メラトニン

メラトニンの概日リズム以外の多彩な機能。精神疾患や生活習慣病や発癌の予防との関連(その3 メラトニンとメラトニン受容体作動薬)


melatonin-1














(前回の続き)

メラトニンの特性と合成メラトニン薬

 メラトニンアゴニストの化学式を図2に示す。TIK-301(=β-メチル-6-chloromelatonin)を除いて、これらの化合物は非インドール構造を持つ。ラメルテオンロゼレム、TAK-375、武田薬品が開発)はFDAによって米国で不眠症の使用が承認されている。ラメルテオン代謝産物であるM-IIもメラトニン受容体への作用を持つ。アゴメラチン(Valdoxan、S20098、セルヴィエ社が開発)はヨーロッパで成人の大うつ病の治療のために使用されている。これらの合成薬物やメラトニン徐放錠(Circadin)は55歳以上の不眠症で承認されている。他は前臨床段階か治験中である。MT1やMT2受容体への親和性を表3に示す(注;よく使用される解離常数とは違いlogの値に変換したPKi値が提示されており、数字が大きい方が親和性が高いことになる)。天然のホルモンであるメラトニンよりもMT1やMT2受容体に対しては親和性が幾分高めのようである。化合物はいずれも2つの受容体に対して選択的には作用しないが、MT1とMT2では、親和性がかなり異なるUCM765やUCM924のような化合物もある。この受容体への親和性の差が疾患の治療に応用できるかどうかはまだ研究されていない。
メラトニン受容体作動薬

























 メラトニンの半減期は20~30分(最大でも約45分)と非常に短いため臨床的に使用する上での大きな障壁となる。この半減期が短いという問題に対する解決策としてCircadinなどのメラトニンの徐放製剤が発売され、メラトニンよりも長い半減期をもつ合成薬も開発されている。ラメルテオンは急速に消化管で吸収され(約84%の吸収率)、半減期は1~2時間である。メラトニン作動薬の中では、ラメルテオンは、肝臓のチトクロームPで代謝されるが、メラトニンとは異なり、主にCYP1A2、CYP2C、CYP3Aによって代謝される。ラメルテオンの代謝物の中でも、M-IIはアゴニストとして作用し、ラメルテオンと比較してMT1やMT2には10%の効力を持つ。ラメルテオンよりも20~100倍血中濃度が高いため、親和性が低いにも係らず、M-IIはラメルテオンの機能に関連している。また、M-IIの半減期はラメルテオンよりも2~5時間も長い

 アゴメラチンの半減期は1~2時間であり、受容体への親和性はメラトニンよりもいくぶん強めである。メラトニンやラメルテオンににはないセロトニン受容体5-HT2Cのアンタゴニスト作用を有する。5-HT2Cへの作用は、概日リズム障害やある種のうつ病のサブタイプに有効である概日リズムの調整といったメラトニンの作用と区別されなければならない。アゴメラチン抗うつ作用は5-HT2C介する作用と思われているが、最近では、メラトニンと5-HT2Cの相乗作用や相互作用がアゴメラチンの抗うつ薬としての作用であろうと想定されている。
 
アゴメラチンの作用

















 メラトニンアゴニスト+セロトニンアンタゴニストの組み合わせを有する薬剤には、TIK-301もある。この薬物はアゴメラチンよりも5-HT2C受容体を一層強力に阻害し、5-HT2B受容体も阻害する。TIK-301もアゴメラチンに匹敵するような抗うつ作用を有するものと思われる。合成メラトニン作動薬は主に催眠効果に焦点を当てらて研究されている。化学構造が異なるためCYPアイソザイムによるメラトニンの主要な異化であるヒドロキシル化を防止する。半減期は長くなってもいいはずであるが、TIK-301の半減期は1時間である。TIK-301は、FDAによるオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の指定を受け盲患者における睡眠障害の治療に使用されている。

 Tasimelteonが既に臨床試験されている。睡眠剤としてであるが、前臨床試験では抗うつ効果が確かめらている。しかし、5-HT2C受容体への作用は確認されていない。tasimelteonの半減期は長く。サルやラットでは、2時間(1~3時間)と報告されている。

 他の合成メラトニン作動薬の睡眠に関する前臨床データは存在するが、臨床上の薬物動態のデータはまだ少ない。GR196429とAH-017はラットのメラトニンの振幅を大きくすることが報告された。他の合成メラトニン作動薬によりも逸脱した位相をリセットする能力に優れているかを検証する必要がある。MT2受容体への親和性が高いAH-017、UCM765、UCM924の作用をさらに調査する必要がある。UCM765はMT2受容体を介して網状視床ニューロンの発火を刺激しノンレム睡眠を増やすことが示された。これらの化合物にはMT2受容体を介した疾患の治療効果が存在するかもしれない。UCM924はフッ素原子を取り付けることによってUCM765のヒドロキシル化部位を遮断し、UCM765の0の部位における脱メチル化を防止するために臭素を付加することで半減期を長くするように設計されている。。図や表に提示されていないが、NEU-P1という新しいメラトニンアゴニストは、high-fat/high-sucrose-fedラットにおける体重増加を抑制しインスリン感受性を改善することが報告されており注目を集めている。


短期作用に基づいた治療のためのオプション

時間生物学的への戦略についての概略を説明する。

 短時間作用型のみのメラトニンが必要な疾患と、不十分な夜間のメラトニンレベルを補うような補完療法的な使用が必要な疾患とを区別することが重要である。最初のケースでは、治療としては半減期が短い天然ホルモンであるメラトニンで十分である。特に、入眠困難の場合には十分である。メラトニンは既に0.1~0.3mgの低用量(即時放出製剤)で入眠までの時間を短くした。しかし、睡眠維持への効果は、この用量では殆どない。入眠潜時の有意な減少が全ての合成メラトニンアゴニストで観察されている。しかし、これらの薬剤の推奨用量はメラトニンよりも高い受容体親和性にもかかわらず、ラメルテオンの4mgと8 mg、アゴメラチンの25mgと、かなりの高用量となっている。従って、合成薬物は入眠改善以外の作用もある。脳波所見ではラメルテオンは徐波睡眠やレム睡眠を増加させた。ラメルテオンはメラトニンよりも睡眠維持効果が期待できる。自然なホルモンであるメラトニンは忍容性や生理学的な代謝に関しては好ましいプロフィールを有する。MT1 / MT2を介さないような効果は合成薬剤には存在しないだろう(フリーラジカルスカベンジャーとしての作用など)。なお、化学式からはラメルテオンにはメラトニンのような抗酸化作用はないと考えられている(=メラトニン以外はアンチエイジングのような効果はない)。

 位相をシフトさせるなどの時間生物学的な観点からは、ショートアクションでも十分である。概日リズムの発振器のリセットは、概日リズムが乱れている場合に必要となる。概日リズムの乱れは、(1)夜の光や子午線を越えるような飛行、(2)体内時計が環境の時間サイクルに少ししか同調していない、(3)マルチ発振器システムの位相の逸脱や非同調によって生じる。(2)は、年齢や疾患が起因するメラトニン分泌が低下するような条件の下で、発振器の振動がフラットになることで生じる可能性がある。このため、概日リズムの振幅を高めることができる薬剤に関心が持たれている。外部の同調器(日照時間など)と内部の発振器と間の脱同調や異常な位相関係、並列発振器同士の脱同調や異常な位相関係といった同調性の問題という現象は体系的に調査されていないが、この現象は双極性障害と季節性感情障害も含めた物理的および精神的なフィットネスの障害に関与しているものと思わる。概日リズムの誤動作が気分障害に関与しているのであれば、メラトニンやメラトニン作動薬は概日リズムを再調整すること気分障害の症状を改善できるものと思われる(ラメルテオンではMT2を介した位相シフトを促進するという概日ペースメーカーへの作用が確認されている。)

 ここでアゴメラチンやTIK-301のようなセロトニン受容体を介した直接的な抗うつ効果を混同しないことが重要である。合成メラトニン薬による治療は、概日リズムに有益であることが予想されるが、メラトニンよりもMT受容体への親和性が高いことや半減期が長いことが優れた有効性を期待できる訳ではない。メラトニンのような短時間作用型の時間生物物質は、位相を同調させる能力を有するが、概日リズムの発振器は感受性が広くノンパラメトリック・リセッッティングと呼ばれる。例えば、シンクロナイザー(メラトニン)の絶対的なレベルよりも相対的な変化という刺激が同調因子としての決定因子となる。

 位相をリセットする治療では時間生物学的な基本的な規則を考慮する必要がある。既に解説したようにリセット信号は、それぞれのPRC信号に応じて作動している。ヒトでは、リセット信号としてのPRCを機能させる上で、メラトニンが投与されるタイミングが最も重要となる。概日リズムのサイクルの中で、適切で十分に感受性を有する位相でメラトニンが投与された場合に限ってメラトニンによる概日リズムの再調整が達成される。シンクロナイザー(外界の光の変化)との乏しいカップリングのために概日リズムが同調されていない場合は、発振器が所望の位相に到達するまでに数日以上かかることがある。これらの時間生物学的な基礎を無視した方法はメラトニンの投与が無効であるという誤った結論につながることになる。

 メラトニンや合成メラトニンが概日リズムをリセットする唯一の手段ではない。SCNとの神経接続が障害されていない場合ではあるが、長時間の青色の光刺激(または緑色光)によっても概日リズムはリセットされる。光療法は概日リズムのリセットのオプションの一つになりうる。ある個体では、光刺激とメラトニンの組み合わせが概日リズムのリセットにおいて好ましく、かつ、有利であろう。しかし、SCNの光信号の受容が障害されている条件下では、メラトニンのみしか効果がない場合がある。
(概日リズムリセット装置。↓) 
代替療法の限界

 短時間しか作用しないメラトニンの使用は補充療法としては区別される必要がある。メラトニンの使用は、高齢者やメラトニンのレベルが減少する様々な疾患の患者には好ましいであろう(表1)。しかし、短い半減期のために、メラトニンの即時放出製剤では、十分な補完を可能にすることはできない

 従って、合成アゴニスト徐放性のメラトニンの方が優れていると推定される。メラトニン自体は忍容性に非常に優れているため、メラトニンの徐放製剤が最初に試されることになろう。合成薬の中では、ラメルテオンがFDAによって既に承認されているので、アメリカでは選択肢の1つかもしれない。ヨーロッパでライセンスされているアゴメラチンは比較的良好な結果が得られている。しかし、いずれの薬剤も使用が限定されている。例えば、メラトニンの徐放製剤であるCircadinは55歳以上のみの適応に限るといったように。従って、全ての疾患に使用できる訳ではない。睡眠導入や時間生物学的な効果からはアゴメラチン、ラメルテオン、メラトニンが推奨されるが、適応症に限りがある。

 睡眠の維持や睡眠の質に関してもこれらの薬物が有効であると報告されているが、統計的なデータでは睡眠障害の改善度は中等度である。慢性的な不眠症を有する高齢の患者では、睡眠の維持効果においてはラメルテオンは個人差が大きいことが分かっている(睡眠維持のメカニズムはメラトニンよりも下流の機能が関与しているため、睡眠の維持効果は期待できないであろう。これは全てのメラトニン作動薬に当てはまることである)。統計的に睡眠時間や睡眠効率の増加が実証されているが、これらの知見は夜間の睡眠の持続的で完全な改善を意味するものではない。同じことが他のメラトニン作動薬物についても言える。睡眠開始や睡眠効率に関しては適度に良好な結果を有するが、メラトニンが欠乏するような場合においては、補充療法としてはメラトニン作動薬物のいずれでも十分な睡眠の改善は達成されていない。さらに、50mgや100mgのようなメラトニンよりもはるかに高用量で補充が可能になるかどうかも試験されていない。メラトニンの徐放製剤であるCircadinの標準用量はわずか2mgである。忍容性および有害性の面では、メラトニンの投与量は合成メラトニン作動薬物よりも懸念が少ない。しかし、300mgのメラトニンを経口で2年間ALSの患者に投与したが安全であることが報告されている。

 うつ病におけるアゴメラチンの使用に関しては、うつ症状が概日リズムの機能不全に基づくものか、他の理由に基づくものかを区別する必要がある。概日リズムの機能不全のケースでは、位相調整という時間生物学的観点からは、アゴメラチンの有効性は、MT受容体親和性を有する他のものと区別することができない。大うつ病では、うつ症状は主に概日リズムに起因しているのではなく、うつ症状の改善は5-HT2cの阻害作用に起因しているか、あるいは、MT1 / MT 2と5-HT2Cの相互作用によるものであろう。しかし、これらのプロパティは、古典的な抗うつ薬とは異なる。このため、何人かの研究者は、既存の抗うつ剤の効果が不十分な大うつ病性障害に対するアゴメラチンの有効性を検討した。アゴメラチンでは作用機序を区別することが必要である。アゴメラチンの利点は優れた抗うつ効果にあるのではなく、睡眠の改善作用と抗うつ効果の組み合わせであることが分かった。睡眠障害は、古典的な抗うつ薬でしばしば生じるため、この二重の作用は重要である。

 メラトニン作動薬の制限が薬物相互作用に起因することがある。CYPアイソフォームを阻害する他の薬物の存在下で、高濃度を呈することによる。例えば、ラメルテオンは主にCYP1A2、CYP2C9、CYP3A4によって代謝され、アゴメラチンはCYP1A、CYP1A2、CYP2C9に代謝され、tasimelteonはCYP1A1、CYP1A2、CYP2D6、CYP2C9 によって代謝される。従ってCYPを阻害するようなフルボキサミンシプロフロキサシンメキシレチン(抗不整脈剤)、ノルフロキサシン、azileuton、フルコナゾール(抗真菌剤)、ケトコナゾール(抗真菌剤)などの薬剤との併用は避けなければならない。メラトニンの場合には、CYP阻害によって引き起こされる血中濃度は上昇は重篤な副作用は呈さずに、比較的無害である。にも係らず、自己免疫疾患では全てのメラトニン作動薬ではWillisらによって警告がなされている。なぜならば、メラトニンには免疫調整作用があり、特に、パーキンソン病、小児、妊娠中での使用は禁忌であると警告されている。メラトニンは、子供や妊婦に使用されることもあるが、利益と危険性を同時に考慮する必要がある。承認された合成アゴニストに関しては、肝、腎機能障害、アルコールとの併用、高脂肪食との併用も禁忌として記載されている。

 全ての臨床試験においてメラトニンアゴニストは忍容性に優れていたが、長期間の使用では副作用に注意する必要がある。ラメルテオンの長期使用時の安全性を述べた論文も多いが、多くは主に吐き気や頭痛といった軽度の有害事象にしか触れていない。さらに、肝臓機能への影響、残留性(翌日への持越し?)、リバウンド的な不眠症、6~12ヶ月間使用後の離脱症状や依存性、などといった有害事象はないと報告されている。しかし、長期使用時の変異原性や発癌性が排除されている訳ではない。変異原性はないと発売元はデータで示しているが、それはラメルテオンの場合だけであり、ラメルテオンの主代謝物であるM-IIをも考慮する必要がある。しかも調べられたラメルテオンの濃度はM-IIの3倍までの濃度のデータである。M-IIはラメルテオンよりも20~100倍もの高濃度になるため体内に蓄積すると思われるが、M-IIによる肝毒性、小核形成(核の形が変化し発癌につながる変化が)、変異原性をも考慮する必要があるが、M-IIによる影響はまだ何も調べられていない。なお、ラメルテオンでは小核形成がラットの肺で認められている。、

 アゴメラチンの場合にも毒性の懸念は存在するであろうが、短期間の使用では忍容性は良好である。しかし、ナフタレン化合物であるため、CYP関連の肝臓への影響発癌性を含めた長期の毒性を調べる必要がある。CYP依存性代謝に関しては、薬物相互作用の問題としてではなく、ナフタレン物質の基本的な問題である毒性を有する代謝産物の形成が問題になろう。アゴメラチンの25mg/日という比較的高容量の推奨用量が考慮されねばならない。アゴメラチンの肝毒性のリスクが最近になって示された。さらに、動物実験で観察された高用量における発癌性は警告として解釈すべきである。メラトニン作動薬では長期的な安全性に関しては代謝物のプロパティをも考慮する必要がある。この点でラメルテオンはメラトニンよりも必ずしも優れているとは言えないかもしれない。
(特に、ラメルテオンでは、メラトニン製剤よりも半減期が長く高用量が使用され、MT受容体への親和性も高いため、長期使用ではMT受容体のダウンレギュレーションを引き起こす可能性がある。MT受容体のダウンレギュレーションが免疫系などの末梢組織においてはどのような影響を及ぼすかはまだ不明である。)

(論文終わり)


 メラトニンは日本の薬局には売っておらず、アマゾンなどで購入するしかない。アマゾンでは簡単に購入できる。私は50歳を過ぎており、認知症になりたくないので既にメラトニン徐放剤を内服している。効果の程は20年後くらいに分かることであろう(もう、手遅れかもしれないが^^;)。

メラトニンの概日リズム以外の多彩な機能。精神疾患や生活習慣病や発癌の予防との関連(その2 加齢の影響と疾患との関連)


概日リズム









(前回の続き)

加齢と様々な障害や疾患においてメラトニン分泌が減少した

 夜間のメラトニンのピークは個体間のばらつきがあるが、加齢に伴い減少していく。中等度の夜間のメラトニンの減少はあるもののリズムが良く維持されている高齢者と比べて、高齢者の一部では、夜間のメラトニンの値は、昼間の値と夜の値は殆ど差がなくなっていた。強いメラトニンの低下を持つ高齢者では、昼間の値も多くの場合で減少している。加齢に関連したメラトニンの形成障害は、血中だけでなく、松果体、唾液腺、脳脊髄液、尿中のメラトニン代謝産物(6-sulfatoxymelatonin)でも分かっている。
(夜間のメラトニンは10歳台がピークであり、20歳以降では減少し始める。60歳になる前の40~50歳台で既に睡眠障害を起こしてもおかしくないほど低下している人もいるらしい。)

melatonin-aging










 健常な個体では、松果体機能が低下した個体と比べて尿中の6-sulfatoxymelatoninレベルは20倍もの違いがある。血漿メラトニンの夜間のピークは、若者と比べて、高齢者では位相が前進している(ピークとなる時間帯が早い時刻となる)。加齢に伴うメラトニンの減少はさまざまな疾患の原因となる。進行性の障害は、(i)SCN、(ii)松果体への神経伝達の障害(これは神経変性疾患で観察された)、(iii)松果体石灰化という形で観察された。

 いくつかの神経変性疾患において、特にアルツハイマー病(AD)や他の認知症疾患では、年齢をマッチさせた解析にてメラトニンの強い減少が観察された(表1)。これらの患者の多くではメラトニンのリズムは実質的に無くなっている。このメラトニンの減少はSCNの変性に起因するものと思われる。早熟や頭蓋咽頭腫の原因となることがある視床下部の過誤腫と診断された若い患者においても、SCNの組織破壊の結果としてメラトニン分泌の減少が観察されている。

 SCNの変性では、SCNと松果体や他の部位との間の神経接続の障害がメラトニン分泌の減少の原因であると思われる。しかし、神経接続の障害なくても松果体ホルモンを減少させる多くの他の疾患や機能障害がある。松果体ホルモンを減少させるものとしては、ストレス状況、疼痛、心血管疾患、癌、内分泌や代謝疾患、2型糖尿病、急性間欠性ポルフィリン症などがある。

 これらの知見からは、メラトニンよって疾患を予防したり治療することができるかもしれないという考えが生じる。急性の痛みやストレスなどによるメラトニンの減少は、これらのイベントによって誘導される。酸化ストレスに関連付けられている疾患の場合では、抗酸化作用を有するメラトニンがフリーラジカルによって大量に消費されるような場合でも同じようなメラトニンの減少がこと起きる可能性がある。

 神経変性疾患のような条件下では、メラトニン分泌の減少は、他の疾患の増悪を促進するような方向に作用するかもしれない。しかし、メラトニンの減少が先か疾患としての発症が先かという問題などのため、メラトニン分泌の減少によっていろいろな疾患が増悪していくかを同定することは容易ではない。メラトニンに関連する遺伝子多型といろいろな疾患との関連性が示されているため、メラトニンの低値と疾患の発症や進行との関連が推測されている。

 メラトニン合成や信号伝達の障害は結果的に同じ現象を引き起こす。(メラトニン関連遺伝子の多型リスト。表2)。これらの多型はメラトニン膜受容体であるMT1とMT2遺伝子、メラトニン合成酵素遺伝子であるAANAT、HIOMT、オーファン受容体(リガンドがまだ不明な受容体)であるGPR50で見つかっている。メラトニンとバインドしないGPR50タンパク質は、非哺乳動物のMel1c受容体のオルソログとして哺乳類では同定されている。GPR50はMT1とヘテロ結合しMT1受容体とGタンパク質とのカップルを阻害する。
(GPR50は精神疾患と関連している) 
http://en.wikipedia.org/wiki/GPR50
 
 メラトニンのシグナル伝達におけるGPR50の役割は、特にGPR50がアップレギュレートされている状況での役割は重要である。GPR50ノックアウトマウスでいろいろな代謝的な変化が観察されている。GPR50はメラトニンシグナル伝達を超えた機能を有する。GPR50は、神経突起の成長を阻害するNOGO-Aや、グルココルチコイド受容体シグナル伝達やヒストンアセチルトランスフェラーゼの共役活性化因子として作用するTIP60との相互作用を有する。(NOGOを阻害することで神経突起の成長を促す)

 なお、表1と表2に記載されてい疾患にはかなりオーバーラップしている。時計遺伝子の多型が関与していると、疾患によってメラトニンのリズムは変更するであろうし、メラトニンによる疾患への影響も様々に変化するであろう。最近、癌とメラトニンに関して特に議論が交わされている。しかし、疾患と遺伝子の多型との間の関連性を危険因子として認識することは重要である。多因子性の疾患では、遺伝子の多型性は他の要因との組み合わさることによって影響力を及ぼすようになる。メラトニンの減少と遺伝子の変異が同一疾患で認められることは、疾患とメラトニンとの因果関係を示唆するものかもしれない。


時計機能、同調障害、メラトニンリズムの弱体化とそのリセット

 マスタークロック(=SCN)の障害みならず、周辺発振器の障害としても、時計機能の障害としてメラトニン活性の障害は常に観察される。メラトニンの周辺シグナル伝達経路と代謝とのリンクを詳細に分析する必要がある。

 SCNへの入力と出力の接続障害によってメラトニンリズムの低下や位相の障害が生じる。一方、メラトニンの分泌低下はSCNへのフィードバックが低下し、暗さによる位相のリセットの障害が生じる。このような場合に、メラトニンやメラトニン受容体作動薬の内服によって位相や振幅の両方に関するリズムを再調整できるのかどうかという課題が残る。

 様々な理由で時計機能が弱体化する。視覚入力の障害によってもメラトニンリズムの低下や位相の障害が生じるが、視覚入力の障害とSCNの変化や出力経路の変化とを区別しなければならない。メラノプシン含有網膜神経節細胞によって知覚される青色光に関しては、瞳孔の縮瞳障害や水晶体混濁などによって受光量が減少するため、高齢者において概日リズムの障害が気が付かれずに発生する可能性がある。視覚からの入力障害によって概日リズムが破綻し、睡眠が障害され、その結果、感情障害、メタボリックシンドローム、他の全身性の疾患が惹起さえる可能性がある。視覚的に目の不自由な人でも、もし、メラノプシン含有網膜神経節細胞とSCNへの接続が保持されている場合では、光による概日リズムは保持されることがある。他のブラインド実験では、メラトニンも含めた概日リズムは、外部の時間の手がかりがなくなれば位相が乱れることが示された。あるケースでは、概日リズムは外部のシンクロナイザーによって引きつけられ徐々に外れていき、1日の周期は大きくシフトした。別のケースではフリー・ランニングのリズムとなった。外部時間の手がかりがなく、外部時間と同調できなくなった障害は「フリーランニング障害(FRD)」として知られている。

 SCNと松果体の間の神経接続に問題がない限り、SCNのリズムがメラトニンの形成と放出のリズムを決定する。しかし、夜間の光によって、松果体からのメラトニンが急性抑制を受け、メラトニンのリズムが変化することがある。この現象は夜間の交替勤務やシフト勤務において特に重要である。夜間の光によって、概日リズムの乱れとメラトニンの急性抑制の両方の影響がシフト勤務で観察され、健康問題に関与していると考えられている。疫学的に、ある種の癌(前立腺癌、乳癌など)、心血管疾患、消化性潰瘍、肥満、メタボリックシンドロームなど、様々な疾患や障害の危険因子の1つとして夜間の交替勤務やシフト勤務が提示されている

 SCNと松果体間の相互接続は、常に2つの側面から評価せねばならない。まず、光を受容することが減少すれば、SCNが機能不全に陥ったり、松果体への神経支配が障害され、概日リズムの位相がずれたり、平坦なメラトニンリズムとなる。一方、夜間のメラトニンの低下は、SCNへのフィードバックが不十分となり、暗信号によるリセットが掛かりにくくなる。SCNと松果体との間の関係は複雑である。ある遺伝子的素因の元では 外部の時間サイクル(地球の自転周期)へ適切に同調することが困難となり、極端に短いか、または長い自発的な概日リズムとなる。全ての個人にあてはまる訳ではないが、リセット信号の強度を高めることにより、地球の24時間周期に同期することができる。24時間周期に同期させるには明るい光が、特に朝の明るい光が好ましい

 逆に考えれば、暗信号を強化するため、夕方にメラトニンや合成メラトニンアゴニストを投与することが有効であると考えられうる。理論的に考えれば、もし、個人の生活サイクルが、シフト勤務などによって、24時間のサイクル以外であれば、光やメラトニンによる安定した同期が不可能となる。概日リズムのマルチ発振器システムにおける並列発振器との最適な位相合わせとは何かを今後さらに詳細に検討しなければならない。シフト勤務などによる概日リズムの破綻と低い夜間のメラトニンレベルは、マルチ発振器システム内部での発振器同士の同調をできないようにするか、または、相対的な同調にしてしまう。シフト勤務などでは、マルチ発振器システム内部のリズムの非同期化が観察されており、疾患の原因や指標になるものとして議論されている。

 概日リズムの発振器システムの誤作動に関連した病態生理学的所見は、多くの障害や疾患に関連していると考えられている。しかし、いろいろな危険因子と結合することで、概日リズムの発振器システムの誤作動に関連する症状は強く変化する。概日リズムの発振器システムの誤作動では、入眠困難睡眠の持続障害気分障害が最も多く観察される。これらの障害は、概日リズムの機能不全に関連しているので、基本的にメラトニンの分泌能力の変化を伴うことはなく、発振器の故障、または、神経接続の障害による体内時計の故障の結果として生じる。発振器の故障や神経接続の障害という状況では、SCNや他の関連する中枢神経の領域において発現されるメラトニン受容体の機能は正常でありメラトニンやそのアナログを内服することによって疾患を治療できるチャンスが存在する。

 不眠は様々な疾患の症状となる。人口の約10%に慢性的な不眠があり、時には治療が困難な場合がある。不眠症は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、昼間の眠気、疲労感、神経過敏、集中困難、課題遂行困難などの特徴がある。不眠症は他の疾患や障害に併発することを知っておくことが重要である。気分障害では不眠がよく出現するが、それ以外にも、心血管疾患、体重増加、耐糖能異常でも発生する。

 概日リズム障害に関連した不眠症のサブタイプに関しては他の病因の睡眠障害と区別する必要がある。いわゆる概日リズム睡眠障害(CRSDs)は、様々な原因から生じる。概日リズム障害に関連した不眠症は先天的にも後天的にも生じる。、簡単に自発的に概日リズムの周期が逸脱してしまう家族性睡眠相前進症候群familial advanced sleep phase syndrome (FASPS)とdelayed sleep phase syndrome遅延睡眠相症候群(DSPS)である。コア発振器遺伝子であるPER2とPER3の多型性が概日リズム睡眠障害(CRSDs)で同定されているが、他の時計遺伝子の変異もこのタイプの睡眠障害につながる可能性がある。不十分な光の入力による概日リズムの障害が盲などの患者で存在するため、光入力経路の障害でもCRSDsが生じる。フリーランニング、または相対的にしか同調していないリズムでは 概日リズムの昼間の位相が夜間にずれてしまうため睡眠障害となる。不規則な睡眠-覚醒のパターンは概日リズムの低い振幅に関連する。特に高齢患者では、SCNの劣化や夜間のメラトニン減少によって不眠となることがある。

 睡眠障害と気分障害との関連性に対するメカニズムにはさまざまな仮説がある。不眠症状はうつ病性障害の予測因子となると考えられている。この見解は、うつ病が再発する前駆症状として数週間前から睡眠障害や睡眠の変化が発生するという調査結果によってサポートされている。不眠は気分障害で最も多い症状の一つだが、概日リズムの障害が気分障害の原因となるかに関しては、概日リズムの障害のある種のサブタイプでは気分障害の原因となる可能性がある。

 概日システムの変位が季節性感情障害と双極性障害で認められている。コア発振器遺伝子であるPER2、CRY2、Bmal1(= Arntl)、NPAS2の多型性が冬季うつ病で、PER3、CRY2、BMAL1(Arntl)、Bmal2(Arntl2)、CLOCK、DBP、TIM、CsnK1ε、NR1D1の多型性が双極性障害でそれぞれ示されている。さらに、CRSDの一種であるDSPSは季節性感情動障害と関連することが見出された 。双極性障害と季節性感情障害の双方ともが長周期のリズムという特性を示すため、概日リズムの発振器が外界のリズムや体内のリズムと適切にカップリングしていないと解釈することも可能だが、大うつ病性障害(MDD)ではそういった状況は明確ではない。MDDでは、概日リズムが関係しているという説得力のある証拠はまだないが、CRY1とNPAS2の多型性がMDDに関連していることが発見されている。MDD自体に異質性があるため、MDDでは概日リズムは関連しないとまでは言いきれない。

 表2からはメラトニンの関与が推測され、睡眠障害とある種の感情障害のおける概日リズムシステムの重要性は明らかであるが、メラトニンの関与に関する遺伝子的な証拠はまだ比較的少ない。双極性障害はRORB遺伝子の多型性に関連していることが報告された。RORB遺伝子は、細胞核におけるメラトニン受容体と考えられている転写因子であるRORβをコードする。しかし、RORβの作用が、メラトニンに依存した概日時計への入力にどのように反映しているのかは不明である。遺伝子の影響を加味したとしても、メラトニンレベルの低下やメラトニンシグナル伝達の障害は、概日リズムの低振幅と概日リズムの発振器とのカップリングの障害(体内リズムの同調障害)に関連すると結論づけることができる。従って、メラトニンやメラトニン受容体作動薬は、SCNが機能的に損なわれていない限り、概日リズムの機能障害を修正するためのオプションとなる。メラトニンやメラトニン受容体作動薬は、CRSDsや周期的に生じる感情障害の治療では特に重要となろう
 

メラトニンとアルツハイマー病AD

 メラトニンがアルツハイマー病に有益であるかもしれないという仮説がある。この仮説は、ADでは、メラトニンの欠乏や概日マスタークロックの誤作動が観察されており、酸化ストレスや非定型の炎症プロセスがADに伴う症状として観察されており、メラトニンは抗酸化作用と抗炎症作用有するためADに有益であろうと推測されている。

 トランスジェニックマウスや試験管内の実験データでは、メラトニンの効果の可能性が示された。ADのトランスジェニックモデルマウスでは、メラトニンの早期の投与は酸化的ダメージの減少やアミロイド蓄積の減少を示したが生存率の増加には結びつかなかった。別の研究では、メラトニンの投与によってアポトーシスの減少やコリン作動系へのダメージの減少を示したが、この所見からは、メラトニンによって認知機能の改善や行動が改善する可能性が示唆される(特に、軽度知的低下MCIなどの認知症の前段階でのメラトニンの使用が推奨されてきている)。また、メラトニンは抗フィビリノーゲン作用を有することが示された。しかし、発症後の遅い時期に投与を開始した場合ではメラトニンの効果は示されなかった。

 ADと診断されるのは通常は発症後という遅い時期になされる。従って、ADおいては、進行を遅らせたり寿命を延長するような観点からはメラトニンの臨床的効果は期待できない。コリン作動性薬やメマンチンのADへの乏しい効果から分かるように、メラトニンをADが発症した後での遅い段階で投与することは推奨されない。最近、ADにおいては金属(亜鉛)の関与が示され、アミロイドβを分解する神経細胞内の亜鉛の枯渇を予防するというイオン透過性を介した新しい戦略が提示された。メラトニンはイオン透過性にまでは関与できないが 時間生物学と睡眠パラメーターの改善する補完療法としてのメラトニンの投与は再考されうる。
メラトニンは抗アミロイドβ蓄積作用を持つ。MT1受容体を介しBDNFも増加させる。認知症の予防薬としての効果や進行を遅らせる効果が期待できる。)
melatonin and AD











 ADを予防したり発症や進行を遅らせるする上でのメラトニンの臨床的価値は疑わしいようにも思えるが、メラトニンのADへの有益な効果は一般的に除外されない。ADに関連した睡眠障害や行動の変化、特に、 夕暮れ症候群“sundowning”agitationや認知障害におけるメラトニンの効果が想定される。しかし、AD患者の間では個体差が大きい。認知障害が同じ程度でも、概日リズムや睡眠に関連する脳構造の変性の度合いは異なる可能性がある。覚醒と睡眠を電気的に制御しているSCNと下流構造をメラトニンで操作すれば、概日時間パターンに関連付けられている睡眠の改善や行動が改善する可能性が残っている。ある研究では、朝の明るい光と夕方にメラトニンを投与するという併用療法で、入眠の改善、覚醒の改善、睡眠の質の向上、昼間の眠気の防止、といったADへの効果が示された。

 メラトニンによって夕暮れ症候群が著明に減少することが判明したが、これは介護者の負担に関して特に重要である。しかし、最も大規模な臨床試験では、メラトニンの睡眠に関する統計学的有意差は認められなかった。ADのある患者ではメラトニンによって睡眠が促進されたが、コフート分析では、夜間の総睡眠時間の増加や中途覚醒を減らしたことは示されなかった(そういった傾向があることしか示されなかった)。しかし、介護者の評価では、睡眠の質において、プラセボに比べて徐放性メラトニン群で有意な改善を示した。このような研究ではADの異質性の問題がある。ある患者ではメラトニンは睡眠の改善には有効であろうが、他の患者では失敗する可能性がある。

 なお、認知症の前段階である軽度知的機能低下MCIにおけるメラトニンの使用が推奨されてきている。内服量は3~9mgである。


メラトニンとパーキンソン病

 パーキンソン病PDにおけるメラトニンの有用性は、ADよりもさらに意見が分かれている。最も重度のパーキンソンの症状が現れた時点で既に黒質線条体に高度なダメージが存在しているという問題が存在するからである。前臨床試験に使用するために、PDにおける黒質線条体の変性を模倣することを目的して、神経毒である6 -ヒドロキシ、MPTP、ロテノン、マンネブ、パラコートを投与した動物モデルが作成されている。この動物モデルの研究では、メラトニンは、酸化毒性とミトコンドリアへの毒性を示すこれらの化合物によるダメージを軽減させた。

 メラトニンは、抗酸化作用抗ニトロ化作用ミトコンドリアへの調整因子、といった多彩な作用を有し、動物モデルでの効果は活性酸素や窒素化合物の形成を減少させる作用を反映しているのであろう。しかし、さらに調査した研究では結果が矛盾していた。ある研究では、慢性的なモデルでのメラトニンの保護効果が報告されたが、他の研究ではメラトニンによる改善は認められなかった。PDは黒質線状体から病変が始まるのではなく、脳幹や脊髄から病変が始まり、長く無症候性に経過するというPDの病因や特徴が動物モデルでは考慮されていないため結果が矛盾することになる。レビー小体は非常に早い段階で検出されるが、前駆期としての黒質以外の退行性変化は、動物モデルでは無視されている。

 PDでのメラトニンの使用に関しては、ウィリスらによって反対されている。彼はPDの原因をメラトニン・ドーパミンの不均衡にあると考え、メラトニンの過形成がPDの原因になると唱えている。彼はメラトニン拮抗薬がPD に有益であると報告した。しかし、この結論は、PDで見い出された線状体や扁桃体などにおけるMT1やMT2の発現低下という所見とは矛盾する。PDの多くの患者ではメラトニンの分泌の増加は観察されていないし、逆に、あるケースではメラトニンのリズムの振幅は低下していた。PD患者において、Lドーパによる治療にてメラトニンの概日リズムの位相の前進が観察されたが、 Lドーパを投与されていない患者では見られなかった(Lドーパにてメラトニンの分泌低下が改善されたため位相が前進したということか)。従って、PDにおけるメラトニンの過剰生産仮説は支持されない

 他の研究では、メラトニンの分泌を抑制するために明るい光を使用ことがPDでは有益であると報告されてもいるが、これは、言い換えれば概日リズムを強化していることにもなり、光刺激でメラトニンを一時的に抑制することで、メラトニンの分泌のリバウンドを強化するというアプローチでもある。PDの病因においては、黒質線状体が影響されてはいないPDの初期の段階において、メラトニン・ドーパミンの不均衡が存在するかどうかはまだ示されていない。これまでのメラトニンやメラトニン作動薬のPDにおける使用の警告は、ウィリスらによるメラトニン拮抗薬の効果の報告から逆に推論されただけかもしれない。 

 ウィリスらの報告にも係らず、メラトニンや合成メラトニン作動薬はPDの睡眠障害やうつ症状の治療になると考えられてきている。睡眠障害の改善がPDのいくつかのケースで既に証明されたが、まだ注目されてはいない。アゴメラチンによるPDのうつ症状における効果に関しては、メラトニン以外の作用かもしれない。
 

メタボリック症候群、インスリン抵抗性および2型糖尿病との関係

 これらの疾患のおけるメラトニンの研究は新らしい領域である。MT2遺伝子の多型性が2型糖尿病の危険因子となりうると同定されてからメラトニンへの関心が高まった。メラトニンは、様々な実験モデルにおいてインスリン分泌を調節することも示された。膵臓のランゲルハンス島における内因性の概日発振器の存在は、糖、脂肪、エネルギー代謝における時間生物学的な重要性を意味し、メラトニンがこれらに何らかの役割を果たしているものと思われる。ラット膵臓おいて、メラトニンはインスリン分泌のリズムの位相をシフトし、インスリンの分泌の振幅(値)を増加させることが示された。血糖値の変化に関しては膵臓におけるインスリンやグルカゴンの相互作用を考慮しなければならない。

 インスリン抵抗性の条件下では、(インスリンの細胞内への糖の取り込みという本来の機能が十分に働かないため、糖分がないと判断し)グルカゴン分泌は十分なインスリンによっても阻害されない。逆にグルカゴンはインスリン放出を刺激する。ヒトの膵臓のランゲルハンス島では、MT1受容体を介したメラトニンによるグルカゴン分泌の活性化は MT2受容体を介したメラトニンのインスリンの分泌低下作用よりも優位であり、グルカゴンによるβ細胞への効果が優位となりインスリンのレベルは上昇する。メラトニンのグルカゴン分泌刺激効果は膵臓α細胞で確認されている。齧歯類と人では夜間に活性化するメラトニンの作用は大きく異なっており、動物モデルにおけるメラトニンの作用と人における作用とを混同しないようにする必要がある。哺乳類では夜行性と昼行性に係らずメラトニンは夜にピークを迎えるが、夜に活動し摂食も夜が主である齧歯類では異なり、さらに、人では夜のメラトニンは吸息し空腹となる概日サイクルの重要な一部分をなす。ヒトでは、糖新生と糖の利用減少によって、血糖は基本的に夜間に調節されている。夜間のメラトニンによって、グルカゴンの分泌が刺激され、脳への適切なエネルギー源が確保されるように誘導されている。齧歯類で観察されたメラトニンによるインスリンの抑制作用は人には適用されない。時間生物学的観点からは、メラトニンの有用性や代謝や栄養素としての意義は夜行性の齧歯類と人類では異なる。この相違は、エネルギー代謝の他の多くの場面でも認められる。

melatonin-ghrelin











 
 

 インスリンとグルカゴンの分泌促進という効果だけでなく、メラトニンの抑制はメタボリックシンドローム前段階に関与しており 高血圧症インスリン抵抗性肥満という結果をもたらす。メタボリック症候群におけるメラトニンの役割は既に他の論文で要約されている。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21358175

 松果体を切除されたラットにおいて永続的なインスリン抵抗性が生じることが示された。さらに、メラトニンやメラトニン作動薬がラットのインスリン抵抗性に拮抗することが薬理学的に示された。同様に、MT1受容体遺伝子をノックアウトしたマウスにおいてインスリン抵抗性が誘発されることが報告された。しかし、人間においてはそれほど明確には示されていない。メラトニンとインスリン感受性との関連性を示唆する薬理学的な所見が不足しているため、MT2遺伝子の多型性(表2)において空腹時血糖の上昇が示されているが、インスリン抵抗性を示すデータとしては提示されていない。いくつかの若い個体での研究で、メタボリック症候群とMT2遺伝子の多型性とは関連していたが、メタボリック症候群とインスリン抵抗性との関連性は欠如していたことが示されている。その代わりに、これらの遺伝子変異では、グルコース刺激によるインスリン放出の減少が報告されている。なお、MT2遺伝子の変異とインスリン抵抗性を示した多嚢胞性卵巣症候群が報告されている。メラトニンとメタボリック症候群との関連性を最終的に判断するためには、高齢者のケースにおけるメラトニン受容体の変異に関する追加研究が必要である。

 肥満におけるメラトニンの関与に関しても同様に議論されている。メラトニンが夜行性の齧歯類における脂肪組織の量や内臓脂肪の容量を減少させることができるが、人ではまだ示されていない。いくつかの研究では、メラトニンのレベルは、肥満患者と正常体重の被験者の間では差がなかったが、ある肥満患者ではメラトニンが増加していたと報告されている。短期の断食にてメラトニンが減少することが報告されているが、肥満の後期における所見である。閉経後の肥満の女性においてはメラトニンは減少することが見出された。人の肥満とメラトニンにおいては、さらにデータが必要であるが、特に、メラトニンにおいては加齢や老化との関係に注目する必要がある。夜間摂食症候群などでは概日リズムの逸脱と体内時計の破綻が関係しているが、単純肥満との鑑別が重要である。(なお、メラトニンの抑制と肥満やメタボリック症候群は関連するという意見がますます増えているようである)
(夜間のメラトニン抑制が肥満と関連する)
(メラトニンは脂肪の燃焼を促進する褐色脂肪組織を活性化する。メラトニンによって中性脂肪の燃焼が促進される。)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20557470
(メラトニンはフルクトースの過量摂取によって生じるメタボリック症候群を改善する)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22220562
(メラトニンと消化器系との深い関連についての詳細なレビュー)
http://www.jpp.krakow.pl/journal/archive/12_07_s6/articles/03_article.html
(メラトニンは心血管疾患の予防となる)
http://www.revespcardiol.org/en/melatonina-enfermedad-cardiovascular-mito-o/articulo/90098386/

(次回に続く)

melatonin-fluctose

 

メラトニンの概日リズム以外の多彩な機能。精神疾患や生活習慣病や発癌の予防との関連(その1 シフト勤務や夜勤への対応)


Circadian adaptation

































  夏も終わり、日照時間が短くなってきた。概日リズムが変化する時期である。この季節の移り変わりの時期にはなぜか精神疾患(特に双極性障害)が悪化することが多い。おそらく概日リズムの変化やメラトニンが関係しているのであろう。今回はそのメラトニンに関する話である。

 メラトニンが近年、注目されてきている。メラトニンは、精神疾患の予防(認知症、特に認知症前段階であるMCIレベルでの使用、夕暮れ症候群などの予防、双極性障害やうつ病などの気分障害の予防)、糖尿病や心血管障害などの生活習慣病の予防発癌予防(夜勤やシフト勤務が起因していると考えられている前立腺癌や乳癌、等)、アンチエイジング(老化予防)など、様々な疾患の予防や治療に効果を発揮することが分かってきている。メラトニンの作用、メラトニンと概日リズム(サーカディアン・リズムcircadian rhythm)との関わり、メラトニン受容体作動薬の開発状況など、メラトニンに関してもっと知っておく必要があろう。
(メラトニンは癌治療での生存率を向上させる)
(夜勤とメラトニン抑制と乳癌と前立腺癌の関係)
(メラトニンと乳癌予防)
(メラトニンと前立腺癌予防)
(メラトニンは血管内皮細胞の増殖、浸潤、遊走を阻害する。これは癌増殖を抑制でき乳癌における血管新生阻害剤として有益である。さらに血管の老化を予防できるようにも思える。)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0026286213000289

  一方、時間生物学の分子生物学的研究もかなり進められており、その論文は膨大な数になる。体内時間を制御する分子メカニズムは非常に複雑であるが、その概要くらいは理解しておきたいものである(私の頭では複雑過ぎて全く理解できないのだが・・・)

 今回紹介する論文は、そのような期待に応えてくれる、メラトニンと体内時計の制御に関して分かりやすく解説したレビューである。
 

メラトニンと加齢と疾患:メラトニン分泌低下の帰結、メラトニンの治療におけるオプションやその限界。
「Melatonin in Aging and Disease: Multiple Consequences of Reduced Secretion, Options and Limits of Treatment」

 なお、この論文の著者は最近新しいメラトニンに関するレビューを書いており、同時に参照するのがよいであろう。
(メラトニンと時間生物学:視交叉上核へのフィードバックを超えて。メラトニンの機能不全の帰結)

 さらに、日本のサイトで時間生物学に関して分子メカニズや遺伝子など詳細に解説されているサイトがある。このサイトはお勧めである。
http://staff.aist.go.jp/s-hanai/clock_gene.html

 まず、シフト勤務や夜勤による概日リズムの乱れやメラトニンの分泌抑制にどのように対処すればいいのかを具体化していかねばならないと考えている。

 シフト勤務では、シフト勤務睡眠障害(SWSD)仕事中の過度の眠気注意力低下、などの様々な問題が生じ事故に結びつくのであるが(ナースや運転手など)、事故を起こした者の責任にして終わっていることが多く、背景に無理なシフト勤務が潜んでいることは考慮されず、経営者や管理者の責任が問われることは一切ない。当院でも同様であり、医療事故防止委員会では個人の責任にして終わってしまっている。私がこんな団体は不要だと唱えている日本医療機能評価機構もこの問題については常に無視をしている。
(経営者を守り個人の責任にするための医療事故防止センター)
http://www.medsafe.net/contents/recent/101kikou.html
(シフト勤務に起因する過度の眠気ESや事故)
http://www.medscape.org/viewarticle/532398_5
ES












 さらに、シフト勤務にはもっと大きな問題が潜んでいる。それは発癌である。日本では厚生労働省がこの大きな問題を無視し続けており、夜勤やシフト勤務などの概日リズムを不規則にするような勤務形態による健康被害に関しては何ら有効な対策を講じてない。健康診断の回数を1回だけ増やしているくらいであり、しかも、その検診で行われる項目は通常の定期健診の項目と同じであり、癌を早期に発見するための項目は一切入っておらず(乳癌や前立腺癌の腫瘍マーカーを無料で必ず行うべきなのだが)、呆れるばかりである。官僚達は、そんな勤務をすることがないため関心がないのであろう。個人防衛をしていくしかないのが現状である。私なりの意見を今回のブログの最後に提示するが、各個人が自分なりの防衛策を持って夜勤やシフト勤務に対処していかれることを切に希望する。


(本文)

 メラトニンは、数多くの生理機能を有し、様々な臓器で産生される制御因子である。松果体からの分泌は加齢に伴い徐々に低下する。体内を循環するメラトニンの著しい減少は、2型糖尿病アルツハイマー病ストレス状態疼痛心血管性疾患内分泌疾患代謝性疾患に関連している。体内を循環しているメラトニンの減少が多くの疾患において観察されている。メラトニン系のシグナル伝達の重要性は、これらの病態に関連付けられており、メラトニン受容体遺伝子の研究結果からも明らかである。この論文では、メラトニンとその合成アナログ、サーカディアンリズムの発振器とメラトニン分泌の間の相互作用、体内リズムの再調整の可能性、メラトニンと睡眠の関係、メラトミンと気分の関係、概日リズム依存性疾患へのメラトニンやそのアナログによる治療、その限界に関しての概要を説明する。既に短時間作用型のメラトニン受容体作動薬を使用することで睡眠と位相の調整に成功している。メラトニンに関連による薬剤による治療の重要性が強まってきている。既に承認されたメラトニン受容体作動薬や治験中のメラトニンアゴニストの特性を比較した。

 インドールアミンの1つであるメラトニン(N-acetyl-5-metho-xytryptamine)は松果体ホルモンとして知られている。視床下部に存在する概日ペースメーカーである視交叉上核(SCN)へのメラトニンの作用に関しては、時間生物学的の観点からは特に重要である。メラトニンの機能やメラトニンと関連する臓器は多岐にわたる(ほぼ全ての臓器がメラトニンの影響を受けていると言える)。メラトニンは、胃腸管(GIT)、骨髄、白血球、蝸牛の膜、皮膚、中枢神経系、などの多数の臓器や細胞で産生されている。松果体以外で産生されるメラトニンははるかに多く見過ごされている。GITに存在するメラトニンの量は松果体のものに比べて数百倍も多い。

SCN1









 松果体以外のメラトニンは、体内に循環するメラトニンとしてはほとんど放出されないか、あるいは、放出されたとしても極めて短時間しか放出されない。比較的多量のメラトニンの血中への放出が栄養因子に応答して食後にGITから短時間放出されることが知られている(それで満腹になると私は必ず眠くなるかもしれない^^;)。メラトニンのこのようなパルス的な放出は、放出の量の曲線の形状や位相の位置、いわゆる位相反応曲線(PRC)からすれば、概日システムには大きな影響を及ぼさない。PRCはリズムをリセットするための信号として描かれるが、概日リズムのどの時点でPRCという信号が出されたかという位相に依存する。通常、概日リズムを遅らせる位相に合わせてPRCが出されることが多いが、他にも、概日リズムを前進させたり、概日リズムには全く影響を及ぼさないような(サイレントゾーンの)PRCも存在する。人では、メラトニンのPRCは、SCNをリセットするタイミングで決定されている。松果体のメラトニン分泌は、SCNのリズムを強く再調整することが可能なような位相で主に観察されるが、食後のGITからのメラトニンの放出は、主に、サイレントゾーンで発生する。哺乳類では、松果体メラトニンの生合成と放出は、SCNの制御下にあり、メラトニンの生合成と放出が順番に生じるが、大部分は夜に限定されて生じる。メラトニンは松果体腺を介して血液中に分泌されるが、松果体凹部を介して第三脳室にも分泌される。
 
PRC







 要約すれば、これらの知見は、メラトニンは、様々な臓器に多数の機能を提供するが、SCNにおいては、構成要素の一つとしては重要ではあるが、排他的な機能を構成する訳ではないことを示している。このようなメラトニンの様々な役割と作用を知ることは重要になってきている。なぜならば、メラトニンとメラトニン合成薬は、睡眠障害や気分障害を治療するためにますます使用されるようになってきているからである。これらの化合物は、古典的な薬剤と比較されるが、単に眠剤や抗うつ剤と見なすべきではない。メラトニンとメラトニン合成薬は、これまでの古典的な薬剤とは作用が異なる。しかも、治療の標的となる効果以外にも他の多くの効果を発揮する。特にメラトニンの免疫学的な役割については大いに実用性がある。繰り返すがメラトニンの作用は様々である。

 メラトニンとメラトニン合成薬は、抗炎症だけでなく免疫増強効果がある。後者の特性からは、自己免疫疾患の場合にはメラトニンとメラトニン合成薬の使用は非常に望ましくない。これらの患者における使用は禁忌とされるべきである。メラトニンの抗炎症作用が明らかであるも係らず、メトキシインドールは炎症性サイトカインの刺激を介して、関節リウマチ(RA)の症状を明らかに悪化させる。また、RA患者では血中メラトニンレベルは増加しており、サーカディアンリズムでのメラトニンのピークは高値であった。他の疾患に関する注意事項については、特に、思春期や妊娠中の女性は参考文献を参照されたし。
(メラトニンとメラトニン合成薬は依存性がなく忍容性に優れてはいるが、子供、青年、妊娠中のメラトニン作動薬の使用が懸念されており、特に、自己免疫疾患での使用は避けるべきである)

 ホルモンや合成メラトニンの薬が投与されている場合、メラトニンの強い多面的な効果は避けられない。作用の多くは有益ではあるが、必ずしもメラトニンの全ての作用が必要ではない。しかし、メラトニンというコインの反対側には、この論文に記載されるように、メラトニンの生成と分泌の減少が数多くの疾患において病理学的な影響を持っていることを知らねばならない。


メラトニンの生合成、代謝、シグナル伝達機構

 メラトニンの生合成、代謝、シグナル伝達経路を簡単に説明する。メラトニンは、セロトニンから2段階のステップで合成される(図1)。これらのステップの逆も可能であるが、この逆のステップは脊椎動物に残っているが、生理的に無意味である。メラトニンの合成の際に前駆物質であるセロトニンを十分に使用することができるが、例外がセピアプテリン還元酵素遺伝子の突然変異で見つかっている(メラトニン欠乏により非常に長い睡眠/覚醒リズムとジストニアやパーキンソン症状を呈したケース)。この酵素の生成物であるテトラヒドロビオプテリン(BH4)は、芳香族アミノ酸ヒドロキシラーゼの生成に必要とされる。BH4欠乏はセロトニン欠乏やメラトニンリズムの平坦化という結果につながる。
メラトニンの生合成と代謝























 松果体や他の部位において、セロトニンはarylalkylamine N -acetyltransferase (AANAT)によってNASに、NASはhydroxyindole O -methyltransferase (HIOMT)、別名acetylserotonin methyltransferase(ASMTO)によってメラトニンへと代謝変換される。AANATはメラトニン生合成の律速酵素とみなされているが、ラットの夜間最大値の調査からHIOMTによって制限されることが見い出された。一部の松果体以外の部位ではメラトニン合成は松果体とは異なる場合がある。N-acetylationとO-methylationは他のアセチル・トランスフェラーゼやメチルトランスフェラーゼmethyltransferasesによっても代謝変換されることがある。 松果体のAANATが部分的に欠損したC57BL/6マウスの皮膚でNAS形成が観察されたため、皮膚のメラトニンの合成では他のアリールアミンN -アセチルトランスフェラーゼ(NAT-1)が関与していると推測されている。しかも、松果体のメラトニンが欠損したマウスで、機能的には活性を持つAANATのスプライスバリアントが白血球と骨髄で発見された。HIOMT活性の欠如がメラトニン欠乏に強く関与しているのかもしれない。松果体以外の細胞もかなりのメラトニンを含み、ある量は循環血液中に放出される。さらに、変異が確認されたマウスでは、特異的な他のスプライシングのメカニズムによって松果体以外の細胞ではメラトニンの合成が可能であることも分かっている。これらの知見から、松果体がメラトニンの十分な量を産生しない場合でも、末梢器官や細胞内にメラトニンが形成されることが分かる。

 メラトニン代謝の主要経路は、肝臓のモノオキシゲナーゼであるCYP1A2CYP1A2CYP1B1によって代謝され、さらに、硫酸抱合を経て6-sulfatoxymelatoninとなり容易に対外へ排泄される(図1)。この尿中の代謝物を追跡すれば、メラトニンのレベルとリズムを間接的に測定することができる。メラトニンを代謝分解する抱合のプロセスは中枢神経系からのメラトニンの放出には好ましくないが、驚くべきことに6-sulfatoxymelatoninの形成が脳で検出された。肝臓以外の組織にもメラトニン代謝の経路が存在するが、組織内部のメラトニンの量を減らすためにはこの代謝経路は重要である。メラトニンはCYP2C19によっても代謝されるが、最終的にはCYP1A2、CYP1A1が中心となって代謝される。5-methoxytryptamineへの代謝は、メラトニンカタラーゼや、その酵素よりもメラトニンへの特異性は低いがacylamidaseによっても代謝される。N1-acetyl-N2-formyl-5-methoxykynuramine (AFMK)へと代謝される酸化的ピロール環の開裂からなる全く別のメラトニン代謝経路も存在する。

 このAFMKへの代謝プロセスは多くの活性物質によって触媒される場合があり、様々な酵素、特に、デオキシゲナーゼ、ペルオキシダーゼ、いくつかの偽酵素、フリーラジカルを介したもの、光化学反応などによって触媒される。ラットの大脳漕にメラトニンを注入した後にAFMKが多量に検出されたため、AFMKは脳での代謝産物であると考えられていたが、脳以外でも、マクロファージ、ケラチノサイトなどの細胞内でもAFMKが産生されること分かっている。この代謝物は人間の尿中やマウスの様々な組織では十分な量は検出されない。ただし、同じ研究では、AFMKからmethoxylated kynuraminesという代謝物が一過性に形成されているとも推測された。AFMKは人のウイルス性髄膜炎における脳脊髄液中でも検出された。メラトニンとIL-8やIL-1βは負の相関を示す。脳脊髄液では、50nm以上のAFMK場合には10nMのAFMKの場合と比べて、IL-8やIL-1βは低い濃度であった。AFMKの濃度はメラトニンの夜間の血中濃度よりも高い。AFMKの抗炎症作用と神経保護作用に関心を注がねばならない。AFMKから由来する生成物で抗炎症作用と神経保護作用として妥当な物質がある。メラトニンから生成される別の代謝物であるcyclic 3-hydroxymelatonin (c3OHM)である。フリーラジカルを介した反応により、c3OHMが酸化ストレス(電離放射線への暴露など)の条件下で著しく上昇している(=酸化ストレスを緩和しているため上昇しているのであろう)。
melatonin-antioxidant 
anti free radical



















 メラトニン受容体には抑制性G蛋白質と共役している2つのサブタイプが知られている。MT1(Mel1a、MTNR1A)とMT2(Mel1b、MTNR1B)である(人には存在しないがMel1cも同定されている)。受容体が刺激されるとcAMPが減少し、プロテインキナーゼAの活性低下とCREBのリン酸化が減少する。その他の経路にもMTは関連しているが詳細は省略する。MT1は、PDZドメインタンパク質MUPP1、メラトニンへの親和性を持たないメラトニン受容体ホモログ(GPR50)、MT2と結合しヘテロ2量体化することで調節されている。 さらに、MT1とMT2の相互接続による調節が存在しているようである。どちらか一方に、サーカディアン振動子タンパク質か、あるいは、エネルギー代謝の制御因子が存在する。MT1とMT2は重複して機能するが、同一の作用を同時には示さない。MT1とMT2は、相反する動作をすることが多くの症例で示された。例えば、MT 1の活性化は血管収縮につながり、MT2の活性化は血管拡張につながる。
MT1MT2














 MT1とMT2は、多くの細胞や組織に存在する。例えば、十二指腸、結腸、盲腸、虫垂、胆嚢上皮、耳下腺、膵臓の外分泌細胞、膵臓のβ細胞、皮膚、乳房、子宮、胎盤、顆粒・黄体細胞、胎児の腎臓、心臓の心室壁、大動脈、冠動脈、大脳動脈、末梢血管、茶色・白色脂肪組織、血小板、いろいろな免疫細胞などに存在する。ターゲットとなる組織や細胞の多様性によって身体には多面的な効果をもたらす。メラトニンやメラトニン受容体作動薬は、通常、睡眠を改善したり、うつ症状を軽減させるために設計されてはいるが、薬の販売会社では強調されていないような作用が存在することを知っておかねばならない。

 膜受容体も含めてメラトニンは多くのものと結合することが知られている。しかし、人でのメラトニンの生理特性は不明な点も多い。かって第三のメラトニン受容体と思われるタンパク質(MT3)は、生体異物を代謝する酵素であるキノン還元酵素2(QR2)であることが分かった。メラトニンは転写因子であるレチノイン酸受容体スーパーファミリーと結合するが、特に、スプライスバリアントであるRORα(レチノイン酸受容体関連オーファン受容体-α、ヒト遺伝子ID:6095)、RORαアイソフォームa(RORα1)、RORαアイソフォームb(RORα2)、RORαアイソフォームd(RZRα)、RORβ (RZRβ、ヒト遺伝子ID:6096)と結合する。RORβは神経系に存在し、RORαアイソフォームは多くの体内で普遍的に発現している。多くの研究者がメラトニンによるROR転写因子を介した遺伝子発現の調節について同意しているが、遺伝子発現の調節のメカニズムに関してはまだ議論されている最中である。

 RORSは、概日コア発振器と相互作用し、位相リセットと概日リズムの周期の長さの決定に作用を及ぼすため、時間生物学的においては重要である。しかし、これらがメラトニンに依存しない作用かどうかはまだ検証中である。さらに、メラトニン以外のRORSへのリガンドも存在しているようである。カルモジュリン、カルレティキュリン、カルレティキュリンと相同性を有する他のタンパク質、ミトコンドリア複合体Iとメラトニンは結合するが、その役割はまだ解明されていない。しかし、これらの知見からは、メラトニンの作用が増える可能性がある。最後に、メラトニンとその代謝物は強力なフリーラジカル・スカベンジャー(フリーラジカルを掃除してくれる物質)である。概日リズムへのメラトニンの作用は受容体を介した作用ではあるが、人では、これらのフリーラジカルの処理作用は、受容体やシグナル伝達を必要とせずに、薬理学的には濃度の高さにのみに関連し、抗興奮作用や抗炎症作用やミトコンドリアへの作用として、ラジカルの形成を減少し、抗酸化酵素の発現を増強し、酸化ストレスへの防御として作用する。

melatonin-ROR









 

メラトニンと視交叉上核: 出力と入力

 視交叉上核(SCN)は、intergeniculate leaflet(IGL)などの脳の他の部位からの入力も受けるが、眼からの入力を主に受信する。関連する光受容体は、青色を吸収するメラノプシン含有網膜神経節細胞(Rods)と緑色を吸収する円錐(cones)である。光の情報は多数の細胞時計から構成され概日マスタ発振器システムに反映される。SCNの中では、発振器のサブセットとして細胞はカップルしてながらグループを形成し、光性、非光性の時間的合図によって、リセットのされ方がグループでは異なっている。さらに、左右のSCNでも動作が異っていることが実験で確認されており、自発運動としてリズミカルに出力し、時間的な差を導き出している。その他、SCNでは腹側と背内側では発振器としては異なる(発振器として2個に分かれる)ことがラットでの強制的に脱同調させる実験で示されている。哺乳類では、概日位相に関する情報は、室傍核(PVN)から、上部胸髄から上頸神経節への交感神経を介して、それぞれ松果体に伝達される。カルシウムイオン、プロテインキナーゼC、CaMキナーゼの上昇を導き出すような、cAMPを介したβ1-アドレナリンのアップレギュレーションとホスホリパーゼCβによるα1B-アドレナリンの活性化によってメラトニンの合成が刺激されるが、これらのプロセスは、ペプチドやグルタミン酸系作動機構によって調節されている。メラトニンは松果体で合成され放出されるが、それにはリズムがあり、夜間にピークを迎える。その松果体からの情報はSCNからの一時的な情報を含む。メラトニンの放出はSCNからの出力関数として表現される。しかし、メラトニンはSCNの構造体へフィードバックすることにより、SCNへの入力としても作用する。
SCN-PG
melatonin-SCN







 









 


















 

 メラトニンはSCNでは主に2つの効果を発揮する。一つは、MT1受容体に作用しcAMPを減少させSCNの神経発火を抑制することである。さらに、カチオン(+)イオンチャネルの導電率も変化する。もう一つは、時間生物学的な性質である。例えば、メラトニンのPRCによってSCNの発振器システムの概日リズムの位相を再調整する能力である。多くの哺乳類では、時間生物学的な作用はMT2受容体を介する作用であるが、ヒトのSCNではMT2の発現は少なく、時間生物学的な作用はMT1受容体を介した作用も加わるのではと議論されている。SCNからの光の情報が松果体の活性をコントロールしているのだが、なぜこのようなフィードバックが必要なのであろうか。その答えは、光の別の効果としてメラトニンの生合成の急性抑制を発揮させるためである。光により誘導される概日発振器の位相の変化は一時的で遅く、これはリズムに関連した遺伝子の発現と転写阻害に基づいて行われるのではあるが、光によるメラトニンの生合成の急性抑制は、概日発振器の位相の変化よりも即時に開始され抑制は速い。

 従って、光の情報がCNSに入らなくなると光によるメラトニンの生合成の抑制がかからなくなるため、メラトニンの生合成の増加が始まり、このメラトニンの上昇が体内時計を効果的にリセットする作用に貢献することになる。しかし、現代文明社会では、夜間のシフト勤務の仕事やライフスタイル変化によって夜間も光に暴露されている。SCNを直接介した夜間の光によるメラトニン合成の抑制は、生体リズムの混乱を引き起こし、メラトニンの欠乏は身体機能を最適に維持するために必要なホルモンの概日位相リズムの混乱をも引き起こすことになる。1つのホルモンが多くの生理学プロセスをコントロールしており、そのプロセスを組み合わせれば非常に多くの役割を担っている訳であり、メラトニン不足の重要性は明白である。メラトニンの具体的な効果は睡眠開始に関することである。MT-1を介したこの作用は、視床下部のスリープスイッチを経由して適切な睡眠を引き起こす。視床下部のスリープスイッチはオン・オフ反応を起す特徴的な構造を有する。(なお、睡眠と覚醒のスイッチのオン・オフには、オレキシンORXという外側視床下部の後部領域から分泌される神経ペプチドが関わっている。下図)
ORX






 睡眠と覚醒においては、相互に抑制するメカニズム基づいて、覚醒に関連する神経経路(青班核locus coeruleus、背側縫線核dorsal raphe nucleus、隆起乳頭体核tuberomammillary nucleusなどの核や、視床、視床下部後部、網様体からの大脳皮質への投射系などを含む)、あるいは、メラトニンの影響下で腹外側視索前野核ventrolateral preoptic nucleus{VLPO}を経由した睡眠に関連する神経経路が交互に活性化される。SCNニューロンによるMT1受容体に依存する発火の抑制は睡眠促進回路の活性化の決め手となる。しかし、メラトニンの睡眠導作用はより複雑であり、視床の作用のみならず、視床と皮質の相互作用が絡んでおり、脳波所見ではメラトニンによる睡眠紡錘波の促進が検出されている(睡眠紡錘波は網様視床核がペースメーカーとなり、それが皮質に投射され、視床―皮質回路で形成されている。中脳網様体の求心性入力が減少することで視床―皮質の神経路が独立性をもち睡眠紡錘波を形成するようになる。)したがって、メラトニンによるSCNへのフィードバックや、メラトニンのCNSへの付加的効果は、睡眠開始や、様々な疾患で障害されている生理的にプロセスには重要である。これと同様に、睡眠維持におけるメラトニンの役割も存在するであろうが、生理学的なホルモンの濃度では簡単に説明できないため、メラトニンの睡眠維持効果はまだ議論されている最中である(メラトニンそのものは睡眠を維持することには役立たない。メラトニンは入眠剤にはなるかもしれないが、一定時間の睡眠を維持するような眠剤としての効果はないという意見も多い。睡眠よりも、体内時計の位相のリセットや、眠っている間に体内を掃除するためのフリーラジカルの除去がメラトニンの主な機能であるかもしれない)。
(睡眠維持が障害された高齢者と睡眠健常の高齢者の間ではメラトニンの濃度には差はなかった。すなわち、睡眠維持とメラトニンは関係しない。)
(睡眠と覚醒に関する回路と神経伝達物質に関する詳細な解説。トロント大学のHP。)
http://neurowiki2013.wikidot.com/individual:neurotransmitter-system-and-neural-circuits-gover
VLPO















メラトニンと概日マルチ発振器システム

 メラトニンの時間生物学的作用は、主に概日マスタークロック(=SCN)に関連して議論されてきた。しかし、CNSの時計は視交叉上核SCNの1つしかないという以前の考えは否定された。 実際には、直接SCNによって調整されている発振器もあるが、SCNのマスタークロックとはゆるい結びつきしかなく比較的に独立している発振器など、多数の周辺発振器が同定されてきている。周辺発振器の発見は1958年には発見されており新しい発見ではないが、周辺発振器は概日ペースメーカーとしてSCNが同定されるまでは発振器だとは考えらていなかった。今日では、SCN以外の発振器は、哺乳動物の様々な組織で同定されている。例えば、腸、肝臓、心臓、副腎皮質、(下垂体の)隆起部、網膜、さらには、培養した線維芽細胞などの培養細胞にも発振器があると同定されている 。概日リズムの発振は1個の細胞レベルでも生成されるが、発振している細胞が結合すると安定した集合発振リズムを生み出す。多くの組織で、細胞内部に由来する発振リズムと細胞内部に由来する体内時計タンパク質が発現しているが、周辺(SCN以外)の体内時計の存在は、身体の全てではないものの、多数の体の部位で存在すると推測されている。並列する1個1個の発振器が単一の組織で作動しているので、概日発振器システムは非常に複雑である。これらの概日発振の作動メカニズムは正と副のコア発振器タンパク質を交互に使用することに基づいている。例えば、時計タンパク質であるPER1はPER2によって、CRY1はCRY2によって、CLOCKはNPAS2によって置き換えられる。その結果、発振器としての出力内容が異なることになる。さらに、コア発振器に関連する付加的タンパク質の発現は細胞間で異なる。その結果、主クロックへのフィードバックも異なってくる。
(花井@産総研のHPにある時計遺伝子の発振システムのGIFアニメーション)
http://staff.aist.go.jp/s-hanai/img/negativefeedback1.gif
 
clock






















 メラトニンは、周辺発振器に影響を及ぼす。特に、単一組織における並列した発振器をカップルさせて位相を合わせる上で重要である。末梢発振器の役割の例がマウスの副腎皮質や網膜で見出されている。メラトニンには問題がないC3Hマウスの副腎皮質では、コア発振器タンパク質であるPER1やCRY2やBMAL1は堅実な形の変動を示したが、メラトニンが欠乏したC57BLマウスでは、PER1やCRY2やBMAL1は弱い変動と低い発現レベルしか観察されなかった。網膜の発振器では、C3Hマウスでは堅実なリズムを示したが、C57BLマウスではPER1やCRY2はリズムと言えるような変動を示さなかった。人間の副腎では、ACTHによって誘発される副腎におけるPer1のmRNA、BMAL1やStARや3β-HSDタンパク質、コルチゾールやプロゲステロンの産生をメラトニンが抑制することが知られている。マウスの培養した線条体ニューロンでは、メラトニンによってPER1とCLOCKの発現の著明な低下とNPAS2の著明な増加を認めたが、この効果はMT1をノックアウトすることで消失した。ラットSCNでは、メラトニンによる並列発振器の位相の結合効果が観察された。松果体が切除された動物では、PER1とPER2のmRNAの最大値は通常とは異なる位相の差を示したが、メラトニンで再処理することによって、PER1とPER2のmRNAの最大値は堅固にカップルされて正常な位相となった。
CLOCK3












 
 











 
 これらの知見から以下のことが推定される。(i)加齢や疾患によって引き起こされるメラトニンの減少は、SCNのマスター発振器だけでなく、SCNの発振器のサブセットにも、さらに、周辺の発振器にも影響を及ぼす。(ii)のメラトニンや合成メラトニン誘導体化合物の患者への治療は、SCN内部の発振器同士のリズムの同調だけでなく、SCNと周辺発振器との間のリズムの同調にも影響を及ぼすことができる。それ故、メラトニンとその合成アナログは、多面的な作用を持ち、周辺組織の生理機能を直接アップレギュレーションしたりダウンレギュレーションするだけでなく、時間生物学的に複雑な方法で周辺組織の時間構造にも影響を及ぼすことになる。

(次回に続く)


 日勤⇔夜勤など、勤務時間が変則的に変わるパイロット、看護師などのシフト勤務をする職業では、夜勤中のメラトニンの分泌障害にどのように対抗していくべきかが最近議論の的になってきている。メラトニンというサプリメントを内服すべきかどうかはまだ結論は出ていないようである。メラトニンは常に松果体で作られてはいるが、光によって分泌が抑制されているだけであり、わざわざメラトニンを飲むまでの必要はないのかもしれない。夜勤が終わり眠りにつけばメラトニンは自然と十分に分泌されるものと思える(実験ではメラトニンを内服した方が位相の前進がより確実になるようだ)。ただし、概日リズムが不明確にならないようにするために自身で光刺激をコントロールする必要がある

 光によるPRC信号を確保するには夜勤はなるべく明るい光の下で行うのが良い。逆に帰宅中の朝の明るい光を目に入れることは避けた方が良い。夜勤を終えたらサングラスなどを使用し明るい光を避け、光刺激によるメラトニンの分泌抑制を防止し、なるべく早く帰宅して部屋を務めて暗くして睡眠を早く取った方が良いと思われる。こうすることで昼間の睡眠でもメラトニンは十分に分泌され、メラトニンのPRC信号は体の隅々まで行きわたり、体内時計は全てリセットされることであろう。

 さらに、1回だけで終るシフト勤務と夜勤が続く場合など、勤務形態をよく考慮して、概日リズムが24時間を超えないようにする必要がある。体内時計がリセットされる時間が24時間を超えれば、体の中にはフリーラジカルが溜まり、さらに、臓器ごとの同調性も乱れ、こういったダメージが蓄積していけばいろいろな形で疾患となって表れるかもしれない。特に、日勤⇔夜勤の移行の際に24時間を超えるような概日リズムにならないようにする必要がある。概日リズムが24時間を超えないようにする目的で体内時計の位相を全てリセットするためにメラトニンを内服することは意味があるのかもしれない。メラトニンを内服しメラトニンの濃度がそれなりのピークに達し、PRC信号が体の隅々にまで行きわたった時点で全ての体内時計がリセットされ同調されたと考えれば分かりやすい。

 この観点から、勤務形態の移行の際にメラトニンをうまく使う方法があり得るであろう。勤務形態が変更する日にメラトニンを内服するのである。メラトニンの血中濃度は内服後に30~45分(遅くとも1時間)でピークに達し4時間後にはピーク時の10分の1まで低下する。この血中濃度の推移からは、遅くとも仕事開始の数時間前にメラトニンをそれなりの濃度にもっていき体内時計をリセットしてしまえば良いことになる。概日リズムが24時間を超えてしまうよりは、概日リズムを早めにリセットしてから仕事に就いた方がいいに決まっている。メラトニンを内服すると30分くらいで眠くなるかもしれないが、たとえ眠ったとしてもずっと眠り続けることはない。食後の昼寝のような感じで終るはずである。数時間後には眠気はなくなり仕事に集中できるはずである。日勤から夜勤への移行する場合は、夜勤開始の数時間前の昼間にメラトニンの内服によって1~3時間くらいの仮眠ができればベストであろう。

なお、私が述べた内容と同じようなことを実験した論文があるので紹介しておく。
http://psy2.ucsd.edu/~mgorman/Crowley.pdf 
http://ericlevonian.com/cptr/pharmacy/current%20events%20and%20project%20presentation/ce4/mother%20nature.pdf

 下の論文は非常に参考になる。夜勤やシフト勤務のパターンは様々であり、この論文で提示されているような睡眠チャートを各自が記録・作成し、睡眠不足に陥っていなか、スケジュールに過大な無理がないかを記録しておき、パターンに合わせた具体策を各自のチャートから導き出し、万が一健康被害が生じた場合はその記録をもって労災認定を勝ち取って頂きたいと願う
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3630978/
睡眠チャート1睡眠チャート2睡眠チャート3









































 特に、夜勤明けにさらに連続して勤務することは概日リズムを無視しており絶対に避けねばならない。医師においてこの有害事象が懸念されている。当直中に忙しく殆ど眠っていない医師が、当直明けの翌日にも勤務するということが日本では当たり前のようになっているが、24時間もの連続勤務となり、これは体にとっては非常に危険である。当直開始前日のメラトニンがピークに達し体内時計がリセットされた時刻から換算して、この勤務形態では24時間以上もの間メラトニンの分泌が抑えられ続けることになる。体内にはフリーラジカルがたまり、臓器の同調性は乱れ、医師の体は蝕まれることになる。このような医師の勤務形態に医師会や医学界や大学が異議を唱えないのは日本の医学界の恥のように思える。医師の過労死が後を絶たないのは、こういった科学的なことが考慮されていないためである。

 さらに、加齢によってメラトニンの分泌は減るため、年を取ってからの夜勤も問題となる。年を取ったら夜勤はしないようにするか、中年期以降の夜勤ではメラトニンを必ず補充する必要があるのかもしれない。問題は、どの時間帯に、どの程度の量のメラトニンを補充するかである。適切な対処方法は未だ定まってはいないのだが、夜勤が終わり帰宅して眠る30分前程にメラトニンを内服することになるのであろうが、血中濃度からは1mgを内服すれば十分という意見がある。しかし、1mgで夜勤に伴う健康被害が防止できたという疫学的なデータはまだない。認知症への進行を予防するためのMCIでの使用量は3~9mgとかなりの高用量である。なお、メラトニンは海外から直接個人輸入して入手する必要がある(amazonですぐに購入できる)。医薬品ではなくサプリメントであるため値段は安い。少しづつ体内に吸収されるコントロールリリース製剤も売っている。こちらは値段はやや高めである。

なお、メラトニンはアドレナリンβ受容体を介して合成が刺激されるため、βブロッカーはメラトニンの合成を抑制してしまうため就眠の数時間前はプロプラノロール(インデラール)などのβブロッカー製剤を内服しない方が良いであろう。

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