かつてNHK番組「おかあさんといっしょ」で「歌のお兄さん」を務め、いま上田市内の施設で薬物依存症からの回復に取り組む歌手の杉田光央(あきひろ)さん(51)のコンサートが21日、松川村公民館で開かれた。杉田さんにとって昨年6月に覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪で執行猶予付きの判決を受けた後、初めて浴びるスポットライト。「お帰りなさい」「応援してるよ」…。ファンらの熱い声に杉田さんは力強く再起を誓った。
水色のTシャツに黄色のベスト、弾けるような笑顔とよく通る声、コミカルな動作。文字通り“新たなステージ”に立った主役が往年の姿をよみがえらせた。
「小さなお友達も大きなお友達も一緒に踊ろう!」
観客約250人のうちの多くは、「歌のお兄さん」を懐かしむ大人だった。「おかあさんといっしょ」でおなじみの歌「あ・い・う・え・おにぎり」を披露すると、手拍子と掛け声で会場が一体となった。ファンからサプライズで花束を贈られた杉田さんは「皆さんの前に立つのは正直怖かったけど、楽しく歌うことができた。しっかりと地に足をつけて一から頑張る」と声を張り上げた。
家族と訪れた同村の主婦、今溝(いまみぞ)玲子さん(44)は「子供が小さいころ、たくさんお世話になった。再スタートするなら応援したい」と話した。「たこやきなんぼマンボ」など「おかあさんといっしょ」登場曲の数々を手掛けた作詞家のもりちよこさんも会場に駆け付け「これからも歌い続けてね」とエールを送った。
福井県出身の杉田さんは慶応義塾大学在学中の平成元年にミュージカル「レ・ミゼラブル」でデビューした。「おかあさんといっしょ」には11年から4年間、9代目「歌のお兄さん」として出演した。その後も俳優として子供向け番組や舞台などで活躍したが、仕事が減ったことなどをきっかけに26年ごろから薬物に手を染めるようになった。
28年4月、警視庁に覚せい剤取締法違反容疑で現行犯逮捕され、6月に懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。保釈中だだった5月中旬に上田市の薬物依存者向け民間施設「長野ダルク」に入り、リハビリを続ける。同施設代表の竹内剛さん(54)は昨年7月、同ホールで講演し「再犯を防ぐために社会とのつながりをつくってあげたい」と訴えた。これを聞いた松川村職員の丸山明貴子(あきこ)さん(56)が杉田さんのコンサート開催を提案した。
企画が持ち上がると「犯罪者のコンサートを開くのか」といった批判が電話やメールで寄せられた。しかし丸山さんらは「回復の支えになればいい。次に向けて歩み出してほしい」と決意し、回復プログラムの一環として実現にこぎつけた。竹内さんは「薬物はやめ続けられる。さまざまな人との出会いが、薬物の世界に再び戻らないようにするための支えになる」と杉田さんの行く末を見守る。
約1時間の舞台を終えた後、杉田さんは「最後まで涙をこらえていた。皆さんに感謝しなければならない自分が『ありがとう』とたくさん言っていただけてうれしかった」と深々と頭を下げ、こう宣言した。「自分のような人間にチャンスがめぐってくることは少ない。この出会いと笑顔を大切にして、一からやり直したい。もう薬は絶対に使わない」。(三宅真太郎)
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