チームラボ、真鍋大度…ライブの未来を作る人たち

様々なテクノロジーの登場は、ライブをどのように変えたのでしょうか? 実は震災も関係していたのです。
音楽ジャーナリスト・柴那典さんがその実情と未来への指針を解き明かす話題書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)。その内容を特別掲載します(毎週火曜・木曜更新)。

ライブの魅力は「五感すべて」の体験

 10年代に入ってからも舞台照明のテクノロジーは大きく進化している。東日本大震災が、その一つの転換点だった。

 「東日本大震災をきっかけに、コンサート業界においても無駄に電力を使うのを止めようという風潮が生まれました。それを機に照明機材が白熱電球から消費電力の小さいLEDに代わっていったんです。そのことによって表現の方法も変わりました」(ヒップランドミュージックコーポレーション・野村達矢氏)

 LEDによる照明は、省エネルギーであるだけでなく、操作に対して即応性が高い光の点灯や点滅が可能になるという特徴を持つ。そのことがライブの演出を変えた。瞬間的に光の色が変わるようになり、それまで以上にリズムに同期した表現が可能になった。

 「テクノロジーの進化によって多様な視覚表現ができるようになったのは間違いないですね。映像についても、単に事前に撮影されたビデオを流すだけでなく、コンピュータ上でプログラミングされたものが、ある種のアルゴリズムによって表現されるようになった。

 ただ照明をあてるだけでなく、音と照明や映像がリンクしていたり、お客さんのアクションや何らかのコマンドが入ることによってそれが変わったり、新しいタイプの演出が可能になりました」

 BUMP OF CHICKENは2014年に行われたツアー「WILLPOLIS」から、チームラボが開発した「チームラボボール」を演出に用いている。照明が内部に仕込まれたバルーン型の巨大な球体だ。
 ライブのハイライトでたくさんの「チームラボボール」が客席の上を跳ね、カラフルな光を放つ。それぞれの球体の光は無線で制御され、遠隔操作で一斉にその色が変わる。別の設定では、観客が頭上に浮遊する球体をトスすることで球体の光の色が変わる。
 この「チームラボボール」によって、それまでにないインタラクティブ性を持った空間演出が可能になった。前述したLEDリストバンドとあわせて、オーディエンス自身が光の演出に参加している体感が得られる。

 ライブ・エンタテインメントの魅力は五感すべてを刺激することにあると野村は言う。

 「やっぱり、五感をフルに刺激した体験は、家でYouTubeを観たり、ヘッドホンで音楽を聴いたりするだけでは得られないものなんですね。もちろん音楽なので聴覚が主ですが、音楽とリンクした照明や演出が舞台上で繰り広げられる視覚的な要素も大きい。

 それに、ライブでは耳だけじゃなく身体全体で音を感じることができる。たとえば大きな低音が鳴ったら着ている服が震えたりもする。温度もあります。実は優秀なスタッフは空調を操作して会場の設定温度や風の流れを変えたりしている。

 たとえば最初は涼しくても、後半の盛り上がるパートではあえて冷房をオフにして温度を上げたり、風の流れをコントロールしてステージにスモークの煙を溜めたりもしている。制作側はそこまで考えてライブを作っているんです」

 立ち込める熱気や汗の匂いも含めて、その場でオーディエンスが体感するものすべてが一体感や没入感をもたらし、それがライブの魅力になる。やはり「音楽に参加する」ことによる興奮がライブの価値をもたらしているのだ。

メディアアーティストがライブの未来を作る

 ヒップランドミュージックコーポレーションは2015年、クリエイターをプロデュースする新しい部門として「INT(イント)」を設立した。
 テクノロジーの進化がステージ演出の新たな可能性を開拓していく中で、それを担うことになるクリエイターを「メディアアーティスト」としてマネジメントするのが目的だ。

 「単なる映像表現でもグラフィックでもなく、プログラミングによって新たな表現を作る人たちが増えてきました。そういったメディアアーティストが音楽とのマッチングの中で面白いライブを作るようになってきています」

 同部門では「VRDG+H」というイベントを定期的に開催している。2015年にオープンした3DCGライブホログラフィック専用劇場「DMM VR THEATER」を舞台にした企画だ。
 あたかも映像が本当にステージの上にあるかのような演出を行うことのできる施設で、奥行きのあるビジュアルと音楽が融合した形のライブが繰り広げられる。

 「将来的には、ライブやコンサートに付随する演出としてではなく、メディアアーティストの表現そのものが主役になるようなことを目指しています。彼らをスターにしたいというのが一つの狙いなんです」

 こうしたメディアアーティストの第一人者として名を知られるのが、先にも紹介したライゾマティクスの真鍋大度だ。彼はPerfumeやサカナクションともコラボレートし、最先端の技術を駆使した先鋭的な表現を繰り広げてきた。

 Perfumeの舞台演出を手掛ける演出振付家MIKIKO率いるダンスカンパニー「ELEVENPLAY」ともコラボし、ドローンを使ったパフォーマンスなど意欲的に表現を開拓している。ミュージシャンやパフォーマーとのコラボレーションが多い理由を、真鍋はこう語っている。

音楽や映像って、フォーマットが決まっていますよね。でも、それを超えて最先端の表現をやろうとしたり、新しいジャンルのパフォーマンスを作ろうと思うと、テクノロジーの力を借りるのが近道だったりすることも多いと思うんですよね。僕はそういうテクノロジーの面に関しては知っていることが多いので、相談を受けることがありますね。(『コンフィデンス』2016年1月11日号、取材は筆者)

 また、単に先鋭的なテクノロジーを用いるのではなく、それをアートやエンタテインメントとして昇華させることが重要なポイントだと真鍋は指摘する。

作品としてどう新しく表現できるかというところが重要です。そういうコンセプトがないままやっていたら、ただの技術デモになってしまいます。テクノロジーは必要であれば使いますが、基本的にはあってもなくてもいいんです。 (前掲誌)

 2016年のリオ五輪の閉会式では、椎名林檎がプロデュースと音楽監督をつとめた「トーキョーショー」が披露された。その中盤ではAR技術や光るワイヤーフレームを用いたダンスパフォーマンスが披露され、世界中で大きな話題を呼んだ。

(PHOTO: Getty Images)

 このパフォーマンスの総合演出と演舞振り付けを手掛けたのがMIKIKO、そしてチーフテクニカルディレクターをつとめたのが真鍋大度だった。

 おそらく、2020年に向けて、音楽とメディアアートの融合によって新たなパフォーマンスの表現領域を開拓する試みがさらに繰り広げられるのは間違いないだろう。ライブ・エンタテインメントの可能性は大きく広がっている。

次回につづく!

音楽業界で起きていることは、これから様々な業界で起きていく!

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ヒットの崩壊

柴那典

「心のベストテン」でもおなじみ音楽ジャーナリスト・柴那典さん。新刊『ヒットの崩壊』では、アーティスト、プロデューサー、ヒットチャート、レーベル、プロダクション、テレビ、カラオケ……あらゆる角度から「激変する音楽業界」と「新しいヒットの...もっと読む

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