日本の女性はなぜ「東京タラレバ娘」と「逃げ恥」が好きなのか

日本ではドラマ「東京タラレバ娘」と「逃げ恥」が人気ですが、海外経験豊富な元国連専門機関職員の@May_Roma (めいろま)さんは、両作品の人気はとても日本的な現象だと述べます。

日本ではこのところ「東京タラレバ娘」と「逃げ恥」が大人気なようですね。

私はどちらもコミックスを読み、ドラマも一部みました。アラサー、アラフォーの女性たちの焦る心理がよく描けており、物語としてもなかなか面白かったです。

しかし、両作品が人気になるというのは、とても日本的な現象だとも感じました。

両作品が人気な理由は、キャラクター達の置かれた立場や考え方に共感する人が多いからでしょう。

「タラレバ娘」は仕事は東京で脚本家やネイリストといった華やかな仕事をし、経済的にも自立している30代の女性達が主人公。「いい男がいない」と嘆いているばかりで、結婚願望はあるがなかなかうまく行きません。

「逃げ恥」は、大学院まででたものの、文系なので新卒で正社員就職は失敗、派遣社員になるものの派遣切りで失業。仕方なく家政婦の仕事を始めるが、世間体を気にして契約でウソの結婚をする20代女性が主人公です。

今の若い日本の女性の置かれた立場を凝縮したような設定ですが、彼女たちは同じことで悩んでいます。

それは、日本社会における「あるべき姿」に自分が当てはまらないことです。女は若くなければならない、正社員でなければならない、適齢期で結婚しなければならない、専業主婦が勝ち組、夫はこうでなければならない。当てはまらないことで苦悩し、自尊心がズタズタになっている。

21世紀に教育を受け、自由な環境で生きているはずなのに、そういう封建主義を思い起こさせるような「あるべき姿」にとらわれているのです。

些細な事で自分と人を比較し、「私はダメだ」と落ち込んでしまう。両作品には「人は人よ」と我道を行く女性はでてきません。人と自分の比較に大変な時間を費やし、あるべき姿に自分を当てはめることに大変な努力をしています。

私は日本と欧州と往復して暮らしていますが、現実の世界の日本女性達も、両作品のキャラクターたちと同じです。

自分が他人にどう映るか、人はどう思うか、そればかり気にしているので、服装や持ち物に大変な気を使っている。靴も化粧ポーチもピカピカで、床にカバンを置く人はいません。ボサボサの頭で買い物に行く人も電車に乗る人もいません。

PTAや公園デビューの人間関係に気を使い、誰さんに何を言われたと些細なことを気に病んでいる。そうしていないと仲間はずれになったり、悪口をいわれるという制裁を受けるからなのでしょう。街はハイテクであっても、人々の頭の中は江戸時代のような封建主義で、相互監視の目に溢れているのです。

しかし女性達自身の不幸なところは、そういう封建主義的な「あるべき姿」を押し付けられることが、自然で当たり前なことだと思いこんでいることです。

両作品に共感する人が多いということは、そういう押しつけの中で苦悩するのが当たり前だと考えている人が多いからです。これはおかしい、こんなことは気にしなくていいのだ、私は自分の好きな様に生きるんですとは考えない。

まるで自分自身を牢獄に押し込めるように、自分自身に「あるべき姿」を押し付けて、何か違うロールモデルを求めようとはしないのです。

「タラレバ娘」も「逃げ恥」に登場する女性達は、男性を記号としてみています。「イケメン」「低収入」「高収入」「失業者」。

その人の性格や面白さ、自分のパートナーになるか、そういうことよりも、まずは記号としての存在を重要視してしまう。それは、自分達も「若い」「独身」「おばさん」という記号でみられることを肯定することであり、自らを自虐的な意味でも記号化してしまう。「あるべき姿」にとらわれているから、自分を記号化し、他人も記号化する。記号化することで、人生を自由に楽しむ機会を自ら奪っているのです。

イギリスでは、「タラレバ娘」や「逃げ恥」のようなドラマが放送されたら、日本の様に共感する人は多くはないでしょう。

「タラレバ娘」の場合。自分のことを棚に上げて良い男性がいないと嘆く女性をみても、面白いと感じる人は少ないです。そういう女性は自分勝手で嫌な人だと思われるだけで、漫画やドラマであっても面白いとは思われない。何でも他人に責任転嫁する人は、成熟していないと考えられるだけなので、可愛いとか女性らしいとは思われません。アラサー、アラフォーの女性達もキャラクターたちに感情移入できません。

「逃げ恥」の場合。大学まででて就職先がなかったというのは、単に能力がない人です。妻は家事をやるための人ではないので、相当男尊女卑の労働者階級の家以外は、皿洗い機を入れるなりメイド会社を入れるなりして、負担を減らすのが当たり前です。いつ離婚するかわかりませんので、専業主婦になりたいという人は少数派ですから、主人公の選択を「???」と思う人が多いです。事実婚の人も大勢いて、結婚にはあまり重みがないので、契約結婚か、正式結婚かでドギマギするキャラクターたちの心理に全く共感できません。

さらに、ここは日本と違うところなのですが、女性ならばこうでなければならない、何歳ならこれをやるべきだ、こんなことをいうべきではない、という「あるべき姿」にとらわれている人があまりいないので、好き勝手にやる人が多く、主人公達の苦悩を理解できないのです。なぜ好きなようにやらないのですか?といわれて終わりです。

「逃げ恥」をイギリス向けに書き換えるなら、大学院まででて心理学を学んだが、就職がなかったので、一発奮起してネットでコーディングを学んで、東ロンドンで高校生とスタートアップをはじめて億万長者になり、儲けたお金で探偵事務所をはじめてMI5の女性諜報員と恋仲になり、ドバイで殺人事件を解決する傍ら精子バンクで買った精子で双子を産んで楽しく暮らす、という女性が主人公になるでしょう。ここの人達は、ルーザーや苦悩する人よりも、エキセントリックな成功者が好きなのです。

ちなみにイギリスではアラサー、アラフォーの女性達向けのドラマの枠がありません。ドラマの主な視聴者は老人達なので、戦前の田舎が舞台の探偵ドラマ、女王様の話、老人の恋愛ドラマ、時代劇、助産婦が活躍する話が人気です。

女性達は、恋愛ドラマをみる代わりに、パブで男女様々な人と話したり、ジムで汗を流しています。自分の境遇を嘆くのではなく、ネットワーキングしてビジネスや転職につなげたり、元気に働ける様に健康維持に時間を使っているのです。

そういう女性達はスーツにビーチサンダルで通勤し、お弁当はスーパーのビニール袋に突っ込んだサンドイッチで、オフィスにつくと袋の中の靴下とサンドイッチを一緒に取り出しますが、それがどうだと口にする人は誰もいません。

人は人、自分は自分で、自分の人生を楽しむことが一番大事だからです。

ケイクス

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世界のどこでも生きられる

May_Roma

海外居住経験、職業経験をもとに、舌鋒鋭いツイートを飛ばしまくっているネット界のご意見番・May_Romaさん。ときに厳しい言葉遣いになりながらも彼女が語るのは、狭い日本にとじこもっているひとびとに対する応援エールばかり。日本でしか生き...もっと読む

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コメント

hanae_kiryuin もっといろんな人がいていいんだよ。もっといろんな生き方があっていいんだよ。今の時代で良かったよ、私はね。 7分前 replyretweetfavorite

trainer_sapporo お菓子食べながらTVばっかり見て一日が終わる。それでも生きていける のであれば、日本ってやっぱり稀有。 14分前 replyretweetfavorite

trotterhrk #逃げ恥 #東京タラレバ娘 日本でこんな話クソ食らえ!と好き勝手に生きたら職場でドン引きされて「こいつ心療内科に行った方がよくね?」と心の病の烙印を押されそうだけど外国では許されるのだとしたら、人生捨てたものじゃないのかな。 https://t.co/Yap8sSsgo8 18分前 replyretweetfavorite

trotterhrk #nい https://t.co/Yap8sSsgo8 21分前 replyretweetfavorite