コラム

ウソを恥じないトランプ政権に、日本はどう対応するべきか

2017年01月24日(火)16時50分
ウソを恥じないトランプ政権に、日本はどう対応するべきか

Kevin Lamarque-REUTERS

<80年代の感覚で日本批判を続けるトランプがやっかいなのは、「劇場型パフォーマンス」のためには平然とウソをつくところ>(写真:今週TPP離脱の大統領令に署名したトランプ)

 トランプ大統領は今週23日に、大企業の経営者などとの会合で、規制緩和や法人税率の緩和など「企業優遇政策」を口にした一方で、日本や中国の通商政策を批判しました。要するに、貿易赤字が大きいのは問題だとか、それぞれにアメリカ製品を売りにくくしているなどという内容です。

 また「いつものトランプ節」というわけです。選挙戦の時からずっと、言い続けていますが、ファクト・チェックを行えば簡単に反論できる内容です。

 まず、基本的に日本への批判というのは、80年代のレトロ感覚で言っているだけであり、自動車産業に関して言えば、現在は現地生産比率が非常に高くなっており、部品産業を含めてアメリカで巨大な雇用を創出しています。

 また、日本で「アメ車」が売れない理由については、信頼度や効率性など日本人が重視するバリューが実現できていないわけで、要するに日本のマーケットに適合していないからです。そのような「ファクト」がまずあります。

【参考記事】警官に抑え込まれた反トランプ派、200人以上逮捕

 それから、日本の自動車市場を開放せよとか、同時に口にした中国でもっと自由に映画を売れるようにせよという主張は、実は「自由貿易」の思想であるどころか、特に日本に関する主張はTPPの中に盛り込まれていたのです。そのTPPをひっくり返しておいて、あらためて日本が悪いような言い方をするというのもまったく理屈が通らないと言えます。

 そんなわけで「論破するのは簡単」なのですが、ここに困った問題が横たわっているのです。それは「ファクト」が通用する相手ではないということです。

 トランプ政権の構造は、選挙戦の時からそうですが「劇場型パフォーマンス」を重視しています。それは敵を作ってその敵を叩くことで、支持者を扇動して自分の政治的な求心力にするという手法です。

 この「劇場型」というのは、別に21世紀の政治には珍しいものではありません。小泉政権だって、オバマ政権だって、みんな一種の劇場型です。ところが、トランプ政権が特殊なのは「オルタナティブ・ファクト」つまり「もう一つの事実」、要するに「ウソ」を平気で口にするということです。

 どんなに事実とは反していても、ある政治的な「敵と味方の対決劇」として求心力に使えるのなら、「ウソも方便」どころか「大きなウソは真実になる」という種類の悪質な扇動を行い、しかもまったく恥じていないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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