これはちょっと話が飛んで
私が「天国に一番近い会社」に入社して
2年目位の時の話です。
ほんとは時系列順に話すべきなんですけど、
何となく書いてしまいました。
いつもの朝
「おはようございますー」
いつもの朝、
いつも通り、会社に出勤すると、
部長と課長達が金属バットを片手に
「あの野郎ぶっ殺してやる!」
と騒いでいました。
部長はいつだって
相変わらずの武闘派です。

(ああ、なんかあったんだなぁ・・・・)
そんな時!
私は巻き込まれないように遠くから
そぉーっと
部長の前を通り過ぎて、聞き耳を立てます。

部長達の話をコソコソ聞いていると、
「サカモトが逃げやがった!」
と言っていました。
(ああ・・・なんだ・・・失踪の話か。)
何事かと思っていましたが、少しだけホッとします。
そうなんです。
私の後輩にあたるサカモトが、ここ数日会社に来ていないのです。

(でも何で部長達は怒っているんだろう?)
私が前に居た「飛び込み営業の会社」ほどではありませんが、
この会社でも、
あまりの待遇の悪さに「嫌気」が差して
失踪してしまう社員がチラホラいました。

といっても月に1人か2人か3人位なので、
大したことはありません。笑
怒り狂った部長は「愛用の金属バット」を担いで
会社の近所にあるサカモトのアパートに向かっていきました。

しかし、すでにサカモトの姿は無く、
行方もわからなくなっていました。
失踪なんて日常茶飯事な事ですから、
部長達がサカモトくんに怒っていた理由は、
「失踪したから」ではありません。
サカモトくんが
「大きなクレーム」を起こして失踪したからでした。
お客さんは大激怒しており、
会社に乗り込んできて、
「オマエの会社に賠償請求する!」
とかなんとか言い出したのです。

お客さんはあくまで被害者です。
そのサカモトが起こした
「クレームの内容」はもうメチャクチャな内容でした。
お客さんの話によると、
たまたまお客さん先へ納品対応に行っていたサカモトが
追加注文を検討していた、お客さんの質問に対して
デタラメな回答をしていたそうなのです。

お客さんがサカモトに質問します。
「これってこういう事も出来るの?」
サカモトはそれに答えます。
「大丈夫です!出来ます!」
「これの料金って追加だから安くならないの?」
「ご希望の金額にします!」
「これの納品は◯日までに出来る?」
「モチロン大丈夫です!任せて下さい!」

まぁ「お客さんの話によると」ですが
このサカモトの回答が全部デタラメだったワケです。
そして今、
サカモトが失踪後、
納品間近にそれが発覚して、
会社中が大騒ぎになっていたワケなのです。
部長は血管が爆発しそうなほど、
顔を真赤にしながらこう言いました。
「あんの野郎・・爆弾置いていきやがった!」

爆弾・・・・そうですね、爆弾です。
サカモトはこのクレームを故意に残していったのです。
もちろん自分が辞めてから、爆発するように・・・・・。
ドッカーン。

目的は?
もちろん会社への報復でしょう。
こういう報復は、
ブラック企業あるあるだとは思うんですけどね・・・。
報復の理由は恐らくコレでしょう。
実は営業成績が悪かったサカモトに対して、
会社は
「一旦退職させて、アルバイト契約にする」
という鬼のような仕打ちをしていたのです。

これはもちろん
二日酔いで機嫌が悪かった
神(社長)の意思によるものです。
私も・・・(これはさすがにやりすぎだ)と思いました。

しかし、地元から遠く離れたこの土地で
一人暮らしをしているサカモトは、
生活の事もあるので、これを拒否する事も出来ませんでした。
アルバイトだとしても、収入がある事は大きい。
あと・・・・サカモトは少々の浪費癖もあったのですが、
毎月年老いた祖父と祖母の為に仕送りをしていたのです。
サカモトは幼いころに両親が離婚して失踪していたので、
小さい頃から祖父と祖母に育てられていたそうなのです。

まぁ前科もありました。
暴力沙汰とかで少年院に入った程度のモノでしたが・・・。

1度だけ酒の席でサカモトから
「もう家が貧乏で高校にも行けず、どうしようも無かった・・」
という話を聞かされてた事があります。

最後に泣きながら
「おれはどうすれば良かったんですかねっ!?」
とサカモトに言われて
・・・・私は何も答える事が出来ませんでした。
うーん・・・・
これは・・・たぶん
自分が犯罪に走ってしまった事とか、
こんなクソブラック企業に入るしか無かった事は
「家庭環境」がそんな状態だったんだから仕方ないでしょう?
と言いたかったんだと思います。
うーん・・・考えてみたのですが、
これにどう回答すれば良かったのか、
未だに思いつきません。

会社ではサカモトの行方捜索が開始されました。
部長はサカモトの祖父母へ連絡していました。
他の社員は、
数名でサカモトのデスクをガサガサと漁ります。
書類等は沢山残されていたのですが・・・
しかし、いくら探しても「何も見つかりません」

部長もくやしそうにカベをドンしていました。

そう見つからない・・・・・・ハズです。
実はサカモトが失踪した直後、
私がサカモトを追跡できそうなモノを
全部処分しておいたからです。

こっそり。
サカモトの失踪はもうガバガバで、
(たぶんここに逃げたのかなぁ・・・)
と思われるような会社の名刺とか、
転職先?の給与待遇のメモとか、あとPCの検索履歴とか・・・・。

追跡出来る情報が有り余るほど残っていました。
まぁもしかしたら、サカモトがわざと残した
フェイクの情報の可能性も考えましたが・・・。
まぁ・・・たぶん・・それは無いと思いました。
本人もヤケクソで失踪したのでしょうから。たぶん。
なんでそんな事をしたのか?と聞かれますと・・・。
「これが正義だ!」なんて事は思っていませんが・・・。

営業成績の悪い後輩のサカモトを
「強引にアルバイトにした」
そんな会社のやり方に不満を感じていたからです。

普通に会社を辞めようとしても
アルバイトで安く雑用させられるサカモトを
会社が逃がすわけがありません。
「恩をアダで返すのか?」とか何とか言われて、
なかなか辞めさせてはくれないでしょう。
サカモトは雑用しかしてないので、
引き継ぐものもありませんし。
だからサカモトが失踪した時は、
(会社に追跡させずに、逃してやろう)
と思ったのです。

モチロン本気で追跡しようと思えば、
いくらでも方法はあるでしょうが、
この会社はそこまでの追跡をしない事は事前にわかっていました。
(失踪者の前例がいくつもありましたから。)
ただ、サカモトが「クレーム爆弾」
を残していたのは完全に予想外でした。

大誤算。
部長や他の同僚が必死にサカモトの居場所を探す中、
自分だけがサカモトの行方を知っているわけです。

(まさかこんな事になるとは・・・)
さすがにこれだけ大きなクレームを起こしたのであれば、
サカモトの居場所を言わなければいけないだろうか?

私は汗をダラダラかきながら考えました。

(何が正しくて、何が間違っているのか・・・・)
みんなが見つけられる範囲にあった
サカモトを追跡できる証拠は全部処分していましたが、
実は・・・サカモトへの唯一の手がかりとなる証拠を
私はまだ手元に残していたのです。

私が事前にサカモトが失踪する事に気づけたのも
実は「ソレ」がキッカケでした。
これを部長に差し出せば・・・・
サカモトの居場所がわかるかもしれない。
しかし・・・・話はそれで終わりません。
そう・・・サカモトだけじゃない!
実はもしかすると
コレを差し出す事で、
これまで会社から失踪した従業員達の居場所も
バレてしまうかもしれないのです!

一体どうすれば・・・・。

つづく。

オイシイ