キンコン西野氏を批判する暇があったら

キンコン西野氏が自作の絵本をネットで無償公開した件がネット界隈で大炎上しています。コンテンツ業界を殺すのかという激しい批判がある一方、海外経験豊富な @May_Roma (めいろま)さんは、炎上している暇があるならこの件から学べといいます。

キンコン西野氏がネット界隈で大炎上しておりますね。

最近出版された『えんとつ町のプペル』という同氏の絵本がネット上で無償公開されているからです。

ワタクシもこの絵本のネット公開版を拝見しましたが、緻密な作画で色合いも若干暗めの自分好みな感じで、これは紙の本を買いたいと思いました。

声優さんやライター界隈、漫画界隈から「焼畑農業だ」「市場を殺すのか」という声が上がっています。しかしネットで物を書いている自分としては、批判するよりも同氏の成功事例からよく学ぶべきではないかと思うわけです。

そもそも同氏のモデルはフリーミアム(Freemium)というもので、ネット界隈だけではなく、実は19世紀から企業がやって来た商売のやり方です。お客様に無料でサンプルをお配りしてその良さを知っていただき、気に入っていただければ買って頂く。無料なので気に入った人は友達や家族にも紹介したり話す可能性が高いわけです。

詳しくはクリス・アンダーソンの『フリー』という本にかかれていますが、使い捨てカミソリもコーンフレークも、アメリカで売り始めた当初は胡散臭い品物と思われていました。誰も買う人間などおらず、無料のサンプルを配りまくって、ようやく売れるようになったわけです。自由の国アメリカ様であっても、新しいものというのはなかなか受入れてもらえません。ドブ板営業はどこでも同じであります。

フリーミアム(Freemium)とはなんとなく西洋風の概念でありますが、日本でもこのやり方は古くからあります。しかも他の国より激しくやっています。

まず有名所としては、老人が集まる公園で鍋を売っているアレです。アレに捕まると、営業マンが家まで来てくれてナッパを茹でてくれますが、ナッパがよく茹だる上に、若い人がこ汚い家まで来てくれて、ご飯まで作ってくれて半日喋りに付き合ってくださる。そこまでしてくれると、なんか買わないと悪いんじゃないかという気になって、60万円の鍋を買ってしまうわけです。

ワタクシの婆さんの家にも一年中営業マンが来ていましたが、良いものを実際に使わせる、さらに、無料でなんかやって恩を売るというやり方は、なかなか賢いと思いました。無料で恩を売るというのは、年寄りや貧乏人にほどよく効くのです。

そもそもスーパーやデパートでアレほど試食販売やってる国は他にありません。腹が減っている時に香ばしいソーセージの匂いがぷーんと漂ってきて、そこで「はい、お兄さん、どうぞどうぞ」といわれて食べてしまえば、やっぱり目の前にあるものは買ってみようかと思ってしまうものです。 ドラッグストアでは離乳食やら化粧品のサンプルもドンドン配ります。

ワタクシは昔ドラッグストアでバイトしていましたが、試供品の量が膨大で、かごに入れるのさえ大変だったものです。お客様はドケチですから、タダのものはドンドン持っていきます。しかし、タダで配っている物は、気に入っていただけることも多く、わりと売れたりします。

ワタクシは私立にの女子校に通っておりましたが、週に2−3回はどこかの企業が生理用ナプキンやらチョコレートやらを配りに来ておりました。企業はどういう人間なら金を出すということを知っています。配るということは銭になるからです。

一方欧州や北米はこんなに試供品を配りません。あってもほんのちょっとだったりします。ロシアやハンガリー、チュニジアですと、ないに等しいのであります。

国によっては品物に触ることもできません。イタリアやフランスの個人商店だと品物はカウンターの奥にあって手にとることもできません。店は他人様のお宅だからです。ジャポネーゼとかチネーゼは勝手に品物に触るのでケシカランと激怒している店主がかなりいます。

しかし、配らない結果を見ますと、日本と配らない国の食品売場のどっちがうまく行っているかは一目瞭然であります。

イタリアやイギリスのデパ地下(一応ある)の食品売場もスーパーも活気がなく、面白くもないので客が来ません。化粧品も日本ほどいろいろ試しません。ケチだというものありますが、どういうものかわからんというのがあるでしょう。

一方で、英語圏では面白いのは、本とか音楽に関しては無料でドンドン配ることです。イギリスではハードロックやヘビーメタルの雑誌にはDVDやCDがついておりますが、CDの場合はアルバムまるごとです。ネットで曲を共有することにもあまりうるさくありません。コンサートではスマホ持ち込み放題で撮影しまくりです。

なぜOKかというと、曲が口コミで広がれば広がるほどコンサートに来る客やTシャツを買う客が増えるからです。ネットで無料で広まったお陰で、今ではメタルというのはインドやサウジアラビア、アフガニスタン、ガーナ、タンザニアなどですらファンがいます。そのあたりからわざわざ見に来る人がいるほどです。

本のサンプルも一章まるごととか、わりと大胆に配ります。新聞に小説が一冊ついていることもあります。デジタル無料としている場合もあります。その代わり、デジタルばっかり見ているとやっぱり紙の本が欲しくなりますので、豪華な愛蔵本などを出して儲けるわけです。

ちなみにワタクシもツイッター中心にネットで無料で駄文を巻くことで、本を出したり、ラジオに出させてもらったり、全国紙の新聞に乗ったり、企業様からコンサルティングの仕事を頂いたりしております。このコラムも最初の一週間ぐらいは無料で読めますので、そこから新しい読者様が増えることあります。

ツイッターで「アナルが痛い」と呟いても一円の銭にもなりませんが、「早くあのジジイ上司死なねえかな」と思っているお方が、市場情報など見るふりをして「いぼ痔が挟まって痛い」「今週も草刈り鎌でぶち殺してる奴がいたわ」とか、なんといいますか、そういう下品極まりない垂れ流しを読んで、ちょっとこいつ何者なのと思って、取り敢えず会ってみたいから会社の金で仕事依頼してみるか、とか思いまして、会ってみたら、時々謎の擬音を発するキモヲタだったということが発生しているわけで、無料でぶりまくというのは商売としてありということです。

無料で配ってなかったら、ワタクシはキンコン西野氏の名前を知ることすらなかったでしょうし、絵本をやっているということも知らなかったでしょう。

そういうわけで、世の中のサラリーマンも漫画家も、売れない売れないといってる前に、アナルが痒いとかネットで呟いてみるのがよいでしょう。

ケイクス

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May_Roma

海外居住経験、職業経験をもとに、舌鋒鋭いツイートを飛ばしまくっているネット界のご意見番・May_Romaさん。ときに厳しい言葉遣いになりながらも彼女が語るのは、狭い日本にとじこもっているひとびとに対する応援エールばかり。日本でしか生き...もっと読む

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コメント

slatake フリー戦略知らないのか。そもそも本屋自体がフリー戦略じゃんね。 21分前 replyretweetfavorite

yujirotakemoto そうよ西野氏はまっとうな商売をしているにすぎないのだし、絵本作品自体がそこそこいいものに仕上がってるからこそ売れたのだと思う😄 29分前 replyretweetfavorite

bushdog フリーミアムは別に新しくないしマーケ戦略のひとつ。それはそうなのだが、だとするとよけいに「何とかからの解放宣言」とか大仰すぎてうさんくさいし、それに感動する層への「なんだかなぁ」感(笑)。: https://t.co/LI4rvw0Rdm 42分前 replyretweetfavorite

matsudayuuichi 無償で公開されてるのだし、声優目指す人なら自分で朗読した動画でもアップして名前を憶えてもらうきっかけにすればいい 約1時間前 replyretweetfavorite