ネットを炎上させるのは「無職・引きこもり・バカ・暇人」ではない

「1年間に、炎上に絡んで書き込みをした人は、ネットユーザー全体の0.5%。200人に1人というごく少人数が、炎上を起こしているのです」

国際大学GLOCOMM講師で経済学者の山口真一氏

国際大学GLOCOMM講師で経済学者の山口真一氏。昨年、話題となった田中辰雄慶応大准教授との共著『ネット炎上の研究』(勁草書房)は、読者と選ぶ人文書のベスト30「紀伊國屋じんぶん大賞2017」にもランクインした(写真/日刊SPA!)

 国際大学GLOCOM講師の山口真一氏はこう明かす。

 ただ、「炎上の主犯は5人以下」という指摘は、業界内ではわりと知られた“定説”だった。実際、靖国問題に言及した筆者のブログには700もの罵詈雑言のコメントが寄せられ、見事に炎上したが、書き込んでいたのはわずか4人だった。だが、ネット炎上の学問的研究は行われず、その実態やメカニズム、影響についての議論が憶測の域を出ることはなかった。そんな炎上の実態を、計量経済学を駆使して初めて解き明かしたのが山口氏なのだ。

「近年、炎上はかなり増加している。つまり、少数意見が過剰に反映される社会になりつつあるのです。批判を繰り返して、炎上を起こす人は社会のごく一部に過ぎないのに、みんなの意見を代表しているかのようになっている……。これまでの世論調査は、質問されたから答える極めて受動的な発信だったが、ネット炎上による世論形成は非常に能動的。要は、聞かれてもいないのに『オレに言わせろ』という人の発信が幅を利かせている上に、彼らの意見は受動的な発信者に比べて偏っているから問題なのです」

 山口氏の研究分析が出色なのは、「無職の引きこもり」「バカで暇人」といったこれまでの炎上参加者像が幻想に過ぎないことを明らかにした点だろう。彼の最新の調査によれば、「年収が多い」「子持ち」「ラジオの利用時間が長い」、そして「係長以上の役職」という炎上犯像が浮かび上がったという。

「炎上参加者の約3割が主任・係長クラスで、世帯収入も平均約600万円と、これまで言われてきた低所得者や低学歴ではないことがわかりました。なぜ、こうした層が炎上に加担しやすいのか。普通、自分にまったく関係ないテーマでは、人は批判しようとは思いません。集団的自衛権はよく炎上するテーマですが、例えばヤンキーはほかに楽しいこともたくさんあるし、国家安全保障に興味なんてない。これに対して、炎上参加者はある程度の知識があり、確固たる政治信条を持っている。また、ラジオの利用時間が長いことから、情報の入手を好む傾向が窺える。いろいろなことに自分は詳しいという自負があり、異論を唱える者にはそれが一般人であっても咬みつくし、有名人なら『お前は何もわかっていない!』とさらに攻撃的になるわけです」

 山口氏はネット炎上の研究を通して、日本社会の現状に迫っているのだろう。炎上は世界中で起きているが、日本のそれには特徴があるという。

「世界で炎上が特に深刻な影響をもたらしているのは、芸能人が何人も自殺に追い込まれている韓国です。欧米では、日本や韓国で起きているような炎上は少ない。炎上を英語で『Flaming』と言いますが、これにはメールやグループディスカッションで遣り取りが加熱した挙げ句の罵り合いの意味も含まれる。つまり、大枠では議論の範囲内のものであり、欧米に議論の文化が根付いている表れとも言えます。ただ、欧米でもタブーや差別、自分と利害関係が濃いテーマは炎上しやすい。一方、日本に特徴的なのは、コンビニのアイスのケースに入った写真をアップした大学生のケースのように、自分と無関係の人物が悪ふざけしたような場合でも、『けしからん!』と炎上するなど、日本では何でもかんでも燃えてしまう。こうしたケースは欧米ではほとんど見られません」

 “不寛容社会”と評される現代の日本を象徴するのが、ネット炎上なのだろうか……。

「日本では、炎上が認知される経路でもっとも多いのがテレビで、番組で取り上げることで炎上に油を注いでいる。ワイドショーなどのコメンテーターとなったお笑い芸人が、過激な言葉で炎上の当事者を非難、罵倒するのが当たり前になり、視聴者はそれを喜んで観ている。そして、炎上した当人は個人情報を晒された上、悪と認定され、叩いてもいい対象になってしまう。メッタ打ちにされた挙げ句、反論権は一切与えられません……」

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