営利目的で子ども紹介か あっせん団体元理事ら逮捕

営利目的で子ども紹介か あっせん団体元理事ら逮捕
k10010903401_201703081824_201703081843.mp4
千葉県にあった特別養子縁組のあっせん団体の元理事ら2人が、営利目的で子どもを紹介したとして、児童福祉法違反の疑いで警察に逮捕されました。縁組を希望する夫婦から200万円余りを受け取っていて、警察は、この一部が利益にあたると見て、あっせんの実態を調べています。調べに対し2人のうち1人は容疑を否認しているということです。
逮捕されたのは、千葉県四街道市にあった特別養子縁組をあっせんする団体「赤ちゃんの未来を救う会」の元理事で実質的な運営者、上谷清志容疑者(35)と、元代表理事の伊勢田裕容疑者(32)です。

警察によりますと、2人は、特別養子縁組を希望する東京都内の夫婦に、営利目的で子どもを紹介したとして、児童福祉法違反の疑いが持たれています。

この団体は、千葉県から事業停止命令を受け、去年11月に事業の廃止届けを出していて、上谷容疑者は那覇市にいるところを、伊勢田容疑者は札幌市にいるところを逮捕されました。

これまでの調べで、2人は優先的に赤ちゃんを紹介すると言って、夫婦から合わせて225万円を受け取ったということで、警察は、この一部が利益にあたると見て、あっせんの実態を調べています。

警察の調べに対し上谷容疑者は容疑を認めたうえで、「自分の収入も増やせると思った」と供述し、伊勢田容疑者は「あっせんに必要な実費だった」と供述し、容疑を否認しているということです。

団体の活動と主張

上谷清志容疑者(35)は、逮捕前、NHKの取材に対し、営利目的で子どもを紹介したことを認めたうえで、「悪いことをしているとは思わない」などと主張していました。

上谷容疑者は、去年11月、千葉県四街道市にあった団体の事務所でNHKの取材に応じました。

この中で特別養子縁組を希望した夫婦に「金を支払えば、優先順位2番目で子どもを紹介する」と持ちかけて、合わせて225万円を受け取ったと説明しました。

これについて上谷容疑者は、あっせんのための実費も含まれているものの、営利目的でもあったと認めたうえで、「法律に違反すると言われればそうだと思うが、悪いことだとは思わない」と主張していました。

この団体は、おととし、インターネット上に「特別養子縁組を支援する」として、ホームページを開設し、去年5月、千葉県にあっせんの事業の届け出をしたということです。

ホームページでは、子どもを育てられない母親に「1人で悩まずにお気軽にご相談下さい」と呼びかけるとともに、「非営利目的で活動しています。活動費用は実費の負担をお願いしています。金銭的に親身にサポートします」などと記されていました。

厚生労働省は、特別養子縁組のあっせん団体が、受け取ることができる金銭は、活動の実費以下に限るとしています。

これに対して上谷容疑者は、「実費だけでは赤字になる。会がつぶれると赤ちゃんも不利益を被る。お金をしっかり取っていくという形がベストだと思う」と主張するとともに、「縁組をあっせんする団体があると知り、自分ならもっと金を集められると思った」と話していました。

子どもを出産した女性は

今回の事件で元理事ら2人が営利目的で紹介したとされる子どもを出産した女性は、NHKの取材に対し、いったんは児童相談所などを通じた特別養子縁組を考えたものの、さまざまな事情から断念し、この団体にあっせんを依頼するしかなかったとしています。

この女性は、「出産前、児童相談所など公的機関に特別養子縁組の相談をしましたが、その後、子どもの将来を考えるなどして断念しました」と説明しました。

そして女性は、特別養子縁組をあっせんする団体をインターネットで探して相談したものの、希望や条件に合う団体が見つからず、この団体にたどりつき、依頼したということです。

女性は団体側から「健康な子どもでないと困る」と言われたということで、上谷容疑者と面会して説明を受けた女性の母親は「この団体はおかしいのではないか」と話したということです。

しかし女性は「この団体にあっせんを依頼するしかありませんでした。ただ団体には、自分がどんな思いで特別養子縁組を選んだのか、察してほしかったです」としています。

また「日本は養子縁組に閉鎖的だという印象です。養子に出す母親や縁組を希望する夫婦に寛大であってほしいと思います」と訴えています。

養子縁組希望の夫婦は

今回の事件で団体に対して養子を紹介してほしいと希望した東京都内の夫婦は「お金を支払ったのに、結局は養子を迎えることができず、憤りを感じています」と話しているということです。

夫婦の代理人をつとめる弁護士によりますと、夫婦は、不妊治療を続けても子どもができなかったため、特別養子縁組で養子を迎えたいと希望し、自治体や複数のあっせん団体に申し出ましたが、夫の年齢を理由に断られ続けたということです。

このため夫婦は、インターネットで「赤ちゃんの未来を救う会」のホームページを見つけて上谷容疑者ら団体側に連絡したところ、「金を振り込めば、日本人の子どもを紹介できる可能性が高い」と、持ちかけられたということです。

夫婦は2回にわたって合わせて225万円を支払い、いったんは赤ちゃんを迎えましたが、その後、弁護士のもとに実の母親から「特別養子縁組についての最終的な意思確認を団体側から受けていない」と連絡があり、赤ちゃんは実の母親の元に戻り、支払った金は戻らなかったということです。

夫婦は、団体と上谷容疑者ら2人に対し、600万円余りの損害賠償を求める訴えを起こしています。

弁護士によりますと、夫婦は「どうしても子どもがほしくて、いろいろなところを頼り、ようやく見つけたのがこの団体でした。少なくないお金を支払ったのに、結局は養子を迎えることができず、団体には憤りを感じています」と話しているということです。

特別養子縁組をめぐる議論

特別養子縁組は原則6歳未満の子どもと血縁関係のない大人が、裁判所の許可を得て法律上の親子関係を結ぶ昭和62年に設けられた制度で、去年3月までの1年間には、全国で467件が成立しています。

あっせんを行っているのは一部の児童相談所や民間団体で、人身売買につながるおそれがあるとして、営利目的のあっせんは法律で禁じられ、受け取ることができるのは手続きにかかる費用や人件費などの実費に限られています。

ところが、実費の明確な基準はなく、4年前には、東京のあっせん団体が一律に120万円を受け取っていたことが明らかになり、東京都から業務を改善するよう指導を受けました。

こうした状況を受けて去年12月、あっせん事業をそれまでの届け出制から、都道府県などの許可制にしたうえで、手数料の内訳の説明や事業計画の公表を事業者に義務づける法律が新たに成立し、厚生労働省が来年12月までの施行に向けて、手数料の具体的な基準などの検討を進めています。

さらに虐待や経済的な理由などで児童養護施設に預けられている子どもが、おととし10月時点でおよそ2万8000人となる中、厚生労働省は家庭的な環境で生活するのが望ましいとして、特別養子縁組を推進させる方針を打ち出し、現在、対象年齢としている「6歳未満」を、引き上げることを検討しています。

その一方であっせん事業を行っているNPOなどは、利益を禁じている今の制度では運営費を寄付で賄う必要があることや、育ての親について要件などが決まっておらず、業者によっては、不適切な縁組が行われかねないと指摘し、制度の普及に向けて財政支援やルール作りを急ぐよう訴えています。

専門家「チェック体制強化を」

特別養子縁組に関する厚生労働省の専門家会議の委員を務める日本女子大学人間社会学部の林浩康教授は今回の事件について、「あっせん業者の人件費などの基準が決められておらず、金額が業者によってあいまいなのが問題だ。国は縁組を希望する人との金銭のやり取りを含め、具体的なルール作りを急ぐ必要がある」と指摘しています。

そのうえで「より多くの金銭を支払った人が優先されてしまうと、子どもがお金を生み出す商品として扱われてしまいかねない。国は公的な財政支援をする一方であっせん業者へのチェック体制を強化すべきだ」と話しています。