原著論文
Hoso, M. (2017) Open Access
ナメクジ食のタイワンセダカヘビ(Pareas formosensis; 左下)と、カタツムリ・ナメクジ食のタイヤルセダカヘビ(P. atayal; 右上)。
「歯の数は、左右だいたい同じである」。脊椎動物にあまねく当てはまるこの法則には、ひとつの例外が知られています。東南アジアに広く生息する、セダカヘビ科のヘビ類の下顎に生える歯です。左右同数ではない歯の並び(歯列非対称性)は、右巻きのカタツムリを専ら食べるという、セダカヘビ類の特異な食性に対応して進化してきました(図1; Hoso et al., 2007)。しかし、歯列非対称性の程度は一様ではなく、種や地域ごとにずいぶんと異なっています。1種だけ知られる左右差のないセダカヘビがナメクジ食だとされていることから、歯列非対称性の違いはセダカヘビ類の中での食性の違い、特にナメクジへの依存度の違いを反映しているのではないかと予想されていました。 そこで私は、この仮説を検証するため、いずれも台湾に生息するタイワンセダカヘビ(Pareas formosensis、以下タイワン)とタイヤルセダカヘビ(P. atayal、以下タイヤル)の2種を対象に、エサの好みと歯列非対称性の関係を調査しました。 図1.左側面(上)と断面から見た右側面(下)のCT画像。2種とも右の歯が多い。歯の隙間に浮かぶように見えるのは生え変わりを待っていた歯。
まず、実験の結果、タイワンはナメクジしか食べないということがわかりました(図2)※1。いっぽうでタイヤルは、これまでに調べられてきた他の多くのセダカヘビ類と同様に、カタツムリも食べるということが確認されました。 図2.脱皮後3日間にそのエサ動物を1匹でも食べたヘビ個体の割合。
次に、半径4km以内という非常に狭い地域※2で採集された両種の標本を調査した結果、タイワンではタイヤルに比べて歯列非対称性が小さく、左右対称に近づいていることがわかりました(図3および図4; 図1も参照)。なお、歯の本数や非対称性の程度は体長と無関係で、ほぼ生まれつきのものであることが他種で示唆されていましたが(Hoso et al., 2007)、今回、より強い証拠をもって確認されました。 図3.歯の本数における種間差。色は種を、円の大きさは個体数をそれぞれ表わす。斜線は左右同数になる位置を示す。右19左15で両種それぞれ1個体が重複している。左の歯の数が種間で大きく異なる※3。
図4.左右差を指数に変換し、箱ひげ図で要約したもの。どちらの種でもあきらかに右が多い(タイワンでは右19.1 ± 1.1・左15.8 ± 1.0、タイヤルでは右20.1 ± 1.1・左13.6 ± 1.0)が、種間差も統計的にあきらか。非対称性指数は (右-左)×100/(右+左) で算出する。0だと左右対称。
タイワンとタイヤルは台湾北部で広域にわたって共存しています。これまで両者は、共通のエサを巡って競争する関係にあると考えられてきました。今回、少なくともエサの選好性に違いが見られたことから、両者は野生下で多少なりとも異なる獲物を襲って食べていると考えられました。この違いにより両者の共存が容易になっている可能性があります。またタイワンで歯列非対称性の程度が低下しているのは、非対称な歯列を持つ必要のないナメクジ食に食性が傾いていることと整合性のある結果です※4。セダカヘビ類の種間や地域間に見られる歯列非対称性の違いは、きっと、各種が各地で食べている獲物の違いを反映しているのでしょう。歯並びの多様性は、食の多様性の表れだと言えるかもしれません。
備考 この論文は、台湾・八重山地域のセダカヘビ類とカタツムリ類をめぐる、進化の物語のごく一部です。全てをまとめ上げるには時間がかかるので、ひとまずこの部品だけで発表することにしました。データの集計開始からたったの一週間で書き上げたというのは、自己最短記録です。 Acknowledgments. -- This work was supported by the Hakubi Center for Advanced Research of Kyoto University, JSPS KAKENHI Grant Numbers 26711024, 26650131, and 26291080, and the Narishige Zoological Science Award. There was no additional external funding received for this study. |