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 先日、NHKの『ガッテン!』という番組を見ていたら、虫垂炎(いわゆる「盲腸」)の手術をした人は大腸がんになりやすい、という研究が紹介されていました。

 

 番組サイトから放送内容の一部を紹介します。

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2015年に発表された研究で、「盲腸」で手術をした人7万人以上と、手術をしていない人およそ30万人を14年間近く調べたところ、手術をした人はその後1年半~3年半の間、2.1倍ほど大腸がんになりやすいという結果が示されました【※】。

【※】リスクが上がったのは、手術後3年半までです。その後は、手術をした人としない人で大腸がんのリスクは変わらなくなりました。

【参考文献】 Association between Appendectomy and Subsequent Colorectal Cancer Development:An Asian Population Study Shih-Chi Wu et al. PLoS One. 2015 Feb 24;10(2)

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http://www9.nhk.or.jp/gatten/articles/20170308/index.html?c=health別ウインドウで開きます

 虫垂は役に立たない痕跡器官(進化の過程で機能を失い、跡だけが残っている器官)だと思われがちですが、実は免疫に関係する器官であることは昔から知られてきました。虫垂を切除された人は、自己免疫が関係する潰瘍(かいよう)性大腸炎という病気になりにくいという話もあるぐらいです( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27338627別ウインドウで開きます )。

 がんも免疫が関係する病気ですので、虫垂切除によって大腸がんのリスクが上がるというのはありそうな話です。番組のサイトに示されていた参考文献を読んでみました( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25710790別ウインドウで開きます )。

 2015年に発表された台湾のコホート研究です。コホート研究は先週にご紹介しましたね。虫垂切除と大腸がんの関係を調べたいなら、「虫垂切除した人の集団から起きる大腸がんの数」と、「虫垂切除をしていない人の集団から起きる大腸がんの数」を比較します。

 台湾では医療情報は政府によって一元管理され、データベース化されているそうです。この研究では1997年から1999年までに虫垂を切除された75979人(虫垂切除した人の集団)と、年齢・性別・生活習慣病・住居地などの条件を合わせた対照303640人(虫垂切除をしていない人の集団)とが比較されました。大腸がんの発症は、虫垂切除から1.5年目から数え始めました。「大腸がんが原因で虫垂炎にかかった」とか、「虫垂炎がきっかけで虫垂と無関係の大腸がんが偶然に発見された」とかいう事例が混じらないようにです。

 結果は、14年間のうち、虫垂切除群で375人、対照群で1303人の大腸がんが発生しました。1万人・1年あたりの発症率では、虫垂切除群で4.35、対照群で3.81です(計算が合わないように見えるのは途中の脱落例などのためです)。言い換えれば、虫垂切除された1万人を1年間観察すると大腸がんになる人は4.35人である一方で、虫垂を切除されていない1万人は3.81人しか大腸がんになりません。比で言うと、虫垂を切除すると、切除しない場合と比較して、1.14倍大腸がんになりやすいと言えます。

 これは14年間の数字です。虫垂を切除して1.5年~3.5年の2年間に限ると、虫垂を切除すると2.13倍大腸がんになりやすいと言えます。1万人・1年間あたりの発症率では、虫垂切除群で5.52、対照群で2.60です。グラフのほうがわかりやすいでしょう。論文から累積発症率のグラフを引用します。グラフでは、比較開始から2年目(虫垂切除からは3.5年目)までで差が付き、3.5年目以降はそれ以上は差が広がらないように見えます。

写真・図版

 

 著者らは、虫垂は善玉細菌の「隠れ家」になっており、虫垂切除によってその機能が失われ大腸がんになりやすくなるのではないか、という仮説を示唆しています。虫垂切除から時間が経つにつれて大腸がん発症リスクの差がなくなってくるのは、腸内細菌のバランスが元に戻るためかもしれません。

 虫垂切除が大腸がんのリスクを上げるというのは、現時点では確定した学説ではありません。スウェーデンでも約48万人を対象にしたコホート研究が行われています( https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26959234別ウインドウで開きます )。しかし、スウェーデンの研究では虫垂切除と大腸がんの関係は認められませんでした。研究によって結論が食い違うことはよくあります。台湾とスウェーデンでは食生活や遺伝的背景が異なるからかもしれません。あるいは、何らかの偏りをきたす要因がどちらかの研究にあるのかもしれません。

 

 いずれにせよ、虫垂が何らかの役割を果たしていることは確かです。「虫垂切除は大腸がんのリスクを増やす可能性があるので、やたらと切除しないほうがいいだろう」ぐらいは言えます。虫垂を切除したら、その後の数年間はとくに大腸がんに注意しましょう。ただ、番組内でも指摘されていましたが、虫垂炎はときには命に関わる病気ですので、医師から手術が必要だと言われたら従ってください。

 

<アピタル:内科医・酒井健司の医心電信・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/sakai/(アピタル・酒井健司)

アピタル・酒井健司

アピタル・酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。