多くのマーケティング担当者が、口々に「これからはブランディングが重要だ」と言う。
しかし「ブランディングが重要だ」と感じてはいるものの、あなたは「ブランディング」や「ブランディングの重要性」について、周囲にわかりやすく説明できるだろうか?
「ブランディング」は極めて抽象性が高い概念であるために、誤解も多い。例えばあなたを含め、あなたの周囲には以下のような誤解をしている人も多いはずだ。
- ブランディングとはロゴや商品パッケージのことだ。まずはブランドデザイン会社に相談して、ロゴ制作を依頼しよう…。
- ブランディングとは知名度のことだ。さっそく広告代理店を呼んで、知名度向上のための広告プランを提案してもらおう…。
- ブランディングとは、広告を露出し、イメージを刷り込むことだ。我々も、これからはイメージ広告に力を入れよう…。
特に、デジタルマーケティングが隆盛な昨今、CVやCPA重視のマーケティング担当者が「効率至上主義」に限界を感じ、短絡的に「ブランディング=広告露出によるイメージの刷り込み」と結論付けてしまうケースが目立つ。
確かに上記3つは「ブランディング」を行う上で重要な活動の一部ではあるが、すべてではない。
どのようなビジネスも、まずは「戦略」が方向性を決め「戦術」がその方向性を加速させる役割を担う。しかし上記の「ブランディング」の例はすべて「戦術」部分しか見ていない。
一般論として「戦略」は一つだが、戦略を加速させるための「戦術」は、複数の手段が存在する。
残念ながら「ブランディング」は抽象的な概念であるため、目に見えやすい戦術面だけで捉えてしまうという間違いが起きやすい。結果、上記のように、人によって複数の「ブランディングの定義」が乱立してしまい、混乱をきたしてしまうのだ。
どれだけ「ブランディング」の重要性を叫んだところで、チームメンバーそれぞれの定義が異なれば、結局「チームの誰も腑に落ちてない」という状況のまま業務が進むことになる。
そして、ブランディングの本質を理解しないまま業務を推進してしまえば、それぞれのメンバーが統一感のない散発的な戦術を繰り返すことになり、その成果はおぼつかない。
今回は「ブランディングとは何か?」という古くて新しい問題について、ロジカルに、かつ、直感的に腹落ちできる解説を行う。この記事を最後まで読んでいただければ、あなたはブランディングの本質をロジカルに、かつ、直感的に説明できるようになるはずだ。
結果、チームメンバー間で「ブランディングとはどういうことなのか?」という共通認識が持てるようになり、チーム全体での実践に弾みがつくだろう。
- ブランディングを阻むもの。教科書的な「ブランドの定義」の弱点とは?
- k_bird流「ブランドの定義」「ブランディング」の定義
- ブランド戦略に必要な、たった3つの発想転換
- 「ブランド」は主役か?脇役か?
- 終わりに
ブランディングを阻むもの。教科書的な「ブランドの定義」の弱点とは?
もしあなたがブランディング関連の本を読んだことがあるなら、ブランドの起源に関する以下のような文章を、どこかで目にしたことがあるはずだ。
「ブランド」とは、北欧の古い言語であるノルド語の「brander」に由来し、そもそも飼っている家畜に目印として焼き印をつけることを意味した。
日本語では「商標」などと訳される。
ブランディング関連の本であれば、ほぼ例外なく1ページ目に解説される文章だ。そしてこれもまた例外なく、その後の文章で「差別化」や「独自性」の重要性が説かれる。
しかしあなたはこの文章を読んで「どうすればブランドを創れるのか?」という素朴な疑問の答えとして、腹落ちできただろうか?
ぜひ、あなたの周囲のチームメンバーの顔を思い浮かべてほしい。果たして彼ら彼女らは、納得するだろうか?おそらく「ふ~ん…。」で終わるはずだ。
続いて、AMA(アメリカ・マーケティング協会)の公式定義を見てみよう。
個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの。
あなたはこの文章を読んで、どう感じただろうか?
率直に言って「直感的に理解しづらい、小難しい文章になっている」というのがk_birdの感想だ。
上記の文章はアメリカ・マーケティング協会の「公式見解」という性格から「より正確な単語を、より誤解のないように」という意図はわかる。しかしそれが逆に、直感的にわかりずらいものにしているのだ。
さらに「差別化」「名称」「言葉」「デザイン」などの言葉が出てくることから「結局、ロゴやパッケージデザインを差別化することでは?」などのミスリードも起きがちだ。しかし、ロゴやパッケージデザインの差別化だけで強いブランドが築けるとは、あなたも思っていないだろう。
「直感的にわかりずらい」。これが「教科書的なブランドの定義」の弱点だ。あなたが学者であれば、教科書的なブランドの定義は一定の価値を持つだろうが、このブログをお読みいただいているあなたは実務家のはずだ。
残念ながら上記の定義は直感的にわかりずらいために、ブランドチームの間で共有しずらい。ただでさえ忙しく、時間に限りのある実務家に必要なのは、もっと直感的でわかりやすい「ブランド」の定義だ。
k_bird流「ブランドの定義」「ブランディング」の定義
それでは、私たち実務家にとって直感的にわかりやすい「ブランドの定義」とは何だろうか?長年、広告代理店及び外資系コンサルティングファームの双方で「ブランディングのリアルな現場」を体験してきたk_birdにとって、「ブランドの定義」は以下の通りシンプルだ。
ブランドとは、生活者の感情移入が伴ったモノやサービス。
高いブランド力を持つと評判の「ブランド」を思い起こしてみて欲しい。
Apple、google、ディズニー、スターバックス、コカ・コーラ…。どのブランドも、単なる「モノ」や「サービス」を越えて、生活者からの感情移入が伴っていないだろうか?
k_birdは、広告代理店経験及び外資系コンサルティングファームの経験を合わせて、延べ200回以上のマーケティングリサーチ経験を有している。その経験からしても、独自の感情移入が伴っているブランドとそうでないものとでは、指名購入意向率が5倍以上変わるケースはザラにある。一方で、逆のケースは1件も見たことがない。
もしあなたがこれから「ブランディング」を始めるなら、ぜひ自社の製品・サービスを振り返ってみてほしい。多くの生活者は、あなたの製品やサービスにどれだけ感情移入しているだろうか?
「ブランド」とは、「生活者からの感情移入」が伴ったモノやサービスのことだ。そして「ブランディング」とは「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」感情移入を形創っていく取り組みを指す。
どのような製品・サービスも、これらの取り組みを続けることによって、長く愛着を持たれる「ロングセラーブランド」に育てることができる。
これが、k_bird流の「ブランド」そして「ブランディング」の定義だ。
ここまで読んでみて、あなたは「ブランド」及び「ブランディング」について「公式見解」を学ぶよりも、ぐっと直感的に理解できたはずだ。
しかし、ただ単に「ブランド」あるいは「ブランディング」の定義を直感的に理解できたからといって、そのまま有効なブランディング業務に落とせる訳ではない。
なぜなら「ブランディング」には、これまでの「マーケティング」とは異なる、3つの発想転換が必要だからだ。
ブランド戦略に必要な、たった3つの発想転換
「ブランディング」には、単なる「マーケティング」とは異なる3つの発想転換が必要だ。
その「発想転換」は、モノを「製品」「商品」「ブランド」にわけて考えてみるとわかりやすい。
以下の図が「製品」「商品」「ブランド」の違いを表した1枚図だ。
「製品」とは
「製品」とは、工場の倉庫にある出荷待ちのものを指す。
製品開発者が長年かけて「何を、どう売るか?」を考えて開発し、工場担当者が丹精込めて生産する。倉庫担当者が倉庫棚に整理し、出荷待ちの状態となる。しかしこの時点で生活者の関与はなく、企業側主導で事が進められる。
「商品」とは
「商品」とは、お店の棚に並んだ販売待ちのものを指す。
商品開発担当者が「どう売るか?」を考えながらロゴやパッケージデザインを開発し、プライシングもなされている。そして営業担当者も「どう売るか?」を考え、その努力が結実すれば、無事小売店の棚に並ぶことになる。
しかし、商品棚には他にも様々な競合商品がひしめきあっている。
そしてたまたま偶然その棚を通りがかった生活者が、たまたま偶然あなたの商品を目にし、更にたまたま偶然その時のニーズにマッチすれば、買い物かごに放り込む。
「商品」の状態のままでは、数々の「たまたま偶然」をくぐり抜けた上での「衝動買い」に頼らざるを得ない状況だ。
結果、この「衝動買い」を創るために、販売促進担当者が「どう売るか?」を考え、値引き販売をしてみたり、ノベルティを付けてみたり、懸賞キャンペーンを展開するなど、やはり「製品」と同様、企業側主導で事が進められることが多いはずだ。
「ブランド」とは
「ブランド」とは先に述べた通り「生活者からの感情移入」が伴った状態だ。
ここに、発想転換が必要となる。
「製品」や「商品」が、企業側の目線から「どう売るか?」に主眼が置かれているのに比べ、「ブランド」は生活者のココロの中に「どのような認識を創れば、感情移入してもらえるか?」に主眼が置かれる。
そして「感情移入」とは、生活者が想い抱く「ライフスタイル」や「願望」の内側で「役に立つもの」「かけがえのないもの」「思い入れがあるもの」としての認識を積み上げたときに初めて生まれる。
一度ブランドを確立してしまえば、あなたは「販促による衝動買い頼み」から脱し「指名買い」という次のステージを切り拓くことができる。
そしてそれを実現するには「企業目線⇒生活者目線」 「モノ起点⇒顧客認識起点」「 どう売るか?重視⇒ブランドへの感情移入重視」という発想転換が必要となる。
これが、ブランド戦略に必要な、3つの発想転換だ。
「ブランド」は主役か?脇役か?
冒頭で「ブランドの定義」の話をしたことを、覚えておいでだろうか?
鋭い方ならお気づきかもしれないが「ブランド=焼き印」の話は「製品」の話をしているにすぎない。「違いとなる目印」を創ったからと言って、生活者が感情移入をし、継続的に指名買いをしてくれるわけではない。
一方で、アメリカ・マーケティング協会の定義は「商品」の話をしている。「差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン」などの話も、結局はそれを実現したからと言って「ブランド」が創れるとは限らない。
そしてどちらも共通しているのは「ブランド」を「企業側の目線」でしか語っていないことだ。
マーケティング担当者は、優秀な人であればあるほど、一日中「ブランド戦略」や「マーケティング戦略」について熟考を 重ねていく。
「どうすれば、この商品は売れるのか?」「どうすれば、このサービスは競合より優位に立てるのか?」。そして、熟考を重ねれば重ねるほど「企業目線 」「モノ起点」「どう売るか?重視」に陥ってしまう。
しかし、一方の「生活者」の視点に立つとどうだろうか?
そのマーケティング担当者とは裏腹に、生活者はあなたのブランドについて、1日1分も考えていないはずだ。なぜなら、生活者の興味は「今よりも理想的なライフスタイルを実現すること」であり、ブランドは、彼ら彼女らにとってはその生活を実現するための「名脇役の一つ」でしかないからだ。
ともすればマーケティング担当者は「企業の視点」で「商品=主役」と捉えてしまう。しかし、生活者からすれば、主役は「自分のライフスタイル」であって、商品は「脇役」だ。
生活者はそれぞれ多様なライフスタイルや価値観を持っている。そしてそのコンテキスト(背景)に対する広範な理解を伴わない限り、生活者からの感情移入を勝ち取ることはできない。つまり、ブランドは創れないのだ。
大切なことなので整理すると、以下の通りだ。
- ブランドとは「生活者の感情移入」が伴ったモノやサービスのことを指す。
- そして「ブランディング」とは「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」感情移入を形創っていく取り組みを指す。
- その成果は「衝動買い頼み」を越えた「指名買い」によるロングセラーブランドだ。
もしあなたや、あなたのチームが「企業目線」「モノ起点」「どう売るか?重視」を越えて「生活者目線」「顧客認識起点」「ブランドへの感情移入重視」という発想転換ができたなら、単なる「教科書的」ではない「血肉の通った」ブランディングが実践できるはずだ。
終わりに
今回は「ブランディングとは?ブランド戦略を理解するための3つの発想転換」と題して、ブランディングに必要な3つの発想転換について解説した。ぜひ、あなたのチームのブランドマーケティングにおいて、有益な示唆となれば幸いだ。
今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。 ( 過去記事と今後の掲載予定はこちら )
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