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みんなで成功するなら「やる気満点のリーダー」を排除せよ!|チーム全体で賢くなる方法(後)
From Aeon (UK) イーオン(英国) Text by Jane C Hu
ILLUSTRATION: ANDRZEJ WOJCICKI / GETTY IMAEGS
研究成果によれば、「群れ」で思考すれば高度な知性を発揮する場合がある。だが、どう実践に移せばいいのか。チームを組んで仕事をするとき、どのようにメンバーを構成し、リーダーは何を心がければいいのか。「群れ」が陥りがちな危険を脱し、チームで成功するための具体的な方法論を探った(前編はこちら)。
みんなで失敗を回避しようとすると大失敗へ…
チームワークを高めようとするときに、いちばん難しいのが、どうやってメンバー同士の共同作業を進めるか、というところだ。これがうまくいかないと、チームが破綻してしまう。
各メンバーは、それぞれ無数の偏見や思い込みを持っている。多彩な顔ぶれを揃えれば、それぞれの偏見が打ち消されるのではないかと期待する人もいるだろう。だが、チームで共同作業をしていると、かえってこうした偏見が強化されることも珍しくない。
そのせいで、少ないデータから過度な一般化をしたり、コントロールできない事象もコントロールできると錯覚したりしてしまうことになる。
また、人はチームの一員となると、できるだけ失敗を回避しようとする意識が働くようになる。
「失敗しないように」と意識するのなら、いいことではないか。こう思うかもしれないが、人は、失敗を通して学ぶこともある。とくに「自分が失敗したと認められること」が、学習プロセスにおいて重要だ。
ところが、チームに属している人の場合、失敗を認めると、自分のプライドや評判が傷つくことになる。だから、失敗を認めなくなるし、失敗から学ぼうとしなくなるのだ。共同作業をしていると、私たちは自分の根源的な欲求(「仲間に好かれ、承認され、有能だと評価されたい!」)に屈してしまい、自分の失敗を認められなくなるのである。
加えて共同作業だと、なぜ失敗したのか、原因を特定するのが難しい。原因を追及するときも、チームの仲間が間違った判断をしたとは思いたくない心理が働いてしまうからだ。
ある看護師が、手術後の患者の点滴に間違った薬が入っていて、その状態が数時間以上続いていることに気づいたとする。このミスは、いつ起きたのか。この患者の治療やケアを担当している人の数は多いので、ピンポイントでミスの発生源を特定することは難しい。別の看護師が、点滴の袋を間違えたのだろうか。それとも薬剤師が間違った薬を用意したのだろうか。点滴のミスに気付かなかった回診担当の医師にも責任があるのだろうか……。
そうなると、改善策を打つこともできない。
これらのミスに共通するのは、チームが「現状に満足してしまっている」ことだ。これはあらゆる集団で見られる現象である。孤立したくないし、集団の結束を乱したくないので、誰も「波風を立てる面倒な人」になりたがらないのだ。だから、何かがおかしいと感じても、そのことについて発言する者はいなくなる。
PHOTO: OGNJENO
外部との接触が少ない組織だと、この問題はさらに深刻になる。チームが繭のなかにこもってしまい、計画や決定が失敗に至る可能性をすべて否定してしまうのだ。また、外部の人をバカや悪者だと考えるようになると、組織内で異なる考えを唱えられる人がさらにいなくなる。
「現状に問題がない」という意識が組織内に広まっていくと、そこから慢心が生じるのである。
共同作業を破綻させる「集団思考」
この現象を初めて研究したのは、心理学者のアーヴィング・ジャニスだ。彼はこの現象を「二重思考(ダブルシンク)」と命名した。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に出てきた概念の借用だが、意味あいとしては「集団思考」と呼んだほうがいいだろう。
ジャニスは、真珠湾攻撃など、米国の政治史や軍事史における大失態の事例を調査した。その結果、集団を形成するときの真の危険は、独裁的に統率されることではなく、むしろ集団が「現状に満足した状態」になり、それが「慢心」に変わることだと突き止めた。
もちろん、すべての組織が「集団思考」に陥るわけではない。だが、組織がひとたび「集団思考」に陥ると、組織の内部からそのことに気づくのは難しくなる。
ジャニスの研究によると、米軍は「日本軍が真珠湾を攻撃する可能性がある」という情報を持っていたという。
だが米軍は、日本がそんな攻撃を仕掛けるわけがないと、たかをくくっていた。そんな攻撃を仕掛ければ全面戦争が起きる。だから、まさか日本が攻撃を企てるはずがない。そんな論理で「現状に問題はない」という意識を合理化したのである。
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