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<内部告発漏えい>人権軽視の批判免れぬ

 宮城県内唯一の更生保護施設「宮城東華会」(仙台市太白区)の職員が法相に宛てた告発文を、施設運営法人を指導監督する仙台保護観察所(青葉区)が告発者の了解を得ずに実名のまま施設側に提供していた問題は、勤務先の不正をただそうとする労働者の立場を踏みにじるものだ。「人権擁護を掲げる法務省の出先機関が、人権を軽視している」との批判は免れない。
 観察所の吉田千枝子所長によると、宮城東華会の男性幹部職員が2015年10月に法相へ送った告発文は、図のルートで告発対象の男性施設長(65)に渡った。
 吉田所長は「誰が通報したのかを知らせないと、職場環境の改善につながらない」と対応を正当化する。吉田所長は当時、告発者に一切連絡をしなかった。施設長のみを対象とした調査は早々に打ち切られ、法務省には「施設長として不適格とまでは言えない」と報告していた。
 吉田所長は「結果的に施設長に告発文が渡ったことは問題」としつつ、「法人の理事長から施設長に渡ることは想定外だった」と釈明。国家公務員法の守秘義務違反を否定した上で、今後、同様のケースがあれば同じ対応をすると明言した。法務省も対応を追認する意向だ。
 東華会関係者が「監督官庁の不手際で告発者の身辺が脅かされており、こうした対応が『良し』とされるなら内部告発など恐ろしくてできない」と憤るのはもっともだ。
 そもそも実名を明かす必要はなく、観察所が告発者の切実な思いを理解しているのか疑問だ。告発対象の施設長は元観察所長。関係者の間には「職場の先輩に便宜を図った」との疑心が広がっている。
 消費者庁の「国の行政機関の通報処理ガイドライン」は、「通報者の秘密を守り、特定されないよう十分留意する」と明記している。調査に実名が必要だとしても、通報者の同意を得るなどの配慮が必要なことは論をまたない。
 公益通報支援センター(大阪市)の阪口徳雄事務局長は「観察所が施設側に告発文を渡す際、実名や所属などを黒塗りにしなかったことが最大の問題。守秘義務違反は明らかだ」と問題視する。
 厚生労働省では13年11月、国の認知症の大規模研究を巡り、不正を指摘する実名入りの内部告発メールを、同省の担当者が無断で研究代表者に転送して問題となった経緯がある。同省は国家公務員法の守秘義務違反に当たるとして、メールを転送した担当者を戒告の懲戒処分とした。
 吉田所長は「内部告発とも公益通報とも思わなかった」と弁解するが、文書には「内部告発」の4文字がはっきりと記され、職場環境の改善を訴える内容がつづられていた。
 告発者を不利益な扱いから守る公益通報者保護制度の施行から10年。告発者の保護に鈍感なままでは、「人権擁護」の金看板が泣く。(報道部 斉藤隼人)

●内部告発漏えい問題 仙台保護観察所が2015年10月、宮城東華会の男性幹部職員が施設長の言動を問題視し、法相宛てに郵送した実名の告発文を施設側に提供した。施設長は告発文を職員に示し、「告訴を検討している」などと通告。職員はストレス性疾患と診断され、1カ月の休養が必要になった。観察所の吉田千枝子所長は告発文を「理事長に手渡した」と主張するが、理事長は否定。施設長は「吉田所長から受け取った」と話し、説明が食い違っている。


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2017年01月23日月曜日


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