SNS検索で学生の名前がないと不信感」投稿で大騒動
就活中には様々な情報が飛び交い、学生は右往左往することになります。
3月9日、ある学生がTwitterで以下の投稿をしました。
今日人事の人と話してたら「エントリーしてきた大学生の名前を検索してFacebook等でマズい書き込みしてないか確認してるけど、今どきの大学生で実名で検索してSNSが何も出てこないと逆に不信感持つ」という話を聞かされて「なんて時代なんだ……」とその場で頭抱えそうになりました
これが、3月13日21時現在、1万7463件のリツイート、9790件の「いいね」を集めることに。
まとめサイトができたほか、キャリコネニュース、JCASTニュースでも記事となりました。
学生からすれば、もし、この投稿が事実であれば、実名でFacebookなどSNSをしなければならないのか、と考え込んでしまうところでしょう。
2000年代前半から学生のSNS炎上が就活に影響
学生がろくでもないことをして(あるいはコメントをして)炎上する、それが就活にも影響する騒動はインターネット利用が進んだ2000年代前半から頻発しています。
私も本や記事で何度もネタにしました。
とある女子学生がディズニーランドに高校生料金で入場したことを自慢して、結果、銀行の内定辞退に追い込まれた騒動もありました。
こうした騒動が毎年のように起こった結果、一時、企業側が学生のSNSについて警戒心を強めたのは事実です。
が、こうした騒動がピークだったのは2000年代後半から2012年ごろくらいではないでしょうか。
そして、ピークの時でさえ、企業側が学生のSNSをすべて監視していたか、と言えばそんなことはありません。
選考の中盤から後半にかけて、どんな学生か知りたい、という素朴な疑問からちょっと見る程度、という採用担当者が大半でした。
匿名利用は採用担当者なら知っているはずだが
現在では、学生も、ただでさえ親世代とのやり取りが面倒などの理由も相まって、SNSは実名ではなく匿名でするのが主流となっています。
総務省「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究」(平成27年)によると、20代以下のSNS利用は次のようになっています。
LINE 62.8%(うち実名66.9%)
Twitter 52.8%(うち実名18.0%)
Facebook 49.3%(うち実名83.2%)
mixi 22.5%(うち実名20.0%)
Instagram 16.0%(うち実名34.4%)
Facebook、LINE以外は実名利用が40%を割っています。学生がもっとも使うLINEですら実名利用率は66.9%。
学生のSNS利用は匿名が主流という話は採用担当者なら大半の方がご存知のはず。わざわざ総務省データを持ってくる必要などありません。
当然ながら、学生がSNSを匿名で利用していたところで不信感を持つ採用担当者などごく少数です。
採用担当者が気にするのは内定者SNS
採用担当者が学生の書き込みを気にするとすれば、内定を出した後に一部企業が導入している内定者SNSでしょう。
内定者SNSを運営するガイアックスの佐原資寛・エアリー事業部長はこう説明します。
「弊社の内定者SNSを導入していただく企業の方からは、学生の書き込みの量などから、内定辞退をしそうな学生が判明しやすい、との感想をよくいただきます」
確かに内定をもらいながら入社意欲の低い学生は、内定者SNSに参加しようとしないのは道理です。
「ただ、最近は学生の売り手市場を反映してか、少し変化もしています。内定辞退が出るのを見越して追加採用のための説明会開催の論拠として、SNSへの参加意欲を示して上司を説得する材料に使う企業も増えています」(佐原事業部長)
一個人の感想が就活論になる「就活老害」
では、Twitterに投稿した学生に「匿名だと不信感がある」とした採用担当者は、なぜそんなことを言ったのでしょうか。
考えられるのは、学生のSNS利用をきちんと理解していない可能性です。
過去に頻発した学生のSNS炎上騒動を現在進行形のものとみている、まさか匿名でやっているとは思わなかった…。
こうしたことが相まって、「実名でやっていなければ不信感」との発言につながった可能性は高い、と私は考えます。
ま、こういうSNSを含め学生のサブカルチャーを把握していない社会人というのは結構います。
まあ、日々の仕事に追われて学生のサブカルチャーなど、業務内容か身内が関わっていない限り、知ったことではない、という事情もあります。
知っていたとしても、うろ覚えとか。
2017年3月現在、NTTドコモの「ドコモ、得ダネ」シリーズで「アヤノサンドロス?」編が流れています。
堤真一:来てるよな~。アヤノサンドロス。
高畑充希:アヤノサンドロス?
堤:知らないのか?アヤノサンドロス。学生に大人気だぞ。
高畑:それ、アレキサンドロスです。
堤:え?
(綾野剛、会社に戻る)
高畑:あ、アヤノサンドロス。
堤:おう、お疲れサンドロス。
綾野:はい?
うろ覚え、というのはこういうことです。
これが、バンド名を間違えた、という程度であれば、かわいいものです。
あるいは、後輩社会人へのアドバイスでも、聞く方は「多くの意見、アドバイスのうちの一つ」ととらえます。
が、こと、就活生に対しての就活のアドバイス、となるとそうはいきません。
単なる一個人の感想だったとしても、就活生はそれを絶対的なもの、ととらえてしまいます。
私はこれを「就活老害」と名付けています。
「就活老害」のリスク
「就活老害」が怖いのは、学生に間違ったメッセージを発信。
それを真に受けてしまうところです。
話す社会人の方は、悪意があるわけではありません。善意で話しているだけです。
ところが、その就活アドバイスは古い価値観、古い情報、あるいはごく狭い範囲の話に基づくものだった場合、どうでしょうか。
学生は有効なアドバイス、と勘違いして真に受けてしまいます。
結果、就活で苦戦する、という罠。
・いまどき、エントリーシートは手書きにする意味がない。そんな企業は相手にしなくていい。
・志望動機こそがっちり書くべき。他はどうでもいい。
・箇条書きや見出しなどを駆使して読みやすくすべき。
・「盛る」ことで見栄えよくした方がいい。
・アルバイトやサークルなどはありきたりだからやめた方がいい。
・グループディスカッションは司会が有利。
冒頭のもの以外は全部、ウソ。
エントリーシートも、IT業界などはオンライン化が進んでいます。一方、商社やメーカーの一部では、あえて手書きにすることで学生に負荷をかけて人物を推しはかろうとしています。
それを一方的に決めつける社会人はそこそこいます。
こういうのも「就活老害」なわけで。
マスコミも「就活老害」記事を出すケースあり
「就活老害」は学生と接する社会人だけではありません。
マスコミだって同様です。
3月13日発売の「AERA」2017年3月20日号には「学生は面接でこんなに『盛って』いる」記事がその好例です。
記事の内容趣旨としては、
「学生は1回戦敗退を『ベスト4』と書くなど、自分の実績を大げさにアピールする(盛る)。学生も悪びれる様子はなく、企業側も同様、としており、困ったものだ」
というもの(詳しくは記事をどうぞ)。
これが大外れ記事、とまでは言いません。
が、学生の「盛る」という話、2000年代どころか1990年代からずっと言われていることです。
「AERA」含め雑誌でも散々出ているネタで、私が「AERA」編集部に出入りしていた2003年~2007年ごろか、その前後に私か、私以外の記者がこのネタを記事にしていたような気がします。
しかも、ちょっと調べれば、
「学生の『盛る』話をいかに外すか、素の姿を見ようとする」
という企業側の方針が主流となっていることはわかるはず。
まあ、その程度のことも調べていなかったのでしょう、この「AERA」記事を書かれた方は。
「盛る」ネタという古い話を持ち出すあたり、これも「就活老害」の典型、と私は考えます。
誰でも「就活老害」のリスクはある?
と、ここまでお読みいただいた読者の方は、
「だったら、お前はどうなんだ」
と思うことでしょう。
大丈夫、私だって例外ではなく、「就活老害の記事を書いている」と批判されることは十分あり得ます。
それに単に批判だけでなく、当たっている可能性もあります。
私としては「就活老害」のリスクを減らすために取材を重ねているわけです。
就活は大学受験のように制度が確定しているものではありません。毎年のように、働き方や学生の志向も含めて変化している、生き物のようなものです。
去年まで通用した話が今年は通用しない、と言うことだって十分あり得ます。
就活について、常に最新の事情を、それもあらゆる業界、あらゆる規模の企業について把握し続けるのはほぼ不可能と言えるでしょう。
つまり、「就活老害」は社会人ならだれでも持ち得るリスク、と言えます。
学生は「就活老害」のリスクとどう向き合う?
では、学生は「就活老害」のリスクとどう向き合えばいいのでしょうか?
答えは簡単です。複数の社会人の話を聞くこと。それから、鵜呑みにするのではなく、と言って、冷笑するのでも絶望するのでもなく、複数の話から自分なりに判断していくことです。
「様々な社会人の話を聞くことで、誰が正しいか、ではなく、自分にとっての最善の解は何か、それを考えてください」
アイデム(JOBRASS)の担当者は就活イベント・セミナーのたびによくこう話します。
私はこれが「就活老害」リスクの最善の対応方法と考えます。
ゼロにすることは不可能でしょう。
それから、社会人の話を聞かないで就活を進めるのもどうか、と思います。
それよりは「就活老害」のリスクがあることを承知のうえで自分なりに判断していく。それが就活だけでなく就活以後の社会人生活でも欠かせない判断能力を高めていくのではないでしょうか。
「SNS実名」騒動から、そんなことをちょっと考えた次第です。(石渡嶺司)
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