違っても好きな人

明けましておめでとうございます。
今頃こんな挨拶をするのはおかしい気がしますが、今年最初の宋メールであることに気付いてほしいからです。

昨年の終わりに号外を出して来年は事務局の都合で出せないかもしれないと申し上げましたが、おかげさまで今のところ事務局をやってくれているソフトブレーンに変化はありません。
(昨年の号外:http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/detail/post_25.html

正直、ここ数年、宋メールも含め、そもそも世の中にメッセージを発信して何の意味があるのかとよく自問しています。テレビも新聞も以前よりずっと無難で台本通りの番組を作り、ネットでも意見が合う人同士が結束し、異なる人を攻撃する所謂「炎上」も日常茶飯事です。人は聞きたいことを聞き、認めたいことを認め、聞きたくないことを聞かない、認めたくないことを認めない、そういう主観的な動物なのです。

私も当然例外ではありません。意見が合わないとついつい「あの人は井の中の蛙」、「あの人は思い込みが激しい」、「あの人は知らないくせに喋りたがる」と考えてしまいます。せっかくビジネスから引退して平穏で幸せな日々を送っているのに、いちいち心の中で文句を言う自分が情けなくなることはよくあります。

しかし、ここ一、二年でそれを避ける良い方法を見つけました。ついつい文句を言いたくなるようなメディアを見ざる、出ざる。ついつい悪口を言いそうな人と会わざる、関わらざる。そうすると急に自分が穏やかになり、心の平和が保てるようになりました。

私がトランプ氏が大統領に当選するのではと思ったのは一年以上前に彼の講演を聞いて好きになったからです。もし嫌いだったらきっとその後の彼の講演内容を馬鹿にして「頭がおかしい」と決め込んで聞かなくなったでしょう。

好き嫌いは人間の避けられない感情である以上、素直に受け入れるしかありません。むしろ好き嫌いの理由を冷静に見つめる努力をしたほうがためになると思います。

私がトランプ氏を好きな理由は彼の中国への態度によるものではありません。彼が選挙中も今も中国を最大の敵にしていることは周知の通りです。彼は外国人や移民に対しても厳しい見方をしているのです。私の四人の子供は米国に居て彼らの先生も含めて皆がトランプ反対です。

それでもトランプ氏を嫌いにならない理由を見つめたいと思います。

「彼は嘘吐きだ」「彼は思い込みが激しい」「彼は米国の普遍的価値観を大切にしない」「彼は人種や性別の差別者だ」などなどの批判は結構当たっています。しかし、それでも半数の米国人、しかも特に昔から米国に移民してきた白人たちがなぜ彼に投票したかを考えるべきです。彼は実に本当に米国の将来を心配し、数十年後の米国の姿をはっきり想像できているのです。クリントン氏のように20世紀型のイデオロギーに生きていないのです。

20世紀では米国は民主主義を広げるために経済の果実(市場)を弟分たちに気前よく分け与えてきたのですが、いよいよ米国民自身がやっていけなくなりました。チェンジを訴えて当選したオバマは微調整したものの、価値観の面子を下して米国民の所得向上に失敗したのです。昨年5月の宋メールでも触れましたが、(http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/detail/back302.html)米国の中産階級以下は全員、所得がリーマンショックの前より減ったままです。富裕層とエリート層が増えたのに対してそのほかの階級は減ったのです。この現実を知ってもう一度トランプ氏の就任演説を読むと彼が誰の心に何を訴えているかがよく分かります。

「民以食為天」(民は豊かにしてくれる体制を支持する)。このような率直な考え方は私のみならず、多くの中国人の中にあります。民主主義や自由も大切ですが、豊かになることと自由になることは連動しています。本当に豊かになれるならば、自由は自然についてくるのです。第一、人間がまず一番必要としている自由はお金の自由なのです。

食えない普遍的価値は米国人も食わないのです。中国は明らかに米国の真のライバルです。敵にして当然です。自由貿易は聞こえがよいのですが、得して初めて意味があります。自由貿易を主張しているのは昔も今も生産力と貿易力に優れた国です。日本に開国を迫る黒船時代では、英国と米国の生産力と貿易力が世界のトップに立っていたからです。

結局、私がトランプ氏を好きな理由はトランプ氏およびトランプ氏を代表した米国人の考え方に親近感を感じたからです。これは私の限界でもあります。私は米国や日本のような民主主義をうらやましいと思いませんし、中国は米国のようになってほしいと思いません。当然、今のような中国がよいとも思いませんが、それぞれの国が自分達の手探りで前進すればよいと思います。生き詰まったらその体制が自然に崩壊し、また別の模索が始まるのです。中国人はそのことを「国破れて山河在り」と表現しているのです。

中国語の「国破山河在」の意味は「政治体制が崩壊しても大切なものは無くなっていない」です。(大切なものは人間、文化、資源などです)。人民は「国体」に拘るはずもありません。「国体」に拘るのは体制側であり、体制に洗脳された人々です。トランプ氏とその支持者達が「米国の価値観」に対して「I don’t care」と言えるのはむしろ米国の革新力の象徴です。これはケ小平時代の社会主義論争と似ています。

当時、ケ小平の社会改革が社会主義の価値観を壊しているとの批判に対してケ小平が「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕まえる猫はよい猫だ」と言ったり「現実は真理を検証する唯一の基準だ」と言ったりして押し返しました。私の運命を変えてくれたのはケ小平でした。「人民を搾取した」実業家系のせいで私達家族は差別を受けていたのですが、いきなり自分の能力と努力で富と尊厳を勝ち取れるようになったのです。こうやって読者の皆さんと出会えたのもケ小平の改革のおかげです。

「別れても好きな人」ではありませんが、「喧嘩しても好きな人」というのが存在すると思います。これからの世界をみれば、米中の競合は避けられません。どうせ喧嘩するならば、トランプ氏のような率直で前向きな分かりやすい人がよいと私は思います。トランプ氏が成功するかどうかはわかりません。将来の現実が検証をするでしょう。しかし、失敗を恐れて変化をしないことこそ最も恐ろしいことです。

宋メールを読んでくださる皆さんもきっとどこかで私と同じ持ち味や性格である可能性が高いと思います。嫌いならば読んでいないと思います。お互いが「違っても好きな人」という「危険性」が高いと思います。

ということで皆様、今年もよろしくお願いいたします。
この記事へのコメント
まずは宋さんのメールの継続に安堵しました。違っても好きな人、自分に問いかけ思い当たる所がいくつかあります。1.何が違うのか2.どうして好きなのか。冷静に思い直し、その相手を改めて分析し、自己啓発と自分に欠如領域を補って生きたいと思います。今年もよろしくお願いいたします。有難うございました。
Posted by 小村雄一 at 2017年01月27日 08:50
ケ小平の「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕まえる猫はよい猫だ」という言葉は半分は背景から理解できるのですが、半分は勝てば官軍、結果オーライのようで、責任放棄、投げやり、思考停止がイメージされてあまり好きではありません。議論の最後の局面において、或いは上からの押し付け、Excuseとして納得せざるを得ないのかもしれませんが。単なる個人的な意見です。
Posted by 江川彰彦 at 2017年01月27日 08:52
ケ小平の「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕まえる猫はよい猫だ」という言葉はあまり好きになれません。半分はかれの置かれた立場、時代背景として理解できるのですが、半分は勝てば官軍、結果オーライと同様に、プロセスが無視され責任放棄、投げやり、思考停止がイメージされて、結局は議論の最終局面における上からの押し付けのように感じられてしまいます。個人的な感想です。
Posted by 江川彰彦 at 2017年01月27日 08:58
納得しました。
国破山河在
これからもいいお話を聞かせて下さい。
Posted by 真力 at 2017年01月27日 08:59
年末の号外で宋メールが読めないかもと思ったので、たいへん悲しい気持ちになっておりました。また読めるようになり喜ばしい限りです。私はトランプ大統領の世界経済に対する無知・無理解を危惧しております。世界的分業が世界の格差をなくす方法ではないでしょうか。米国の対中国貿易が大幅な赤字だと攻撃していますが、中国でi−Phoneを生産しているアップル社は大幅な利益を上げています。極端ではなく中庸の思考が必要ではと思います。
Posted by 岸 悦男 at 2017年01月27日 09:09
宋さんお久し振りです。宋メール、最近拝見しないなぁと思っていたので再会を嬉しく思います。さて、トランプ大統領就任後、世界は良識という虚飾を脱ぎ捨て、動物的な感情を前面に出すことを躊躇わない世界に、事実よりは流言飛語という、感情に流される世界になったといえると思います。メディアに対する信頼は大きく崩れつつあり、私たちは誤情報への自衛がより一層必要となっています。宋さんメールは「違う」意見を読める貴重な場で私はとても大事におもっています。好きか?嫌いか?というより知性に裏付けされた異なる意見が私が生きていく上で必要です。今年は今まで以上に宋メールが必要です。今後ともよろしくお願い申し上げます。以上
Posted by 垣沼裕司 at 2017年01月27日 09:11
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲がり者です。

私が「違っても好きな人」かどうか判りませんが、今年もこの「宋メール」を拝読させていただきます。

宋さんは『20世紀では米国は民主主義を広げるために経済の果実(市場)を弟分たちに気前よく分け与えてきたのですが、いよいよ米国民自身がやっていけなくなりました』と仰っていますが、民主主義であろうと共産主義であろうと、米国なり中国なりGDPで1、2位を競うトップの国には、エクセレントカンパニーと同様にそれなりの「義務」というものがあると考えます。

この「義務」は覇権を得るために、アフリカ諸国や東南アジア等の開発途上国へ札束で頬を張るような行為ではありません。

「アメリカ第一主義」は米国の大統領として当然ではありますが、同時に世界の安定に資する義務も、世界ナンバーワンの米国大統領にはあるはずです。

自国さえ良ければという「ミーイズム」は、自分さえ儲かれば偽物だろうが模倣だろうが何でもありという考えや、子供の気持や将来に配慮することのない離婚などの蔓延を助長するものだと思います。

このままでは、中東からの難民だけではなく、アフリカからの難民やチベット族・ウィグル族等の難民が激増し、世界の秩序が崩壊しかねないと思います。

中国の南シナ海までの「九段線」から出ている南沙諸島の軍事施設化(当初中国は観光地だとの虚報を出していました)は、札束の他に腕力を以って世界を牛耳ようとする姿勢と、2兆円もの費用を投じてメキシコ国境に壁を造り全額メキシコに払えと恫喝するトランプ大統領と同じに見えてきます。

これを、日本では「同じ穴の狢」と言います。
Posted by 田中 晃 at 2017年01月27日 09:17
号外からの流れで、無事宋メールを拝読できて嬉しく思います。
このようにコメントさせて頂くのは初めてですが、また読むことができての嬉しさをお伝えしたく。

Twitterでコメントをと思ったのですが、宋さんの最近のコメントが辛辣過ぎて…今回のメールから感じる穏やかさとは違うと感じたため、こちらに記入しようと思いました。
(特に、トランプ氏に好意的な視点から考えると日本の保守派政治に辛辣なような…?すみません、脱線です。)

国破れて山河あり。本当に大切なのは個々人の倫理観であっあり、自立心であったりと思います。

宋さんのメッセージ、考えは、私にちゃんと響いています。
直接反応は今まで出来ていませんが、自身の思考や価値観との照らし合わせを行う機会となり、自分なりの考えを深めるいい機会となっています。

これからも、仮に宋メールをやめたとしても、何がしかのメッセージを発信し続けて頂きたいな、と思っています。

乱筆乱文ご容赦ください。
Posted by yo at 2017年01月27日 10:14
久々にまっとうな宗メールを読んでホッとしています。ここ1年ほどは宗さんの決めつけ日本人論には正直辟易していました。いい悪いの評価は自由ですが日本には語らない美徳があります。サイレントマジョリティに大きな力があります。宗さんに見えているまわりのおしゃべりな日本人は.....、。日本人の強さ、怖さはそこじゃないんだけどなあと思っていました。富以外には成功の尺度がない宗さんには仕方ないかもしれません。世界の見方を中国の叡智から語る宗さんは尊敬しています。やはり中国は偉大だと改めて認識します。何の得にもならないことだとおもいますが大韓民国にも今度触れて下さい。語らない方の日本人がさろそろ怒っています


Posted by 水野 裕三 at 2017年01月27日 10:14
メルマガ継続とのことなので、継続して拝読します。今回も、ツッコミどころ満載ですね。
以前より、宋さんは「嫌ならオレのツイッター見るな」と繰り返し発言してきました。それなら、ご自身も嫌いな日本(人)に絡むのは止めたらいかがですか?「人は主観的な動物」であり、ご自身も例外でないと言いながら、ご自分の言説については「これは偏狭な考えで言っているのではない」というようなことをよく強調されますよね。
「文句を言いたくなるようなメディアを見ざる、出ざる」というなら、先日の「朝ナマ」での三浦氏に対する暴言は何なのですか?「悪口を言いそうな人と会わざる、関わらざる」というなら、昨日のツイッター「安倍は漢字が読めないのは無学だからではない。反中だからだ。」は何ですか?「好き嫌いの理由を冷静に見つめる努力をしたほうがためになる」なら、まずはご自身の安倍嫌いを分析してはいかがでしょうか。
私のメルマガへのスタンスは、以前はまさに「違っても好きな人」という認識での「傾聴」でしたが今は「監視」と変わりました。今後も是々非々で臨み、論理矛盾や事実と異なる記述、アンフェアな行動等については指摘させていただきます。宋さんのファンの方には耳障りかもしれませんが、宋さんの「実体」を知った上でフォローしていただきたいからです。
Posted by H.Mari at 2017年01月27日 10:18
対立軸はアメリカVS他国でアメリカファースト主義を煽って大統領になったトランプ大統領だ

恫喝で雇用をアメリカに呼び戻し国境に壁を築き高い関税をかけ防衛費負担増額を要求するだと

おいおいアメリカ人労働者の多くが豊かさから脱落して貧困層へ接近した原因は他国労働者との賃金安競争に敗北したからだろう

しかもその他国の安い労働力で散々稼いだのは少数のアメリカ人資本家だった

つまり対立軸は少数資本家VS多数労働者であり まずはアメリカ国内で累進課税の推進、税の再分配の修正をしたほうがアメリカ人労働者は早く豊かになる

トランプ大統領の思惑は何処にあるののかないのか愚民主主義の幕開けだ
Posted by 主水 at 2017年01月27日 10:32
全く同感です。
Posted by TOSHI at 2017年01月27日 10:42
先ずは、継続おめでとうございます。
新年になって良いニュースの一つです。

失敗を恐れてチャレンジをしないことは、もっとも恐ろしい、は大賛成です。
トランプ革命が成功するかどうか、誰もわからないと思います。それを決めていくのは、世界中の一人ひとりのように感じています。

これからも健筆を期待します。
Posted by Sam Roppongi at 2017年01月27日 10:49
もう宋さんのメールが読めなくなるのかと、、、思っていましたが、今回配信されてうれしく思います。私も「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫は良い猫である」ということ、また「まず富めることのできる者から富む」というケ小平さんの言葉に納得しています。白い猫も黒い猫もネズミを捕まえてからどうするか、まず富むことができたものは、その後どうするかが大事だと思っています。黒い猫、白い猫、まず富むことができた者、そうでない者はシーソーの両端だと思っています。このシーソーのバランスを取ることがとっても難しです。宋さんのメールを拝読して、私は自分の中でこのシーソーのバランスを取る「重し」のひとつにしています。今後の益々のご活躍を祈念します。
Posted by ぱお at 2017年01月27日 11:09
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