しかし、ファミリーレストランを中心に24時間営業を取りやめる動きが相次いでいます。なぜ今、売り上げ減につながりかねない営業時間の短縮に踏み切るのか。2月からおよそ100店舗で24時間営業をとりやめたファミリーレストラン最大手の舞台裏を取材しました。(経済部 加藤誠記者/長野幸代記者)
「24時間営業」最後の日
「ちょっと不思議な感じです、慣れるまでは」。
そう語ったのは、ファミリーレストラン「ガスト」の横浜平沼店で店長を務める高橋佑弥さんです。24時間営業だったこの店舗は2月1日から、営業時間を「午前7時から午前2時」に変更しました。
取材に訪れたとき、高橋さんはガラス戸の24時間営業の表記を新しい営業時間に替えていました。そして、これまではなかった「ラストオーダー」をとりに店内をまわり、午前2時、最後の客を見送っていました。
近所に住む40代の女性は「深夜におなかがすいたとき、よく利用していました。もう1つの自宅のような存在だったので、24時間営業でなくなるのは、さみしいです」と話し、なじみの店員に向けた感謝の花束を店に託していきました。
外食産業で見直し相次ぐ
この「ガスト」や「ジョサナン」などを運営する、すかいらーくグループは2月からおよそ100店、4月までに合わせて225店で24時間営業をとりやめます。
深夜にだけ働きたいアルバイトの配置転換ができなかったりしたため、当初の予定よりは減ったものの、去年12月の時点と比べると24時間営業の店舗は半減することになります。さらに早朝まで営業してきた店舗でも営業時間を短縮することにしています。
この会社が営業時間をこれほど大規模に見直すのは初めてだと言います。
すかいらーくの谷真社長は「大転換だと思う。会社の歴史の中で言うと、極めて大きな判断だ」と話していました。
外食業界ではこのほか、ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」が、2月2日までにすべての店舗で24時間営業を取りやめ、「マクドナルド」も、5年前に比べて24時間営業の店舗を半減させました。
夜の過ごし方に変化
外食業界で24時間営業の見直しが相次いでいる理由の1つが「深夜の利用客」の減少です。
外食業界で24時間営業が本格的に始まったのは、1971年の牛丼チェーン「吉野家」がきっかけだとされています。夜遅くまで働いたり、遊んだりする人が増えた1980年代にかけて急速に拡大していきました。特にファミリーレストランは、大学生などの若い世代が電車の始発までの時間に利用したり、車でロードサイドの店舗に集まったりする“交流の場”として活用されてきたのです。
ところが、少子高齢化で若い世代の人口が減っていることに加えて、過ごし方が変化してきているのです。すかいらーくグループでは、インターネットやスマートフォンの普及などで、友だちどうしが直接集まらなくても交流ができるようになっていることが、深夜の利用客の減少の一因だと分析しています。
実際、この会社の深夜の利用客は2000年代から減少に転じ、現在、午前2時から5時までの3時間の利用客数は1店舗平均でおよそ8人。売り上げもこの2年間だけで1割減ったということです。
人手不足による負担増
さらに外食産業で深刻化する「人手不足」も、見直しの大きな要因となりました。
今回取材した横浜市の「ガスト」でもアルバイトの確保が難しくなり、時給を1188円まで上げたものの、応募はほとんどなかったということです。
このため正社員の負担が増加し、店長の高橋さんの場合、週3回程度、深夜に勤務していました。さらに、アルバイトに急な欠員が出ると休みの日でも代わりを務めることがあったと言います。高橋さんは「生活リズムが不規則になりがちで、何かあるかもしれないと思うとプライベートの予定を入れにくい」と話していました。
利用客の減少と人手不足で、24時間営業とりやめを決断したのです。
新たな成長を目指して
経営への影響について、すかいらーくの谷社長は「残念ながら短期的にはマイナス。ただし長期的には、これは必ずプラスになる。勝算はある」と言います。
「女性が生活と仕事と両立できる企業だけが、この後の日本の国内で成長することができる。24時間営業を見直して、従業員の働き方改革をしていくことが、年齢、性別にかかわらず、多様な人材の雇用の窓口を広げ出店を加速し、新たな成長につなげていける」と話し、24時間営業の見直しによって新たな成長を目指す考えです。
この会社では、早速、採用に好影響が出ているとしています。例年1月ごろに相次ぐ内定辞退者がことしは1人だけ。去年の辞退者5人に比べ減ったということです。
営業時間短縮 デパートでも
営業時間の短縮はデパートでも始まっています。
大手デパートの「三越伊勢丹ホールディングス」は、6年前から元日以外に定休日を設けています。当初は東京都内の3店舗だけでしたが、今では2月や8月など売り上げが落ちる時期に定休日を設ける店が全国で増えているということです。
さらに、去年からは首都圏の8店舗で、ことしは北海道や名古屋なども合わせて14の店舗が1月2日に行っていた初売りを3日として、もう1日、休日を増やしました。正月三が日は初売りもあって、まさにかき入れ時で、社内には一部で反対する意見もあったといいます。
営業時間を減らす狙いについて大西洋社長は次のように話しています。
「従業員が最高のコンディションで接客をすることで、お客さんにも喜んでいただける。目の前の売り上げは気にせず、長期的に考え、よりよいサービスを提供するために従業員にはしっかり休んでもらうことが必要だと思う。モチベーションをあげてもらい、創意工夫もしていけば、お客さんにとって長時間店が開いているという利便性がなくなっても、理解を得られると思う」
「日本のサービス産業は生産性が低いと言われているし、いい人材も集まりにくい。理由として、休みが好きな時にとれないし、1日立ってなきゃいけないということがあると思う。業界にいる人間としては、もっともっと働きやすい環境をつくって、ほんとに接客が好きで、販売が好きで、おもてなしができる人材をもっと集めたいということもある」
大西社長は、やはり、働き方改革を進め、人材の確保につなげたいという考えを示しています。
デパート業界で、三越伊勢丹ホールディングスに追従する動きはまだありませんが、こうした動きが広がっていくのか注目されます。
24時間営業をはじめとした営業時間の短縮は、消費者にとっては利便性が低下し、企業から見ると売り上げの減少につながりかねません。
しかし、人手不足が深刻化し、人材を確保するため働きやすい環境作りが求められる中では、これまでのような営業を続けることが難しくなってきていることを今回の取材で改めて感じました。社会情勢の変化に合わせて、働きやすく、かつ生産性の高い職場を作っていくためには何が必要なのか、引き続き、取材していきたいと思います。
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