こんにちは
先日、たまたまNHKのクローズアップ現代で「フェイクニュース」を取り上げているのを見ました。フェイクニュースとは文字通り「ウソ」の話題。実際と異なる情報がメディア、SNSなどを通じて大勢の人たちに発信し続けられていくことで、その情報が事実を凌駕し、あたかも真実になりかわったようになっていく現象をいいます。
番組の中ではドイツの地方新聞で記者を務めているペーター・バンダーマンさんの体験が紹介されました。ペーターさんの地元では大晦日、広場で新年を祝おうと1000人もの人が集って爆竹を鳴らしたりして大騒ぎしていました。だけどもその火でボヤ騒ぎが発生。集まり自体が毎年恒例のものであり、ボヤも10分前後で収まったため、大騒ぎになるものでもなかった。ところがそのボヤの騒ぎを伝えたペーターさんの文章と動画がオーストリアのニュースサイトで「アラブの人が放火騒ぎを起こした」かのような話にされて拡散されていたというのです。ペーターさんはよくある移民排斥の扇情記事には困ったものと思って呆れていました。その書き換えられた報道は本人さえ思わぬ事態に。数日後にはイギリスで「1000人もの暴徒が警察を襲撃。放火騒ぎも発生」などといったタイトルになってさらに文章は拡散。イスラム系の移民がテロの組織に関わっていると思わせるでたらめなものになり、ペーターさんの文章はイスラム系の人々への差別心を煽り立てるものとして30ヶ国近く、5万人もの人に読まれることとなりました。
ペーターさんはこの事態を看過できないものとして、文章の発信者としての責任を果たすべく、記事が捏造されたものであることを反論。正確な情報を伝えれば誤解も解けると思っていたけど、この反論にあった反応はたった500件。誤って伝わった情報の読者、5万件の1/100程度に届くのが精一杯でした。ペーターさんはツイッターでこう呟きました。
「事実がウソに塗り替えられてしまう。どうすればいいのか、誰か教えて下さい。」
さて本題。この話は日本でも他人ごとではありません。先日も「韓国」を題材にしたあるニュースサイトがヒドいデマを垂れ流しているものであると判明。
そのニュースサイトの運営者はたいして悪びれずに「ヘイト記事は拡散する」「そういった(韓国が憎い)という情報を望んでいる人もいる」と他人ごとみたく語っているので僕もかなり頭にきていたんだけど、このデマを広げたのは僕らの世代にも大勢いることでしょう。だけど僕らの世代はある事件をきっかけにして根拠のない情報を広げることの恐ろしさをあらためて学ぶことができます。その事件とは「高橋名人の逮捕」。
1980年代にゲームメーカーの(旧)ハドソンがプロデュースした「1秒間16連射」が特技のファミコンマスター高橋名人。小学館の「コロコロコミック」などをつうじて小学生の心をガッチリ掴み、アニメ化や歌手活動、テレビ東京で「高橋名人のおもしろランド」という冠番組を持つまでに至ったその人気は、ある情報をきっかけに地に落ちます。その情報とは「1秒間16連射はファミコンのコントローラーの連射ボタンにバネを仕込んでいたからできるインチキであって、そのインチキがバレて、警察に逮捕された」とかいう荒唐無稽なものでした。ところがこの情報がインターネットもない時代だったのにも関わらず、全国の子どもたちに驚くべき早さで広がったのです。もちろん、この情報は真っ赤なウソ。この情報の真相は東京都内の警察署で一日警察署長を務めるため、警察署へ足を運んだ高橋名人を偶然見た人達を起点にした噂が別の話になって広がったというものみたいでした。噂が出た翌月のコロコロコミックで高橋名人もその話に触れており、高橋名人を主人公とする漫画のネタにもなっていましたね。そういや。
当時の僕はご多分にもれず高橋名人に憧れる小学生の一人ではあったけど、その話は「ヘンだな」と思っていました。逮捕の噂が広がった週にも高橋名人が司会の番組は普通通り放映されていたし、なにより新聞や、どのテレビもそれを報道していない。たかがファミコン名人であってもこれだけメディアに露出している人物だったら絶対報道されるはずだという確信からこの話は嘘っぽいと考えて、その話題には積極的に乗らなかったのです。また、同時にうわさ話をする同級生達の表情にもなんとなくひっかかるものがありました。同級生は「俺達をダマした」と怒っているのに高橋名人逮捕の話題をどこか楽しそうに語っているように思えて仕方なかったのです。子どものアイドルが警察に逮捕される。ふつうに考えるとそれは悲しい話にも思えますけれど勢いの盛んな人気者が、いきなりの苦境に立たされる様に、自分がまるで強者になったような快感を覚える後ろ暗い心理もそこにあったんじゃないか。だから正直なところ、みんなは16連射がインチキかどうか実際どうでもいいと思っていたように思えてなりません。
結局のところ、何が事実で何が誤りかは流れてきた情報だけでは簡単に判断できません。ただ、「ウソっぽい情報」に気をつけるためのポイントはある。それはその情報の発信者の表情と口調。発信者の表情が下卑たものになってはいないか。その口から発する情報は口汚くないか。フェイクなニュースは人々に事実を伝えることよりも情報を広めることと興味を引く事がポイントになっているためか語り口や文章が扇情的、挑発的、攻撃的で実直には程遠い下品さに溢れています。だからなんでこんな番組を信じる人がいるのか、僕にはまったくもって理解できずに困惑させられています。
あなたに「ねぇねぇ知ってる?」と語りかけてくる情報がどこか扇情的、攻撃的で特定の団体や個人を中傷する類のものなら要注意。それらの情報を見たり聞いたりしていて、心地よさを感じたら自分自身に後ろ暗さがないのかを疑ってみて下さい。
モバイルネットワーク時代の情報倫理 第2版 [ 山住富也 ]
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※誰だってデマ扇動者になりうるんだ。あなたも、僕も。