ハクティビストがトランプをアメリカ大統領にした日(前編)

ケロッピー前田

January 31, 2017 08:00
by ケロッピー前田

ドナルド・トランプがアメリカ大統領に選ばれたことは大きな衝撃であった。それ以上に当選確実と目されてきたヒラリー・クリントンが落選したという事実は、イギリスのユーロ脱退に並ぶ予想外の出来事といえるだろう。だが、実は大統領選における大逆転劇はハクティビストたちの活躍によって引き起こされたともいえるのだ。

ジュリアン・アサンジが注目された2016年

12月に入って雑誌『TIME』のパーソン・オブ・ザ・イヤーが発表となった。ドナルド・トランプが時の人として選ばれたが、読者投票でトランプを凌ぐほどの人気を集めたのは、WikiLeaksの主宰者ジュリアン・アサンジであった。彼はハクティビスト(政治的ハッカー)を代表する存在として知られるが、2016年になって再び大いに注目されることとなったのは、ヒラリー・クリントンの私用メールを暴露し、ヒラリーこそ絶対に大統領にしてはならない危険人物であるとアピールし続けたことにある。2016年3月16日、WikiLeaksが公開したヒラリー・クリントン・メール・アーカイブには、ヒラリーが2009〜2013年までの国務長官時代に個人メールサーバーでやり取りしていた3万322通のメールが公開されている。また、そこには2010年6月30日から2014年8月12日までの私用メールを情報公開法に基づきPDF化した約5万ページに及ぶ書類もあった。

ヒラリーがISISの提供者!?

ともかく最も重要なポイントはヒラリーの私用メールの内容である。それについて、大統領選挙の投票日直前のインタビューでアサンジが答えている。

「ヒラリーの(ヒラリー陣営の選挙対策委員長ジョン・ポデスタとのやり取りを含む)メールによって暴露されたのは、ISISの資金はサウジアラビアとカタールの政府からきていることです。ヒラリーの国務長官時代、アメリカはサウジアラビアと過去最大規模の武器売買をしており、その額は800億ドル以上です。実際、アメリカの軍需産業の輸出もそれまでの2倍になりました」
クリントン財団に資金を提供している人たちがISISを作ったということでしょうか? という質問に対して
「はい、そうです」
と回答している、アサンジは平然と「イエス」と答えているが、これは重大なことである。「ヒラリーがISISを作った」ということこそが私用メール問題が大スキャンダルとなった理由だ。

なぜヒラリーは私用メールを使ったのか!?

2011年、ヒラリーが国務長官であったとき、彼女はリビアの首都トリポリに赴き、当時リビアの指導者であったカダフィの殺害(同年10月20日)に絡んでCIAの秘密工作を指揮したとされる。

だが、2012年9月11日、リビアの第2の都市ベンガジでヒラリー直属の外交官で駐リビア米大使となったクリス・スティーブンスを含む米政府関係者4人がテロリスト集団に殺害される事件が発生した。責任問題を追求する過程で、ヒラリーは国務長官という国家機密を扱う重要なポストにありながら、公務上の連絡を私用メールで行っていたことが発覚したのである。なぜヒラリーは公務に私用メールを使ったのか? それはオバマ大統領や政府関係者には知られては困る私的な情報漏洩や極秘活動を行っていたからである。

2015年3月3日、ヒラリーの私用メール問題が初めて大手マスコミで報道された。しかし、すでに2013年3月、Guccifer(グッチファー)と名乗るルーマニアのハッカーがヒラリーの補佐官だったシドニー・ブルーメンソルのメールアカウントをハッキングし、ヒラリーが私用メールを使っていたことを暴露している。 ハクティビストとして長年活躍してきた彼は2014年にルーマニアで逮捕されて7年間の刑を受け、2016年にアメリカに移送されてさらに52ヵ月の刑を課されて服役中である

ベンガジ事件を調査する特別委員会は、2014年にヒラリーに私用メールの提出を命じており、ヒラリー側は同年12月に約3万通のメールをプリントアウトした5万ページの書類を提出し、約3万通はプライベートなものなので削除したと返答した。しかし、その削除した3万通こそがヒラリーが最も見られたくないメールであった。

大統領選挙の妨害工作が行われた

2016年7月27日、トランプは「ロシア、もし聞いているなら、ヒラリーが削除したメール3万通をみつけてくれるといい」と演説してマスコミを騒がせている。アメリカ大統領選挙のクライマックスでヒラリーの私用メール問題がハクティビストたちの重要なターゲットして浮上することとなった。そして、WikiLeaksがトランプの願いを叶えるかのごとく、ヒラリー陣営の関係者のメールを次々にリークして彼女を追い詰めていくことになる。

ちなみに、アメリカ大統領選挙の二大政党の代表を決める党大会は、共和党は7月18日から21日、民主党は7月25日から28日に行われ、それぞれトランプとヒラリーが指名された。そのタイミングで7月22日にWikiLeaksがDNC(民主党全国委員会)から流出した2万通ものメールをリークした。そのメールから、ヒラリー陣営が民主党指名候補のライバルとなっていたバーニー・サンダースに対してありとあらゆる妨害工作を行っていたことが明らかとなった。

民主党の党大会前日の24日、ヒラリー陣営の中心的存在で民主党全国委員会会長のデビー・ワッシャーマン・シュルツが党大会後に辞任することを発表。その辞任は流出したメールが本物であることを認めるようなもので、サンダース支持者たちが党大会で激しい抗議行動を展開して大荒れとなった。

8月9日、WikiLeaksのジュリアン・アサンジがネット番組「デモクラシーNOW」において、ヒラリーとリビア・ベンガジに関するメール1700通を(大統領選挙直前の)10月に公開すると宣言した。このことからヒラリーの私用メール問題はますます大炎上していくことになる。

ハッカー視点でみるなら、2016年の大統領選挙は、権力と金に溺れるヒラリー・クリントンの野望を私用メールのハッキングで告発しようというハクティビストの戦いであった。そして、その戦いは大統領選挙の投票日当日に向けて、激しさを増していくこととなる。
 
(後編に続く)

ケロッピー前田

ケロッピー前田

1965年東京生まれ。千葉大工学部卒。白夜書房(コアマガジン)を経てフリー。90年代半ばより雑誌『BURST』で国内外のアンダーグラウンド・シーンをレポート。『ハッカージャパン』(白夜書房)では、ハッカーカルチャーやサイバー戦争について執筆して好評を得てきた。

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