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ボーカロイド『初音ミク』の心臓をつくる。人間の遺伝子を組み込んだ樹木を植える…等々、バイオアーティスト・福原志保にはちょっと聞いただけだと思わずギョッとするような作品が多い。
もちろん、彼女は面白半分で活動しているわけではない。何かと何かの「境界」こそ、福原志保が選んだフィールドであり、なかでも特にこだわりを持つのが「生命と非生命の間」なのだ。最先端のバイオテクノロジーと詩的な感性を携えてこの境界を探検する彼女の作品は、私たちに様々な問いを投げかける。
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福原 もともと私にはバイオロジーのバックグラウンドはまったくありません。よく「科学者なんですか?」と聞かれるんですが、違います。アーティストです。ただ、父が解剖学と矯正歯科学をやっていたので、その影響は強かったと思います。子供の頃から顕微鏡で髪の毛を見たりするのが好きだったし。最近どんどん父の影響を感じるようになって、怖いくらいなんですが。
バイオテクノロジーって、どの時代でも常に「古い技術の蓄積」と「最先端の試み」が同時に存在する分野です。そういう意味では、人類の歴史を振り返っても、ほとんど唯一なんですね。昔ながらの農業が続けられている一方で、品種改良が進んだり、顕微鏡の発明があったり、ヒトゲノムが解読されたり、というふうに。
こんな面白い分野なのに「なぜアーティストたちは参加しないんだろう」「作品に取り入れないんだろう」という疑問が、バイオアートに向かうきっかけになりました。
生命と非生命の間には、何かが生まれる境界線があり、それは例えば「幽霊」なのかもしれない。2015年に石川県の金沢21世紀美術館で行なった「細胞の中の幽霊」という展示のタイトルには、そんな思いを込めています。
これは初音ミクに生命を与える試みです。ミクにはまず声があり、デザインされた身体がありますね。魂は…あるかな? これだけ人の心を動かせるんだから、「ある」と言ってもいいでしょう。
すると、生命として足りないのは細胞と心臓くらいです。じゃあ私たちがつくってあげましょう!ということで、つくりました(笑)。