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発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
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February 2, 2017 09:30
by 江添 佳代子
スノーデンに恩赦を与えることはできないとオバマが語ったあとにも、「Pardon Edward Snowden(前々回に紹介した署名キャンペーン)」には世界中からスノーデンの恩赦を願う署名が集まり続けた。
言うまでもないことだが、「Pardon Edward Snowden」の活動は、「SilkRoadのウルブリヒトに減刑を」などの署名活動とはまったく異なるものだ。スノーデンは多くの人々にとって英雄である。ジャーナリストや活動家だけではなく、複数のIT企業やIT団体の代表者たちでさえ、彼の内部告発を「米国の諜報機関による人権侵害から、我々のユーザーを救ってくれた正しい行動」として堂々と支持している。そしてスノーデンは現在でも、法や人権に関わる活動を積極的に続けており、それらは世界中の教育機関や人権擁護派の人々から絶大な人気を得ている。
「Pardon Edward Snowden」(https://www.pardonsnowden.org/)
ここでPardon Edward Snowdenのウェブサイトを見てみよう。まずトップページには、この活動の主催者となった世界に名だたる3つのNGO人権団体「ACLU(アメリカ自由人権協会)」、「アムネスティ・インターナショナル」「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のバナーが掲げられている。さらに支援者のページには、Apple共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、Twitterの共同創業者兼CEOでありSquareの創業者兼CEOでもあるジャック・ドーシー、Wikipedia創設者のジミー・ウェールズ、そしてインターネットの父ことティム・バーナーズ・リー卿など、IT界の著名人たちの名前が並ぶ。
セレブ界からはスーザン・サランドン、ダニエル・ラドクリフ、ヴィゴ・モーテンセン、マギー・ギレンホール、ダニー・グローヴァー、マイケル・ムーア、アレックス・ギブニー、ピーター・ガブリエル、ゲイリー・ニューマン、アマンダ・パーマー等々が支援者として名を連ねている。もちろん、映画「スノーデン」監督のオリバー・ストーンと、主演のジョゼフ・ゴードン=レヴィットの名もある。
さらに元ホワイトハウス国家安全保障局長、元CIA役員、元FBIのスペシャルエージェントなどの元米国政府関係者、欧州各国の国会議員、世界に知られる名門大学の教授たち、数々の作家やメディア関係者、そしてペンタゴン・ペーパーズ事件の内部告発者ダニエル・エルズバーグ、さらには教皇庁社会科学アカデミーのマルセロ・サンチェス・ソロンド司教など、とにかく幅広いジャンルの著名人や識者たちが支援者として名乗りをあげている。
2016年1月13日、「Pardon Edward Snowden」は世界中から集めた110万1252人分の署名をホワイトハウスに届けた。その嘆願の書簡は、次のような言葉で締め括られている。
「エドワード・スノーデンが『人権』の英雄として、また歴史上で最も重要な内部告発者の一人として記憶されることになることを、私たちは確信しています。(中略)この『米国の内部告発者』の運命に対処することの重要性を、あなたに理解していただけることを私たちは望みます」
しかし結局、オバマ大統領はスノーデンの恩赦を発表することがないまま、1月20日に任期を終えた。任期終了の前日にあたる1月19日、オバマが最後に発表した恩赦は330人の受刑者(多くは罪の軽い麻薬犯罪者)の減刑だった。この「一度に330人の減刑」という規模は、米国史上最大である。オバマが8年間の任期中に恩赦を与えた人数は計1715人で、この数も歴代の大統領たちの中でダントツの一位となった。そんなオバマに110万人分の署名が提出されても、最後までスノーデンが許されることはなかった。
その一方で、オバマは1月17日にチェルシー・マニングの大幅な減刑を発表している。WikiLeaksに米陸軍の機密情報を漏洩したことで2013年に有罪判決を受け、35年の禁錮刑が課せられていたマニングは、この恩赦によって今年5月17日に釈放されることとなった。彼女もまた「良心に従って米国の秘密を漏洩した内部告発者であり、国を裏切った犯罪者」という肩書きで語られる人物だが、マニングの場合は海外へ亡命することもなく、米国で裁判を受けたのちに収監された。この点は、やはり大きな違いだったと言わざるを得ない。
さらに言うなら、スノーデンやWikiLeaksのアサンジが英雄として数々のイベントにビデオ出演し、観客の喝采を受けている間にも、マニングは刑期を務めていた。スノーデンがロシアでガールフレンドとフライドチキンを食べているときも、アサンジが英国で子猫をプレゼントされて浮かれているときにも、マニングは米国で犯罪者として扱われ、またトランスジェンダーとして好奇の目に晒され、何度か自殺を図りながらも信念を貫き、一人で服役してきた悲劇の人だ。
つまり、「米軍による民間人の射殺シーンを外部に流出させた元上等兵」として知られるマニングは、有罪判決が下った後の様々なエピソードまで含めて、人権派の人々から愛される要素が盛りだくさんである。その彼女に恩赦が与えられたことで、「両方は無理だったが……」と少しだけ溜飲を下げたスノーデンの支持者たちもいたかもしれない。
ともあれ、今後のスノーデンにどのような運命が待ち受けているのかは誰にも分からない。トランプ大統領とCIA長官のポンペオは、本当にスノーデンの送還をロシアに迫るのか? プーチンはその要求を受け入れるのか?「米当局が発表したとおり、ロシア政府がトランプを大統領に当選させるためのサイバー作戦を実施したのか否か」も断定できない段階で、それを予測することは不可能だろう。
オバマが任期を終えた日も、そのあとも、スノーデン自身はまるで何ごとも起きていないかのように普段通りのツイートを発信している。ちなみに彼は今年1月、任期終了前のオバマ大統領に宛てたメッセージを何度かツイートしていた。それは以下のようなものだった。
Mr. President, if you grant only one act of clemency as you exit the White House, please: free Chelsea Manning. You alone can save her life.
— Edward Snowden (@Snowden) 2017年1月11日
大統領へ。あなたがホワイトハウスを去るとき、ひとつだけ恩赦を与えるのであれば、どうかチェルシー・マニングを釈放してください。彼女の人生を救うことができるのは、あなただけです。
Let it be said here in earnest, with good heart: Thanks, Obama. https://t.co/IeumTasRNN
— Edward Snowden (@Snowden) 2017年1月17日
(チェルシー・マニングの恩赦に関して)ここで真剣に、誠実な気持ちで言わせてもらおう。ありがとう、オバマ。
(了)
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