フグのヒレ酒って、うまいですよねえ。
香ばしくて、なんともうま味が濃厚で。お酒を楽しんでいるのに、極上のスープを味わっているかのような満足感が得られます。
もっと身近に楽しめたらなあ……!
なんてことを、飲み仲間でもあるスープ作家の有賀 薫さんと話しておりました。
有賀さんは日々、各国のスープや日本の汁もの研究にいそしみ、スープの本も書かれています。詳しいプロフィールは一番下をごらんください。
極上のスープを味わっているかのような満足感……ですか……。(有賀)
そのとき、有賀さんの瞳がきらりと光ったのを私は見逃しませんでした。
白央「有賀さん、ヒレ酒の世界、追求してみません?」
ヒレ酒や骨酒って、アラ汁とかの魚のスープ作りに共通するところがあるんですよ。私も前からちょっと興味があって。
白央「スープでいうと、ベースとして野菜や骨、肉類のうま味をうまく水に移すって考えがあるじゃないですか。日本だとそれがダシとして考えられるわけだし」
魚の骨や身のうま味を酒に移す……って考えたら、同じ方向性ですよね。
白央「もっと身近な食材で、フグヒレ酒的なうまさを楽しめたらこんないいことないと思うんです(単に自分が飲みたい)」
そうですね、ひとつ、やってみますか!
さっそく研究開始!
うるめいわしの干物
やるとなったら仕事の早い有賀さん。
スーパーの鮮魚コーナーなどで入手しやすい食材で、「骨酒・ヒレ酒」として楽しめるものをレポートしてくれました。
それぞれ、手順は以下のとおりです。
- 魚をしっかりと焼く。
- お燗した日本酒180mlを注ぐ。※手に入りやすいワンカップ大関を使用。ちょうど容量が180ml(=1合)
- フタをして1~2分おく
こんなふうに小皿をのせてフタをしました。ラップをゆるくかけるのでもOK。
さあ、それではご覧ください!
【作り方】
うるめいわし(横の長さ 約12㎝のものを使用)2~3匹をフライパンで乾煎りし、お酒を注ぐ。
煎って使うと、青魚特有の生臭さを感じにくくなりますね。香ばしさと塩分がほんのりお酒に移って、飲みやすい。(有賀)
白央「思ったより上品に仕上がりますね! じんわりうま味が出てくる。ちょい冷めちゃうけど、5分ぐらいおいたほうがおいしい」
ししゃもの干もの
【作り方】
ししゃも(横の長さ約15㎝)2本をフライパンなどで、水分を飛ばすように弱火で10分ほどじっくり焼き、両面焼き目がついたらグラスに入れ、燗酒を注ぐ。子持ちのししゃもは水分が出てきてしまうので、焼くときは加熱時間を長めにとる。
ふくらみのある、やさしいうま味ですねえ。時間が経つと少々魚臭さが出てしまう。早めに飲み切るほうがよいですね。(有賀)
白央「でも、もっと生臭くなるかと思いきや、意外に淡泊なうま味ですね。味わいが穏やかで飲みやすい」
お酒を含んだししゃもが意外なおいしさ! これでまたお酒が飲めそう。(有賀)
白央「どんだけ飲むんですか(笑)」
するめ
【作り方】
するめ(20g前後)はオーブントースターで少し焦げ目がつくまで焼く。これを熱いうちに、やけどしないよう気をつけながら割き、燗酒を注ぐ。
わ! お酒を注いだ瞬間から独特の赤い色が溶け出しますね。
白央「するめがデカいので片口でやってみましたが、情緒も増していいですねえ。味がよく出るなあ、するめの量は気持ち少なめでも十分」
味や香りも強い。パンチのあるうまみで、ちょっぴりジャンキーな味わい。唐辛子などふってもおいしそう。
白央「七味ふるの、赤羽『丸健水産』のだし割りみたいですね。飲み会でするめが余ったらぜひお試しください!」
ウマヅラハギ
【作り方】
ウマヅラハギ(横の長さ約10㎝)3匹にうっすら塩をして焼き魚にし、身をとりのぞいて、骨とヒレをフライパンなどで色づくまで焼き、燗酒を注ぐ。
あっさりと上品な味わい。小さな魚ながら、味はしっかりと出ています。(有賀)
白央「これ、私は好きだなあ。骨目当てで今後ウマヅラハギを買ってしまいそうだ」
ちなみに、フグヒレ酒ってフタをとった瞬間に火をつけてアルコール飛ばすんですが、試しにやってみたらちゃんと火がつきました。 ※ぐれぐれもマネしないでね。
本カワハギ
【作り方】
カワハギ(横の長さ約18㎝)1匹にうっすら塩をしてグリルで焼き魚にし、身を食べたあとの骨やヒレを、フライパンなどで色づくまで焼き、燗酒を注ぐ。
別格のおいしさ!(有賀)
白央「ああ……うまいッ!!」
魚の臭みがなくてすっきりとしていながら、骨からうま味が十分にお酒に出ていますね。すごい、これ。
白央「……(黙々と飲み続ける)」
白身魚の中でもあっさりした味わいのウマヅラハギ、カワハギは骨酒にぴったり。脂肪分も少ないのでお酒に油が浮きにくくて、飲みやすいですね。ちょっとハクオーさん、私のぶん残して!
鯛のアラ
【作り方】
鯛のアラに軽く塩をしてしばらく置き、グリルでこんがりと焦げ目がつくまで焼く。これをどんぶりに入れ、熱い燗酒360mlを注ぐ。(大きなアラなので、燗酒は倍量使いました)
鯛のうま味がたっぷり!
白央「うわー……これでもかってぐらい、魚のエキスが出ますねえ」
こってりしてますね。頭や身の部分から出る脂分の味わい。まさに魚のスープを飲んでいるみたい!
※後日、有賀さんが鯛の骨だけを焼いて骨酒を作ってみたところ「身つきに比べてあっさりとしているけど、充分なうま味。おいしかった!」とのことでした。
作り方のポイントは3つ
以下、有賀さんにまとめていただきました、作り方のポイントです。
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ポイント①「お酒は熱々にお燗しよう!」
燗酒というと、ぬる燗で40度前後、熱燗でも50度ほど。しかしヒレ酒は80度ぐらいの超熱燗で作ります。ぬるいお酒だと魚の生臭さが際立ってしまいます。
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ポイント②「魚はじっくり焼く!」
骨やヒレはじっくり焼きましょう。こうすることで魚の生臭みが取れます。また、焼くことで効果的にお酒に香ばしさやうま味が移るようになります。あまり強くない火でゆっくりと乾燥させるように焼いてください。多少のコゲは香ばしさにつながりますよ。フライパン、トースター、グリルなど手段は構いません。
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ポイント③「温め直しは厳禁!」
魚のスープもそうなのですが、ヒレ酒や骨酒も、作ってから時間を置くと魚の生臭さが出てしまいます。味の変化を楽しみつつ、なるべく早めに飲み切りましょう。飲み切ってから新たに燗酒をそそぐと、大体2回ぐらいはどれも楽しめますよ。
魚のヒレや骨を焼き、燗酒にひたして魚のエキスをうつすヒレ酒や骨酒。今回いろいろと試してみて、あら汁など魚のスープの作り方や味わいに共通するところを見出せました。これは一種の「大人のためのスープ」ですね。(有賀)
お酒好きのみなさん、ぜひ試してみてくださいね!
この実験から私、すっかりうるめいわし酒にハマってしまいました。
安いし(近所のスーパーで10匹入って280円ぐらい)、うまいし、超お燗なのでアルコールも飛んでいるのか翌日楽だし。
あと、つまみいらず。なんか……つまみと酒を両方同時にやっているような満足感があるんですよねえ。煮干し類、今後いろいろ試してみよう。
またヒレ酒・骨酒によい食材が見つかったら、レポートします!
有賀 薫 (ありが・かおる)
1964年生まれ。スープ作家。家族のために作り続けたスープがWEB上で好評を博し、それらをまとめた『365日のめざましスープ』(SBクリエイティブ)を2016年3月に上梓。毎日のスープづくりは2017年2月現在で1800日以上に。2014年よりスープの実験イベント「スープ・ラボ」を主宰する。
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