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コラム

疑問だらけの「お産のカリスマ」 大葉ナナコ氏の発信を読んでみた

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疑問だらけの「お産のカリスマ」 大葉ナナコ氏の発信を読んでみた

キッチンでおとなしくしているかと思えば…

 先日は「 「誕生学」に疑問 生きづらさを抱える子を追い詰めるのはやめて! 」という記事で、「公益社団法人誕生学協会」なる団体が行っている「生まれてきたことが うれ しくなると未来が楽しくなる」という教育について批判したところ、かなりの反響がありました。すると、いわゆる「いのちの教育」だけでなく、同団体の代表である大葉ナナコ氏が「自然出産」を礼賛し、書籍などで勧めていることも問題であるという声が寄せられたので、そちらについても触れてみたいと思います。

 大葉ナナコ氏は医療系の国家資格は持っていないようですが、「バースコーディネーター」という職業を自分で作り、5人の子供を出産したことから、出産に関する発言が一部の層に説得力を持っているようです。

出産のメカニズム、理解していますか?

 大葉氏は『体と心にやさしいナチュラルなお産』(アスペクト)、『妊婦のための安産バイブル』(主婦の友社)など出産に関する本を多数出版していますが、主張としては医療の関与を好まず、自宅や助産院での出産を勧めるものです。

 大葉氏は「産む場所」にこだわりを持っており、著書にも「緊張する環境にいる妊婦にはストレスがかかり、お産の進行に影響を与えることもあります」「昨今、『産む場所の選択』がお産の質に影響を与えるといわれるのは、妊婦の感情や気持ちは環境に大きく影響されるためです」(『命を授かり、育む喜び―知っておきたい女性のからだ 妊娠・出産のしくみ セルフケア術 (10代の生き方ヒント (3))』栄光、より)と書かれています。

 しかし、産む環境がどう影響するかについては、リラックスできることが大事ということしか書かれておらず、生理的な出産のメカニズムには理解が乏しいことが見て取れます。赤ちゃんが頭蓋骨を重ね合わせながら体を回旋させて下りてくることを「生命の持つ芸術」「 人智じんち を超えた『命の神秘』」と表現していますが、骨盤の関節や骨盤底筋が十分に動く姿勢や呼吸法で出産すれば、赤ちゃんは回旋する必要なくまっすぐに生まれてくるので、芸術や神秘ではありません。

 誰もが、医療介入を必要とせず母子ともに健康に 経腟分娩けいちつぶんべん を終えられるわけではないので、自然出産をあまりにも礼賛されると悲しい気持ちになる人もいることは容易に想像できます。大葉氏は帝王切開で分娩する人に「帝王切開が必要なら“自然帝王切開”ととらえて」(「妊婦のための安産バイブル」より)と語りかけます。著書の前後の文章をよく読んでも「自然帝王切開」なる造語の意味が理解できませんが、おそらく、帝王切開をした人をフォローしようとしているのでしょう。しかし、自然出産をあれだけ礼賛する人にこのようにフォローされても救われるどころか余計にモヤモヤする人が多いのではないでしょうか。

「5人の出産経験」は、何の根拠にもなりません

 本当に枚挙にいとまがないほどなのですが、大葉氏は、無痛分娩の赤ちゃんは不機嫌なことが多い、とか、初体験の早い子は夕飯を一人で食べているという共通点がある、など個人の印象を超えた偏見ともいえる発言が多く、看過すべきではないと感じました。

 大葉氏の著書の編集を担当した女性から「5人産んでいるというのが説得力がある」という意見を聞いたことがありますが、周産期医療の専門家でなくとも5件だけではお産の何たるかを知るには少なすぎるということはわかると思います。出産に関する偏った意見を根拠のあるものだとまちがえないよう、読者のみなさまも注意してくださると幸いです。

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、性科学者。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)について、詳しくはこちら

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