ネット上には育児に関することで、非科学的なことをあたかも根拠があるように説明している間違った情報が溢れています。
NICUで働いていた時に、そのウソの情報が原因で赤ちゃんの家族とトラブルになったこともありました。
その家族は未熟児で生まれた子の発達に関してネットで色々調べたようですが、その時に得た情報がとても不安をあおるような内容で、かつ医学的な根拠のないものでした。
しかしママはその情報を信じているので、不安で不安でたまらないようでした。
「ネットにはこう書いてました!大丈夫ってなんで言えるんですか?!」
人は自分で調べて得た情報の方が正しい情報だと思う傾向がある聞いたことがあります。
まさにその通りで医師や師長が何度説明してもなかなか理解してくれませんでした。
今回たまたまネットを見ていたら、赤ちゃんのおしゃぶりについて間違った情報が記載されている記事を複数発見。。。
NICU時代のあの家族とのトラブルがふっと蘇ってきたので、おしゃぶりについて説明します。
おしゃぶりって何のためにあるの?
おしゃぶりで得られる効果として
・精神的心地よさ
・落ち着かせる作用
・痛みの緩和
などが挙げられます。
このような効果からNICUでも赤ちゃんに採血など苦痛を伴う処置をする時や、安静を保たなければならない時に使用しています。
おしゃぶりの間違った目的
おしゃぶりを使用する目的としては上記のものが挙げられます。
しかしネット上で2つの根拠のない効果が記載されていたので、それについて説明します。
おしゃぶりは鼻呼吸の練習になる?
「おしゃぶりは鼻呼吸の練習になります」
この文を読んだ瞬間、頭に「?」が3つくらい浮かびました。
「どういうこと?」と思い他の記事も見てみると、複数の記事で「鼻呼吸の練習になる」と書かれていたのです。
いやいやいや、赤ちゃんってもともと鼻呼吸なんです。
あまりにも複数の記事で鼻呼吸について書いてあるので「私が間違っているのか?」と不安になり、現役時代に使っていた医学書をひっぱりだしてきて確認。
うん、やっぱり鼻呼吸だよな。
でもルールが変わって今は鼻呼吸の練習をしようといわれている時代なのか?
と思い書店で新しい本を購入。
うん、やっぱり鼻呼吸です。
しかもこの本では、おしゃぶりを使用することで鼻呼吸より口呼吸を確保するようになるとさえ書いてあります。
ということで「おしゃぶりが鼻呼吸の練習になる」という説は間違っています。
SIDSの予防について
SIDSとは乳幼児突然死症候群といい、元気だった赤ちゃんが突然亡くなってしまうことです。
原因は未だに解明されていませんが、うつぶせ寝や親の喫煙が要因として考えられています。
米国小児科学会は2005年にSIDSの予防手段の一つとしておしゃぶりを使用することをあげました。
しかしこのおしゃぶりとSIDSの因果関係は不明であることから、複数の母乳育児関連団体がおしゃぶりの使用について慎重に考慮する必要があると述べています。
また以下で詳しく説明しますが、おしゃぶりは母乳育児期間を短縮させます。
母乳はSIDSの予防に効果があるという証明はされています。
それならおしゃぶりを使用せずに、母乳育児期間をより長くするための取り組みをした方が理にかなっているといえます。
おしゃぶりのデメリット
母乳育児期間を短縮する
多くの研究からおしゃぶりの使用は、母乳育児を中止させる危険性が高くなるということが分かっています。
中止となる確率は1.22~8.7倍です。
おしゃぶりの使用時間が長いほど中止の確立があがります。
この理由としておしゃぶりを使用することで浅吸いと、正しくないおっぱいを吸うリズムを赤ちゃんが覚えてしまうことが関連していることも証明されています。
おっぱいとおしゃぶり、同じ「吸う」という動作なのですが口の動かし方は全く違います。
おっぱいの場合は乳輪部までしっかりと口に含み、下あごでおっぱいをしごくようにしておっぱいを飲んでします。
おしゃぶりは特に深く口に含む必要もありません。
そのためおしゃぶりの吸い方がくせ付くと、おっぱいを吸う際に浅吸いになってしまうのです。
浅吸いになると赤ちゃんはおっぱいをしっかり飲むことが出来ません。
さらにママの乳首が摩擦により出血したり水泡ができたりとおっぱいトラブルにつながるのです。
その結果母乳育児期間が短くなってしまいます。
おしゃぶりがあごの発達にいいと書いてあるものもありますが、あごの発達を促すのであればおっぱいを直接吸う方が効果を得られます。
そしておしゃぶりがあごの発達に良いというデータはありません。
さらにおしゃぶりのデメリットとして、【乳頭混乱】をあげている記事も多いので乳頭混乱について説明します。
乳頭混乱に関してですが、「乳頭混乱」という言葉の正式な定義はありません。
この乳頭混乱という言葉は、一般的に哺乳瓶を使用した赤ちゃんがおっぱいを吸わなくなった時に使われることが多いです。
また乳頭混乱という言葉のため、乳首の種類が変わって赤ちゃんが混乱しているという印象を持たれやすいですが、書籍ではおっぱいを吸わなくなる理由を違う角度からとらえています。
先ほどおっぱいを吸う時の赤ちゃんの口の動きについて説明しました。
では哺乳瓶ではどのような口の動きをするのかといいますと、乳首を口に含むだけでミルクが流れてきます。
そのため下あごを使うおっぱいに比べて、哺乳瓶は楽に飲めてしまうのです。
結果、哺乳瓶の飲み方に慣れることでおっぱいを吸うことが難しくなるのではと考えられています。
中耳炎になりやすい
おしゃぶりの使用は中耳炎のリスクを高くします。
4歳未満の子どもがおしゃぶりを使用した場合、反復性中耳炎のリスクが1.6~2.9倍となります。
その理由は
・おしゃぶりそのものが、耳の機能に障害を与えること
・母乳が中止になることで母乳由来の免疫の恩恵が受けられないこと
が示唆されています。
嚙み合わせが悪くなる
おしゃぶりの使用は歯が生える時に影響を与えるため、出っ歯になったり奥歯の噛み合わせが少なくなったりします。
また2歳以上のおしゃぶりは虫歯の原因にもなります。
カンジダ感染症のリスク
おしゃぶりを一回一回口にくわえるたびに消毒するという人はほとんどいないでしょう。
しかし一度使用したおしゃぶりは菌が繁殖しやすくなっています。
そのため長時間同じおしゃぶりを使用することで、カンジダというカビの菌が赤ちゃんの口の中に繁殖する危険性があります。
出典:「カンジダ感染 舌 赤ちゃん」の検索結果 - Yahoo!検索(画像)
カンジダに感染すると写真のようなミルクカスとは違った、白いモロモロしたものが舌の上や口の中に出現します。
カンジダに感染した場合、抗菌薬を使用して治療するので病院を受診する必要があります。
コミュニケーションが減る
おしゃぶりの使用に関して以下のような噂もよく聞かれます。
・言葉の発達が遅くなる
・精神の発達に影響する
これらについては今回、医学的な根拠は見つけられませんでした。
(見つけ次第記事は更新しますね!)
ただおしゃぶりを使用することで、子どもとのコミュニケーションが減りやすくなります。
赤ちゃんには口の中に指や乳首が入ると、自分の意思とは関係なく吸いつく「吸てつ反射」というものがあります。
そのため泣いていても、口におしゃぶりを入れられると吸ってしまいます。
もちろんおしゃぶりを吸うことで精神的な心地よさ、落ち着きを得られるという効果もありますが、この意思とは関係なく吸ってしまうというのはおしゃぶりの落とし穴でもあります。
というのも赤ちゃんが泣くのには理由があります。
・お腹がすいた。
・オムツが気持ち悪い。
・暑い
・抱っこしてほしい
などなど様々な理由があり泣いています。
そのような場合にママは「お腹が空いたの?暑いの?」と声かけしながら試行錯誤します。
しかしおしゃぶりを使うことで、これらのママと赤ちゃんの関わりが全てショートカットされてしまいます。
赤ちゃんは生まれた時からママの言葉を聞きながら言葉を覚えています。
ですからこれらのやりとりをショートカットされることで、言葉の発達に影響をきたしても不思議ではありません。
また赤ちゃんは自分の要求を満たしてもらうことで、ママという存在が自分を守ってくれる存在だと認識していきます。
ということは、おしゃぶりを使用することで赤ちゃんの本当の要求を満たすことが出来ていない状況が、精神の発達に影響しないとも考えられません。
そして何よりも怖いのは、おしゃぶりを使用することで赤ちゃんの体調の変化を見逃してしまうことです。
赤ちゃんはしんどくて泣いている
↓
泣きやむという理由でおしゃぶりを使用する
↓
吸てつ反射によりおしゃぶりを吸ってしまう
↓
泣き止む
↓
赤ちゃんの体調の変化に気付くのが遅れる
という可能性もあります。
赤ちゃんにとっては、泣くという行為がコミュニケーションの手段であるということを忘れないようしましょう。
使用する際の注意点
おしゃぶりの使用は効果に対してのデメリットが多すぎるので正直お勧めは出来ません。
しかし育児をしていると、もうどうにもならないくらいに泣かれてお手上げだぁということもあると思います。
これだけ偉そうに解説している私でさえ、我が子のかんしゃくで大声をあげたくなったことは何度もあります(-_-;)
仕事で赤ちゃんのお世話をするのと、実際に24時間育児するのは全然違う。。。(独り言)
それによってノイローゼになってしまうという人もいるかもしれません。
もちろんノイローゼになりそうなくらい追い詰められているのなら、ママの健康と笑顔のためにもおしゃぶりに手伝ってもらいましょう。
なのでおしゃぶりを使用する際の注意点も説明します。
おしゃぶりはガチで最終手段にする
赤ちゃんは何かしらの要求があって泣いています。
・お腹が空いた
・オムツを変えて欲しい
・抱っこしてほしい
・横抱きじゃなくて縦抱きが良い
・パパじゃなくてママに抱っこしてほしい(その逆もあります)
・暑い・寒い
・しんどい
・眠いのに上手に眠れない
・服のシワが気になる
・ウンチを出したい
・オムツかぶれでおしりが痛い
・肌が乾燥してかゆい
・ちょっと散歩にいきたい(ちょっと外の空気を吸わせてあげることで落ち着くこともあります)
などなど実に沢山の要因が考えられます。
赤ちゃんって大人が思っている以上にデリケートで注文の多い王子様/お姫様です。
赤ちゃんが泣いたら、まずは様々な要因を考えて試してみましょう。
それでも赤ちゃんがかんしゃくを起こして「もう無理だ~!!」となったら、赤ちゃんを「一旦落ち着かせる」という目的でおしゃぶりを使用しましょう。
そして赤ちゃんが落ち着いたら、すみやかに片付けましょう。
また泣き止んだあとからでもいいので、赤ちゃんが何で泣いていたのか考えてみましょう。
すると「ウンチを出したい時によく泣くなぁ」とか「この子はたて抱きの方が好きみたい」とか赤ちゃんの個性がつかめてくるようになります。
個性がつかめてくるとママとしての自信もついてきますし、何より育児自体の精神的なストレスが減ります。
毎回消毒をする
カンジダ感染の予防のためにも、おしゃぶりは使用のたびに消毒しましょう。
哺乳瓶を同じようにミルトンで消毒します。
お祝いでプレゼントするのは控えよう
おしゃぶりに関しては、人それぞれ考え方が様々です。
もちろんどの育児物品に関しても人それぞれの考え方がありますが、おしゃぶりは特に考え方が分かれます。
そのためプレゼントとして贈るのは控えた方が無難といえるでしょう。
まとめ
おしゃぶりの使用目的
・精神的な心地よさ
・落ち着き
・痛みの軽減
おしゃぶりのデメリット
・母乳育児期間の短縮
・中耳炎のリスク
・嚙み合わせを悪くする
・コミュニケーションの減少
おしゃぶりを使用する際の注意点
・おしゃぶりの使用は最終手段とする
・おしゃぶりは毎回消毒する。
参考文献:桶谷 桐子 すぐに使える70の事例から学ぶ母乳育児支援ブック
大山 牧子 NICUスタッフのための母乳育児支援ハンドブック
仁志田 博司 新生児学入門
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