音楽プロデューサーの中田ヤスタカが、“中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅ”の名義でスプリットシングルを発売。きゃりーやPerfumeらを手がけ、日本を代表するプロデューサーとなった彼が、なぜ今ソロとして動き出したのか? リオ五輪閉会式の音楽でも注目された中田が、日本の音楽シーンへ新たな一石を投じることになりそうだ。
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◆ソロ名義で動き始めた理由、クリエイターに求められる“匿名性”とは?
――スプリットシングル「Crazy Crazy(feat.Charli XCX & Kyary Pamyu Pamyu)/原宿いやほい」が発売されました。今回、ソロ名義で、ボーカルをフィーチャリングゲストとして迎えるポップスを作り始めた理由を教えていただけますか? 中田さんは、きゃりーやPerfumeなど最先端のポップスシンガーのプロデュースをしてますし、椎名林檎さんやE-girlsなどへも楽曲提供をしてますよね。
【中田ヤスタカ】プロデュース側からだとできないことも多いので、どっちもやるという感じですかね。プロデュースや楽曲提供の場合は、そのアーティストの前後の流れもあるし、完全に自由でもない。いい意味でも悪い意味でも、コンセプトは向こう側にあるんですね。そういうものも今まで通りやりつつ、自分の曲を普段なら歌わなそうな人に歌ってもらったりしたいな、と。海外だと普通にやってる人も多いので、僕はそれをもう少し当たり前にやりたいというだけなんです。
――日本でそういうスタイルが少ないのはどうしてだと思いますか?
【中田ヤスタカ】日本はアーティストが強いですよね。なぜかクリエイターに匿名性を求めている。名前が2つ出てくるのを避けるというか、邪魔だという感覚なのかもしれないですね。ただ、日本でもクラブカルチャーの人やヒップホップの人は普通にやってる。それが、ポップスのフィールドになった瞬間に変わってしまうのが不思議だと思うので、僕はやってみるという感じです。
◆作曲家が“アーティスト”になれなすぎる日本の現状
――昨年は、ソロ名義では、リオ五輪の閉会式の音楽や映画『何者』の劇伴も話題になりました。
【中田ヤスタカ】ドラマ『LIAR GAME』(フジテレビ系/2007年・2009年)とか、そういうのは前からやってるんですけどね。ただ、米津くんとやった映画『何者』の主題歌「NANIMONO(feat.米津玄師)」のように、声が入った瞬間に注目度が上がる気がします。単純にインストを聴く人の人口が少ないだけかな。今、話しているソロ活動とは別で、これまでやってきた作家としての中田ヤスタカ名義の仕事は、これからもずっとやると思うんですよ。例えば、映画やゲームの音楽を作ったり、CM曲、テレビ番組のオープニング曲とか。今回からソロとして出していくのは、自分としてはポップスを作るという感覚はないですけど、“ポップスのフィールドに入れるもの”ですね。
――今年、動き出したのは?
【中田ヤスタカ】あまりにも作曲家が見えてこないから、というのはあるかもしれないですね。作曲家自身が、歌う人かメンバーでなかったら、“アーティスト”になれなすぎると思っていて(笑)。作曲してる人が自分の名前でCDを出すためには、自分自身で歌うか、歌う人とバンドやユニットを組むかしない。もうちょっと作曲家名義でのリリースがあってもいいんじゃないかと思ったので。
◆日本人が“海外で通用する”基準に疑問、東京五輪への展望は?
――中田サウンドの秘密の1つが、きゃりーの「原宿いやほい」には入っています。イントロに、のちにサビの後ろで流れるフレーズが使われているっていう。
【中田ヤスタカ】そうですね。そういうことは普通にやってますけど、ポップスのフィールドでは考えられなかったと思うんですよ。だって、楽器による音のサビはあるけど、歌が乗ってるメロディのサビはない曲だから。もしもこれがコンペだったら、絶対に落ちますから(笑)。でも、自分がきゃりーぱみゅぱみゅをプロデュースする立場にあって、出せるのであれば、こういう曲をやった方がいい。やっぱり前例のない……新しいレールを敷いていきたいというのもありますね。
――きゃりーは海外人気も高いですが、プロデュースにおいて世界を意識することは?
【中田ヤスタカ】世界基準とかワールドワイドっていう感覚はまったくないですね。それよりは、その国っぽい曲を書きたい。世界に勝負しに行こうという感覚はまったくないです。
――海外の音楽クリエイターは、中田さんが作った曲を普通に聴いてる状況ですが。
【中田ヤスタカ】日本人が“海外で通用するかしないか?”を判断する基準って、海外でCDが何枚売れたとか、チャートに入ったとか、そういう話しかしないじゃないですか。でもたとえば僕の場合なら、ロンドンのPC MUSIC(チャーリーに続き、アメリカではカーリー・レイ・ジェセプセンの楽曲も手がけている)や、フランスのマデオン(エレクトロポップアーティスト。レディー・ガガやColdplayの楽曲を制作およびプロデュースしている)とか、いろんな国の人が僕の曲を聴いていいと思って、「影響を受けて曲を作ってるよ」と言ってくれる。僕はそっちの方が楽しいし、それが海外に通用するということだと思ってるんです。
――今後はどう考えてますか?
【中田ヤスタカ】これからソロ活動を通じて、縁がある人はもちろん、まったく接点がない人とも関わってみるのも面白いかなとも考えています。例えば、あるシンガー・ソングライターの、声の音色や歌い方のセンスだけが欲しいと思ったとしますよね。その人が、「自分のジャンルとは違うけど、声だけ貸します」と言ってくれるなら、そういうこともやってみたい。それこそコラボレーションの醍醐味だし、“中田ヤスタカ”名義じゃないとできないことだと思うんです。そういう意味では、僕がやってるような音楽が得意じゃない人でも全然いいし、どんなコラボができるのかいろいろ楽しみです。
――ちなみに2020年、東京五輪に向けては何か考えていらっしゃいますか?
【中田ヤスタカ】健康でいます(笑)。関わるかどうかは、自分で考えてもどうにもならないし、わからないですからね。僕はそんな権力を持ってないので(笑)。
(文:永堀アツオ)
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