不妊治療の「採精室」には人妻ものAVがある
—— 『出産の仕方がわからない!』では紺野さんの変態紳士ぶりもあますところなく描かれていますが、抵抗はなかったですか?
紺野 そうでした? たしかに「よくそこまで描くのを許したね」と言われることもあるんですけど、隠すようなこと、描いてあったっけ? と思います。
カザマ 彼は基本的に心臓に毛が生えているので、細かいことを気にしないんです。
紺野 おもしろいならなんでも描いたらいいんじゃない、って思ってますね。
カザマ 本当にこういうタイプなんですよ。一応確認をとっても、「ああ、そう? じゃあいいよ」って返事が返ってくる。
—— 男性の精液を容器に採取して、病院まで持っていくエピソードも衝撃でした。
紺野 あれも経験したおかげでマンガに描けてよかったじゃん。
カザマ 紺野さんはそう言うよね。まあ当時は大変でした。温度が低くなりすぎると、ダメになっちゃうんですよ。だから不妊治療仲間と「どこ入れて持っていった?」「私は胸の間……」とか話したりして。
紺野 家から持って行かないで、病院で採精すればいいというところもあって。不妊治療専門の病院だとあるんですよ、「採精室」。
—— 採精室……!
紺野 なんかね、漫画喫茶みたいな設備です。2畳くらいの個室になっていて、鍵がかけられて、マッサージチェアのような椅子の前に、エロマンガとかAVとか置いてある。
—— 人妻ものも置いてあるんですか。
紺野 ありますあります。
カザマ シュールだな!
紺野 ぼくが採精室使ったときは、知り合いの描いたエロマンガあったもん。
—— まさかの(笑)。
カザマ でも紺野さんは、基本的に自分の家にあるものを持参していたよね。
—— 持参も可能なんですか!
紺野 そうだね、持参してました。なかなかおもしろい体験でした。
「野生に還る」エピソードの真相
—— 紺野さんには、不妊治療〜出産にかけて「これはちょっと恥ずかしかったな……」というエピソードはありませんか?
紺野 いや、ないですね。
—— 即答!
紺野 女性がやらないといけないことに比べたら、男が恥ずかしく感じることなんて何もないですよ。女性なんて、お医者さんの前で足を開かないといけないでしょう。さすがにそれは大変ですよね。痛い思いをする時や、さらしたくないところを他人にさらす時もあることに比べたら、男は結局出すだけだし。
カザマ あれは本当につらい。機械に両足を固定されて、その機械がせりあがっていって、両脚がどんどん勝手に開くからこわくて……。あと、基本的にどの検査も痛いし。(でも産婦人科や婦人科の先生方には診察・治療していただいてとても感謝しています!)私は採卵があまりにもきつくて、あのときはさすがに不妊治療をやめたくなりましたね。「野生に還る!」という結論を出したことで乗り切ったんですけど。
—— あのエピソードもすごかったです。野生に還ったカザマさん……。
カザマ 実は自分でも記憶が定かじゃないんだけど、あれ、事実だよね?
紺野 うん、覚えてるよ。「天才!志村どうぶつ園」を見てるときだった。サルの出産シーンが紹介されてて。見てたら、カザマさんが「ああ、動物ってこういうものだよね」と言い出して。
カザマ なんか、サルに親近感をいだいちゃったんですよね。それからは自分でも動物の出産映像をネットで探したりして、野生としての士気を高めました。
やっぱり、私自身にはもともと「子供が欲しい」という気持ちがそこまでなく、「紺野さんが欲しいなら……」というところから始まったので、気持ちがぐらついたときもあって。「紺野さんのために不妊治療を頑張っている自分」に酔っているんじゃないかな?と悩んだりもしました。
—— どれだけ長期戦になるかわからないですから、心が弱くなるときもありますよね。これから子作りにコミットするかもしれない男性の方に、女性をささえるうえでのアドバイスはありますか?
カザマ 不妊治療というのは、不妊の原因が男性にある場合であっても、女性側の負担が多くなるものなんですよね。紺野さんのように大雑把に何でもOKしてくれる人は少ないでしょうけど、女性側だけが頑張るものではないという意識は持っていてほしいなと。お医者さんに股を開かされてる姿を、ぜひ想像してみてください……。
立会い出産のポイントは「アリーナに立たない」こと
—— 不妊治療のお話をじっくりうかがったところで、出産のお話にうつりたいと思います。カザマさんのマンガはとてもかわいらしい絵柄で、痛そうな場面でもかなりマイルドに読めたんですが……出産のシーンだけは、すごかったです。
カザマ リアルに痛そうな描写のマンガを読むのがあまり得意ではないので、自分が描くときにもそんなに忠実に再現するつもりはなかったんですが……たぶんにじみ出ちゃったんでしょうね。当時の痛みが。
—— 他のページのカザマさんと、表情が全然違いましたよ! 当日のことはよく覚えているんですか?
カザマ そうですね。あとでマンガにするというのはわかっていたので、出産直前はメモをとりながら過ごしていました。まあ陣痛の最中はさすがにメモれなかったし、メモとして残ってはいるんだけど、痛すぎて記憶には残っていないことのほうが多いですね。
紺野 ぼくも立ち会いましたけど、だいぶすごかったですよ。マンガではかなりソフトに描いていると思います。
カザマ 血、出てた?
紺野 そりゃ血は出てたよ。終わったあと、股も裂けてたわけでしょ?
カザマ あ、そうだったんだ。いやー、本当に記憶がなくて。
紺野 まあ、ぼくも「股間をのぞきこむな」と言われていたので、詳細にはわからないんですけど。立ち会いたくはあったけど、まさに出てくる瞬間を見たかったかというと、難しいところで。
カザマ 産院の方針としても「アリーナには立たないように」ということでしたからね。
—— ライブ会場での注意事項みたいな(笑)。
「頑張れ」って言わないで!
—— 立ち会いの間、紺野さんはどうやって過ごしてたんですか?
紺野 「頑張ってるよ」って声かけていましたね。もう見るからにすでに頑張ってるから、「頑張れ」って言うとキレられると思って。それで「頑張ってる頑張ってる」って言ってたら、看護師さんたちがめちゃくちゃ笑ってました。
カザマ それ、覚えてないわ。もう何も聞こえなくて、「無理、無理〜〜〜〜!」と叫ぶしかなかった。産院の人が「無理とか言わないでもうちょっと頑張ってよ」っていう顔をしていて、「だから頑張ってるってば〜〜〜」って言いたかった。
紺野 そういう空気を感じたので、俺は「頑張ってるよ」って言ってたんだよ(笑)。
—— コミックエッセイのなかでも「ちゃんと『褒めて』って産院の人に伝えておけばよかった」と描かれていましたね。他に、これから出産される方に言いたいことはありますか?
カザマ さっき「無理!」って叫んじゃった話をしましたけど、できるだけ叫ばないほうがいいですね。なぜかというと、同じ時間帯に出産している人も近くの部屋で頑張ってるから、お互いの声が聞こえるんですよ。出産後に食堂で会ったときに「カザマさん、『無理』って叫んでましたね」って言われて、すっごく恥ずかしかった……。
紺野 でも本当に頑張ってたよね。やはり奥さんが頑張ってる姿を見ると、それからの子育てに対する考えなどもまったく変わるし、ぼくはおすすめしますね。
カザマ 本当に生まれたての赤ちゃんが見れるしね。
紺野 そうそう。アリーナには立たせてもらえなかったけど、股にかけられた布の下から赤ちゃんがブワッと出てくるところは、見ました。
—— その瞬間、どんな気持ちになりました?
紺野 「あっ、すげー紫!」って思った。紫でしたね。
カザマ 紫色に白い垢みたいなのがびっしりついて生まれてくるんだよね。
紺野 胎盤もおもしろかったね。思ったより大きくて、なんか筋が入ってて。「レバー?」みたいな。
カザマ 焼肉屋で見たことあるぞ!って感じでしたね。実際、食べる人もいるらしい。うちは処分しましたけど。
紺野 そういうのを見られる機会も滅多にないはずなので、あまりにも生々しいのが苦手な人じゃなければ、立ち会うといいと思います。
(つづく)
次回、「胎教はラブライブ!? オタク夫婦の子育て事情」は2/1更新予定。
聞き手・構成:平松梨沙
『出産の仕方がわからない!』本編はこちらからご覧いただけます。