ニュース画像

WEB
特集
廃業を減らせ!中小企業2017年問題

私たちの雇用の7割を支える中小企業。2017年、ある問題が懸念されています。団塊世代の経営者が70歳を迎え始める今年以降、廃業が急増するとみられているのです。背景にあるのは、後継者をめぐる問題。社長の高齢化が進むなか、将来に希望を見いだせず、子どもがいても、会社を継がせることができない社長たちが少なくありません。こうした後継者難による廃業を食い止める動きを取材しました。

黒字でも廃業

いま黒字にもかかわらず会社をたたむ廃業が相次いでいます。その数は全国で、年間およそ2万7000件。中小企業が長年築き上げてきた日本の技術が失われているのです。
背景にあるのは、後継者をめぐる問題です。全国的に社長の高齢化が進んでいて、60代以上の社長は58%を占めています(東京商工リサーチ調査)。しかし、国内の3分の2の企業で後を継いでくれる人がいません(帝国データバンク調査)。将来に希望を見いだせず、子どもがいても、会社を継がせることができない社長たちが少なくないのです。「これから先、どうなるのか見当がつかない」、「子どもにすべての責任を負わせたくない」などといった社長たちの疲弊や絶望感が現場では数多く聞こえてきました。

後継ぎがいない 東京・墨田区のタイル販売工事会社

ニュース画像

町工場が集積する東京・墨田区に、後継ぎ問題に直面している企業があります。社長は樋口進さん(67)です。マンションなどで使うタイルの販売や工事を手がけています。従業員は30代から50代までの6人。雇用を守るためにも廃業だけは避けたい考えですが、後継ぎが決まっていません。
樋口さんは「明日僕が倒れたらどうするんだとか、この年になると考えます。目の前の仕事を必死にしてきたけど、いざ後継者を考えるとなると、とにかく難しい」と不安を口にします。

ニュース画像

樋口さんには30代の息子が2人いて、それぞれIT関連企業と保険会社に勤めています。息子に会社を継がせたい気持ちはありますが、苦労を共にしてきた妻が反対しています。「どんなに小さな会社でも従業員の生活など社会的な責任があることは分かっている。それでも、息子たちの幸せを第一に考えると、負担をかけたくない」という親心が反対の理由です。

全国初 墨田区ではじまった「企業健康診断」

墨田区では「跡継ぎがいない」などの理由で休業したり廃業したりした企業は、5年間で357社にのぼっています。

ニュース画像

去年10月、廃業をなくすための取り組みがはじまりました。60歳以上の社長を対象とした「企業健康診断」です。
まず地元の信用金庫など金融機関の担当者が「経営のバトンタッチの準備はどれくらい進んでいるのか」と日頃から顔を合わせている社長を訪ね案件を掘り出します。

ニュース画像

申し込みをした企業には、中小企業診断士や税理士などの専門家が直接訪問。事業内容や財務状況を詳細に見たうえで会社の強みを分析し、事業の引き継ぎを無料でサポートしてくれます。
この「企業健康診断」には地元の商工会議所や自治体に加え、普段はライバル関係の3つの信用金庫なども参加。商工会議所では、全国初の試みだとしています。

東京商工会議所墨田支部の阿部貴明会長は「その事業を引き継ぐ人がいないという承継の問題だけで確実に必要な企業がなくなっている。そのことに早く気がついてもらいたい」と危機感を募らせています。

ニュース画像

診断によって踏み出した一歩

タイルの販売などを手がける樋口さんも、この企業健康診断を受けました。
診断書では、「1年以内に後継者を確定し、ただちに引き継ぎの準備を」と強く促されるとともに、「最近力を入れ始めた工事部門が会社の強み」という評価を受けました。

会社の将来性に自信を持った樋口さんは、家に長男を呼び出して、会社を継ぐ意思があるのか、初めて確認することにしました。
長男は「大変そうだしね、父ちゃんの仕事を昔からみているけど…」と切り出します。すると樋口さんは、工事部門が客観的に評価されたことを診断書を見せながら伝えます。「会社が上向いているのは最近知ったから…、考えてみる」と長男。樋口さんは「今日明日じゃないから、ゆっくり考えて、それで結論を出せばいい」と言葉を返しました。

その話し合いから1か月。長男からの返事はまだですが、経営状態をさらに良くするために、樋口さんは工事の受注を増やすことに決めました。
「健康診断をすることで、この会社ももうちょっと上手くやれば、軌道に乗るんじゃないかと感じました。アクセルをめいいっぱい踏んでいきたいと思っています」と樋口さんは将来を語っていました。

後継者たちに魅力を発信「ベンチャー型事業承継」

一方で、受け継ぐ側へ働きかける動きもはじまっています。若者たちが憧れるような後継者に注目し、発信するプロジェクトです。

プロジェクトを仕掛けたのは、近畿経済産業局。目指しているのは、新たなビジネスモデルの提案。まるで起業するかのように会社を引き継ぐ、その名も「ベンチャー型事業承継」です。家業の設備や資金などを活用し、若い発想と組み合わせることで、これまでにない価値を生み出す「後継ぎの新たな考え方」を意味しています。

例えば、羽毛布団ではじまった会社を、アパレル業界に進出させた3代目。金物工具店を引き継いで、国内最大級のDIYサイトにまで成長させた社長などです。

ニュース画像

近畿経済産業局ベンチャーエコシステム構築事業ディレクターの山野千枝さんは「後を継ぐことはあまりかっこいいことではないと思われている、そう後継者の人たちが考えているのがいちばんの問題。必ずしも親と同じことをやるのが事業継承じゃないということを、ベンチャー型事業承継という新しい言葉で発信していきたい」と語ります。

ニュース画像

後継者予備軍に刺激を与える場を提供

プロジェクトでは家業を発展させた後継者と、社長の親をもつ若者たちを結びつける場も提供していきます。
この日は「自動車部品のメーカー」や「ユニフォームの製造販売」などの会社を親が営む若者たちが集まりました。

ニュース画像

引き合わせたのは、金属加工業の3代目の高野雅彰さん(38)です。高野さんは、ガスのコック栓を作っていた親の会社の設備を使って、水道の特殊なノズルを開発。節水率が極めて高い製品として海外でも注目されています。高野さんは「“製造業”の町工場ではなく、頭で新しく生み出す“創造業”を考えている。自分にあるカードは何なのか、そのカードを考えて活かせる動きは何かを考えることが大事だ」と若者たちに語りかけました。

ニュース画像

若者たちからは「製造業じゃなくて創造業、というのがかっこいいなと思いました」とか、「やることが違っても、経験した人がいることを知るだけで、自分が飛び込む際の支えになる」といった感想が聞かれました。これまで会社を継ぐことに後ろ向きだった若者も可能性を感じているようでした。
山野さんも「後を継ぐことにワクワクした未来を描いてほしいと思っています。ベンチャー型事業承継を推し進めていったら、知らない間に廃業問題が改善しているというところにはいくんじゃないかなと思います」と話していました。

“待ち”工場から “攻め”工場へ

取材をしていて後継者難の根深さを痛烈に感じました。そんな時だからこそ、みずからの技術力を客観的に評価して需要を探り当てる「ベンチャー型事業継承」の発想が求められているのではないでしょうか。下請けとして仕事を待つのではなく、新規事業や商品開発に打って出る、攻めに転じる町工場が現れてほしいと願っています。そのためにも元気があるうちの対策が重要です。バトンを渡す側は最後にもうひと踏ん張りでき、受ける側もスムーズに事業を引き継ぐことができるからです。2017年問題が心配されるなか、国も墨田区のような「診断システム」をことしから始めることにしています。

柴崎行雄
柴崎行雄
アナウンサー