「アンガーマネジメント(anger management)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
直訳すると「怒りという感情の管理」。
負の感情をいかにして処理するか、というスキルのことです。
昨今、”ストレス社会” ”責任世代” などという言葉を耳にする機会が増えました。
忙しい現代をいきる中で、フラストレーションや負の感情のやり場に困っている人も非常に多いでしょう。
今回の記事では なぜ「アンガーマネジメント」のスキルが何にも増して重要なのか についてお話していきます。
Contents
怒りは人間を合理的行動から遠ざける
感情は、わたしたちの世界の見方や、他人の行動の解釈の仕方を変える。
わたしたちはある感情を覚えたとき、なぜそう感じているか疑おうとしない。逆にそれを確証しようとする。
(中略)
……ある感情とらわれると、その感情に合わない情報が入ってくるのを遮断し、柔軟に物事を考えられなくなる。
出典:顔は口ほどに嘘をつく
あなたが冷静なうちに認識してもらいたい事実があります。
それは、「人は怒っているとき 正常ではない」ということ。「異常である」と言った方が正確かも知れませんね。
普段なら気にならないことに執着したり、冷静な状態ならすぐに下せるはずの判断に戸惑ったり。
怒りは人を愚かにするのです。
特に、次にあげる3つの局面において、怒りは人を合理的な行動から遠ざけてしまいます。
一つずつ見ていきましょう。
01. 怒りは体力を奪う
駅で誰かに苛立ったあと、誰かと言い争いをしたあと、誰かを叱り飛ばしたあと、ドッと疲れている自分に気づくでしょう。
怒ると、体力をひどく消耗するものです。
怒りのメカニズムについて少し触れておきましょう。
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怒りのスタート地点は脳の扁桃体(へんとうたい)という部分。
扁桃体が自分自身への脅威を察知すると、体にストレス反応を起こすホルモン、アドレナリンを分泌させます。
その作用で心拍や血圧、呼吸数の増大、骨格筋への血液増加、発汗などが起こります。
これが怒っているときの体の状態。
ちなみに、この自律神経系の異変を再び扁桃体が感知すると、さらにアドレナリンを分泌させ、怒りの感情を大きくしていくのだそう。
心拍や血圧など自律神経系の働きが高まったときブレーキ役となるのは副交感神経。
怒りやすいと副交感神経の働きも低下するので、心臓病のリスクを高めてしまいます。
また、ストレスに対して体はストレスホルモンを放出します。
これは本来、体に必要なホルモンなのですが、怒り続けていると長期間放出され続け、体に負荷をかける結果に。
怒りを感じているあいだ、体はトランス状態。
アドレナリンが分泌されているため、疲れを感じるどころか、次から次へと連鎖的に怒りが噴き出してきます。
しかし、いざ怒りが消え去ってしまうと、体にはずっしりとした疲労感だけが残ってしまう。
これではパフォーマンスの質も下がり、仕事や勉学においても能力が発揮できず悪循環に陥っていくことに。
体力も貴重なリソースなので、怒りによって無駄遣いするのは避けるべきでしょう。
02. 怒りは時間を奪う
怒りほど、ずるずると長引いてしまう感情をぼくは他に知りません。
1日のはじめに嫌なことがあって激しく苛立ってしまうと、下手するとそのまま終日不機嫌で過ごすことも……。
このような経験は、おそらく誰しもが持っているでしょう。
怒りはさらなる怒りを呼ぶ
怒りというのは厄介なものです。
たいていの場合、怒りを向ける対象は「直接的な原因」にとどまらず、どんどんと派生していきます。
例えば、職場で上司に理不尽な怒鳴られ方をしたとします。
あなたはそれに憤り「なぜこんなことで怒鳴られなければならないのか」と怒ります。
そこで怒りが収束すればよいのですが、そこから上司の人間性、思想、口調、容姿、能力、趣味、人付き合い、家族、育ってきた環境などすべてに対して否定的になってしまう。
怒りはスライムのように、仲間(さらなる怒り)を呼ぶのです。
怒りは快楽?
不安・ストレス・怒りを感じるとき、ぼくたちの脳内では「ノルアドレナリン」という物質が大量に分泌されます。
ノルアドレナリン(別名「怒りのホルモン」)は、交感神経のはたらきをブーストさせる物質。
それにより
- 意識を覚醒させる
- 集中力を増加させる
- 心拍数を上昇させる
- 血圧を上昇させる
こういった作用があります。
頻繁に怒っていると、ノルアドレナリンをたくさん使用するため、一時的に不足します。
すると今度はノルアドレナリンを余計に供給しようとするはたらきが強まり、結果的に怒りっぽく攻撃的になるというわけです。
要するに「怒り」という刺激が「クセになる」んですね。
サバイバル不要の現代人は「怒り」を捨てよう
ノルアドレナリンは元々、野生において敵と対峙したり敵から逃亡したりする際に役立つものでした。
そのため、人間を含む動物において最も多量に分泌される脳内物質だったりします。
しかし現代を生きるぼくたちは、そのような差し迫った状況にはほとんど遭遇しません。
「時短」が叫ばれる昨今、怒りをマネジメントして 無駄な(=生産性の低い)時間を過ごさないよう努力することが重要でしょう。
03. 怒りはお金を奪う
怒りが人を愚かにすることは、先に述べた通りです。
普段なら気にならないことに執着したり、冷静な状態ならすぐに下せるはずの判断に戸惑ったりする。
怒っているときは金遣いが荒くなる
ぼく自身も経験があるのですが、ストレス発散のために散財してしまうという人もいるでしょう。
お金をぱーっと使うと「そのときは」気持ちがスッキリします。
街へ出かけて手当たり次第に商品をカゴに放り込んだり、あるいはネットショッピングでカチカチとクリックしたり。
しかし、あとで振り返ると「なぜこんなものを」と後悔することが大半です。
怒っているときに買ったものなんて、自分が本当に欲しかったものではありませんから。
怒っているときは冷静な判断ができないから、勝負ごとも避けるべき
パチンコ、スロット、競馬、麻雀、FX……
イライラを解消するためにこうした領域に足を踏み込んでしまう人もいるかもしれませんね。
しかし、ぼくはギャンブルや勝負ごとでストレス(怒り)を発散させるのは危険だと考えます。
理由は2つ。
- まず、勝てないから
- 勝ったとしてもクセになるから
ギャンブルを頭ごなしに否定するつもりはありませんが、せめて正常な判断力を有している状態で臨むべきでしょう。
どうすれば怒りを抑えられるのか
体力を奪い、時間を奪い、お金をも奪う「怒り」。
では、どうすれば怒りを抑え込み、消化することができるのでしょうか?
01. 怒りを捨て去るには「諦める」こと
「諦観(ていかん / たいかん)」という言葉を聞いたことはありますか?
- 本質をはっきりと見きわめること。諦視。「世の推移を諦観する」
- あきらめ、悟って超然とすること。「諦観の境地」
出典:weblio辞書
「諦める」という字が入っていることから、ネガティブな印象を受けるかもしれません。
しかし、これはもともと仏教用語で、「諦か(明らか)に真理を観察すること」を意味することばです。
物事をよく観察し、本質を見極める。
これによって怒りをかわすことができるのです。
相手を変えることはできないと諦める
怒りは多くの場合、自分と他者との「相違」によって起こります。
- 「なんであんなことを言うのか理解できない」
- 「普通こうするべきだろう」
ここで、「怒りをぶつけても、相手を変えることは絶対にできない」ということを悟りましょう。
まったく違う環境で生まれ育ち、まったく違う生体情報を持っているのが「他人」です。
それがたまたま同じ集団に属しているというだけで。
土台、相手を理解することなどできないし、相手を変えることなんてできない。
このように諦めることで、怒りは自然と引いていきます。
違っていて当たり前、理解できなくて当たり前。
その上で、妥協点を見つけてうまくやっていくしかないのです。
相手からの見返りに期待することを諦める
たいていの人が、「せっかく〜〜してあげたのに」という気持ちを一度は抱いたことがあるでしょう。
相手からの見返りが無かったり、あるいは恩を仇で返されたり。
好意や愛情があったが故に、それが期待どおりにならなかったときの失望感や憎悪も大きくなってしまいます。
ここで「相手からの見返りに期待すること」を諦めましょう。
自分が相手に何かをして「あげた」としても、それはあくまでこちら側の問題。言ってしまえばエゴイズムです。
「してあげた」という考え方は捨て去った方がいいでしょう。
前述した通り「相手を変えること、操作すること」はできません。
自分の行為が相手に到達した時点で終了。それ以降は関知しない。
このような姿勢があれば、相手の反応を気にしてイライラする必要もなくなります。
人生は思い通りにいかないものだと諦める
生きていれば、数々の災難に見舞われることもあるでしょう。
突然の事故、病気、失職…
「なんで自分だけ?」とやり場のない怒りを抱えることもあるかもしれません。
ここで「人生は思い通りにいかないものだ」と悟りましょう。
人間一人の人生に影響を与える要素なんて、数え切れないほどあるんです。
- 本人の選択
- 他人の選択
- 企業の選択
- 国家の選択
- 地理
- 気候
- 災害
- ウィルス・動物
- 遺伝子
- 体調(健康状態)
こうした種々の要素が複雑に絡み合って、ぼくたちは毎日生きている。
歯車が一つ噛み合わないだけで、明日仕事を失うこともあれば 突然死んでしまうことだってあります。
何が原因で幸せになるのか、不幸になるのか。それは神のみぞ知ることです。
だから「人生が思い通りにすすむ」などという幻想は捨て去り、流れに身をまかせる度胸も必要になってくるのです。
そうすれば無意味に苛立ったり、怒りに支配されたりせずに済む。
「諦める」というスキルを身につければ、心の安定を手にすることができるのです。
02. 怒りを記録する
上では、いわゆる「マインドセット」的な話に終始しました。
次に、具体的にどう行動すればよいのか について考えてみましょう。
怒りを抑えるためには、まずは「自分がどういった状況で怒るのか」をしっかりと把握することが重要です。
そこで『怒りノート』をつけてみましょう。
フォーマット等は自由ですが
- 日付
- 時間帯
- 天気
- 怒りの対象
- 怒りの持続時間
- 怒りの度合い
いつでも書き込めるように、ハンディサイズのノートを用意してポケットに忍ばせておきましょう。
一定期間が経つごとにレビューして、分析します。
『怒りノート』をつけはじめると、次のような効果が期待できます。
- 自分がなぜ怒ってしまったのかがわかる
- どういったときに怒る傾向があるのかがわかる
- 怒らないためにどのように行動すべきかがわかる
怒っている自分をリアルタイムで客観視するのは非常に難しいので、このようにデータに残しておくのです。
原因がわかれば対策が打てますからね。
もちろん何よりもまず、「諦観」の話を思い出して平静な心を保つ努力をするのが前提です。
はじめのうちはそれでも怒りを覚えてしまうことがあるので、そのためのメモである、ということを意識してください。
03. 「6秒ルール」を試してみる
怒りのピークは長くて6秒です。激高するような怒りでも、6秒をやり過ごせば怒りに任せて衝動的に行動しにくくなります。
やり過ごすテクニックとして、怒りを数値化する方法があります。0がまったく怒りを感じない、10を人生最大の怒りとして、今の怒りがどの数字かを考えます。
数字に意識を向けている間に6秒たつのですが、これはトレーニングが必要です。
イラッとしても、とりあえず6秒はぐっと我慢してみましょう。
それだけで随分怒りが収まるものです。
引用元の記事では「怒りを数値化する」ことで6秒をやり過ごす方法が紹介されていました。
それだけでなく、心の中で「1, 2, 3…」と数をカウントしてもいいでしょう。
ちなみにぼくは、「よし、これは怒りを鎮めるいいチャンスだ。ラッキー」と自分に言い聞かせています(笑)
大切なのは、「時間をが経つにつれて怒りが引いていく様」を自分自身できちんと観測することです。
怒りを鎮められれば人生はイージーになる
怒りに支配される人は、体力・時間・お金を失います。
逆に言えば、怒りをコントロールできる人は これら希少なリソースを有効活用することができるのです。
時間があれば、それだけインプット・アウトプット量を高め、自己啓発することができます。
お金があれば、より良い環境に投資し、あるいは自らの活躍の場を広げることができます。
怒りを捨て去る努力は、年齢・性別・職業にかかわらず すべての人間に求めれらているもの。
最近では禅の思想や瞑想(マインドフルネス)が注目されていますよね。
「諦める」という仏教の考え方をヒントに、ぼくも精進していきたいと改めて思いました。
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