永田カビともう一人の永田カビ
—— このたびは『一人交換日記』刊行おめでとうございます。以前取材したときはSkype越しだったので、今日は対面ということでドキドキしています。
永田カビ(以下、永田) よろしくお願いします。私、対面だとうまくしゃべれないかもしれないんですけど……適当に編集していただければ……。
—— いやいや!(笑) 今日初めて『一人交換日記』の表紙を見たんですが、一瞬前作の『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』と勘違いしました。デザインが統一されているんですね。
永田 『一人交換日記』の担当編集さんが「『レズ風俗レポ』と対比になるようにしたい」ということで、『レズ風俗レポ』の編集さんの承諾をとったうえで、『レズ風俗レポ』のデザイナーさんにお願いしてデザインをあわせて作ってもらったんです。
—— 今回も『レズ風俗レポ』と同じく、表紙には永田さんと裸の女性の二人が登場します。しかし、『一人交換日記』のほうの裸の女性は、他人ではなく、永田さんの内面の「もう一人の永田さん」のように見えます。
永田 担当編集さんから、「人間の裸体を表紙にバーンと載せたい」というのと、「永田カビともう一人の永田カビの二人がいる表紙にしたい」という2つのオーダーをもらって、それにあわせて考えたような記憶があります。
—— 本の内容に合った素晴らしい表紙だと思いました! そもそも、「一人交換日記」というタイトルと内容のインパクトもすごいですよね。連載が始まった詳しい経緯を教えてもらえますか?
永田 経緯も何も、第1話で書いたとおりで。Twitterで「中学のころ一人交換日記をやってた」ってツイートしたら、それを見た編集さんに「やりましょう」と言われたんです。
©永田カビ/小学館 ヒバナ
—— 「一人で交換日記」って斬新すぎるので、どうやって編集会議を通したのか気になります。
担当編集 とくに問題なくスムーズに決まりました。永田さんに連載をしていただくうえでこれ以上ないテーマだと思いましたし、「このタイトルならインパクトで勝負できる!」と最初から感じていました。
—— 中学校のときの交換日記は残っているんですか?
永田 いやー、もうずっと目にしていないですね。たぶん処分しちゃったんだと思います。中学のときは本当に、とにかく友達がいなくて。クラスでしゃべれる人が一人しかいなかったんです。そのしゃべれる人が休んだら一日中一言もしゃべらないような女だった……。だから一人で交換日記をやるしかなかったんですよね。
©永田カビ/小学館 ヒバナ
—— 永田さんは他人とのおしゃべりはあまり得意ではないかと思いますが、自分としゃべるのは好きなんですか? 自分が言ったことに対して、自分で返すのは。
永田 自分としゃべるのもそんなに好きではなかったですね。やむをえずやっていただけ。ただ、こういうふうに自分のことをマンガに描くようになってからは、結構できるほうなのかもと思うようになりました。
『レズ風俗レポ』のときよりしんどかった
—— 『一人交換日記』の連載中、大変だったことはありますか?
永田 連載をすること自体が初めてで、2週間に1回締め切りがあるというのが大変といえば大変でしたね。ページ数が少なめだったとはいえ、最後のほうは結構へとへとでした。
—— 心臓を締めつけられるような感情描写のシーンですとか、これを表現として出すだけでも精神力を要するだろうなと思うシーンが多々ありましたが、それはいかがでしたか。
©永田カビ/小学館 ヒバナ
永田 ああいうのは直感で描けるタイプなんです。自分の気持ちはすっと絵にできるほうで。なので、そこでは苦労してないですね。
—— 『レズ風俗レポ』を描いたときと『一人交換日記』を描いているときで、違ったことはありましたか?
永田 『レズ風俗レポ』のときは、描きたいことが最初から最後まであって、それをどんどん出していく作業だったんですけど、『一人交換日記』はどこに着地するのか自分でもわかっていないまま描くのを毎回繰り返していたので、それは『レズ風俗レポ』のときよりしんどかったですね。
—— どういうテーマにするかは毎回決めていたんですか?
永田 4回目くらいまでの内容は、先に決めていましたね。なので最初は、描いている内容と自分の生活にタイムラグがあった。でもどんどん縮まってきて、途中からは「昨日あったことを今日描く」くらいのリアルタイムになっていました。
担当編集 永田さんの身に何が起きているかをネームで知る、というような状況でしたね。
—— まさに「日記」ですね。担当さんは、永田さんから「これ描きます」と来たら基本的にOKしていたんですか?
担当編集 そうですね。こちらからはあまり口も手も出さず。永田さんが実際にやったり思ったりしたことを大切にすべき連載なので、ないものを付け足しても意味がない。修正をお願いしたのは、削ったほうがいい箇所や構成を入れ替えたほうがいいだろうという箇所だけですね。
—— 読み手により伝わりやすいように?
担当編集 はい。永田さんのなかでは、ご自分の考えは時系列にあわせて描くのがやりやすいんだと思うのですが、読者としては順序が違ったほうがその論理を受け入れやすかったりするんですよね。そういう点は意識しながら編集しました。あと、「永田カビが嫌われないように」というのは常々お伝えしてましたね。
—— というと?
担当編集 もちろん「一人交換日記」に出てくる“永田カビ”は作者の分身ではあるんですが、現実の“永田カビ”をさらけだしつつも、キャラクターとして愛してもらえるように描いていきましょうということですね。
—— なるほど。こうしてお会いしている身からすると「マンガに出てくる永田さんそのものだ!」という感じなのですが(笑)、永田さんご自身はいかがですか?
永田 そうですね……。全編にわたって出てくるキャラクターなので、自分だからといってあまり卑下して描くのではなく、かといって美化しすぎず、読み手にストレスのない見た目にしようとは思っていたかもしれません。
「よかった」という感想でもプレッシャーに
—— 連載ということで、毎回読者さんの反応もあったと思います。いかがでしょうか?
永田 ありましたね。なるべく反映しないように気を付けていました。『レズ風俗レポ』のときからふれているし今回の『一人交換日記』でも描いていますが、私は「自分のものさし」を持っていないんですよね。それでずっとお母さんの意見をうのみにしてきた。だから、マンガについても読者の感想を反映したくて仕方なくなっちゃうんですが、ぐっとこらえましたね。
—— 「よかった」という声も多かったと思いますが、それを喜ぶ気持ちはありましたか?
永田 そうですね、もちろんうれしいんですけど、「よかった」という感想であっても「あ、じゃあ次回失望させないように……」というプレッシャーを感じてしまうタイプなんです。なので、いい反応も悪い反応も等しく気にしないように努力しました。
—— 第10話で「ヲチスレ」を見たという話が出てきましたが、悪い意見を目にしたときは落ち込むんですか?
©永田カビ/小学館 ヒバナ
永田 最初はいい感想ばかりで、そっちのほうが不安になりましたね。そういうことを書いてくださる方っていうのは読んでなくてもとりあえず褒める、みたいな人なんじゃないかという疑心暗鬼に陥り……。
「ちゃんと読んだけど全然おもしろくなかった」ということだってあるはずだよな、そういう正直な感想がほしいなと思ってヲチスレまで行ったんですけど……別にヲチスレには求めているものはなかったですね(笑)。
—— 正直な感想をほしいという気持ちがある?
永田 そうですね。だから、エゴサしているときに「描いている内容が理解できなかった」「全然違う世界の話だから意味がわからなかった」というような意見を目にすると逆にホッとします。
—— ちなみに『レズ風俗レポ』について、きゃりーぱみゅぱみゅさんが画像つきでツイートするという事件(?)が先日発生しましたが、あれはいかがでしたか?
永田 あれは……純粋に、ただただびっくりしました。担当さんによるとイースト・プレスでは社長さんが社内メールまでしてくださったらしいです(笑)。
—— 中学のころの「一人交換日記」はとくに人に見せるつもりなくやっていたわけですよね。それが、人に読まれる商業媒体での単行本やマンガ連載となったときに、その内容を「わかってほしい」という気持ちは生まれましたか?
永田 うーん。わかってくれなくても別にいいんです。いいんだけど、個人的なことを正直に赤裸々に描いてたら、誰にでもある普遍的な何かがちょっとだけ描けるんじゃないかとは思っていて。読んだ人に「わたし自身はこうなったことはないけれど、ああ、こういうのってあるよな」と伝わるものが描けたら、それはうれしいですね。
次回、「『金銭の授受や時間の制限のないデート』を経験してわかったこと」は1月20日更新予定
聞き手・構成:平松梨沙