テレビが「お祭り」を作る理由

テレビの音楽番組はどれだけフェスを意識しているのでしょうか? 実は、そこには「お祭り」を作るという明確な意図があったようなのです。
音楽ジャーナリスト・柴那典さんがその実情と未来への指針を解き明かす話題書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)。その内容を特別掲載します(毎週火曜・木曜更新)。

「音楽のお祭り」を作る

 音楽番組の制作者側はフェスをどれだけ意識しているのか。なぜ『FNSうたの夏まつり』などの番組はフェスのムードを打ち出すようになったのか。

 「狙ったのが半分、結果的にそうなったのが半分かもしれないですね」

 『FNS歌謡祭』総合演出を務める浜崎綾は率直にそう語る。

 「私たちも、音楽番組の視聴率がなかなかとれなくなった00年代に、フェスの現場に人が集まっているのを感じていました。音楽の現場に足を運ぶエネルギーをたくさんの人が持っている。音楽への興味が失われているわけではない。なのにどうしてテレビの音楽番組の視聴率につながらないのだろうかと考えた。それはテレビがフェスにある高揚感やハプニング性を出せていないからじゃないかと思ったんですね。
 そこから、番組をフェスっぽくすればいいんじゃないかという戦略的な気付きがあった。そして、数字としての結果から実際にそういうものが求められていたんだということが検証された感じがあります」

 『FNSうたの夏まつり』と『FNS歌謡祭』が夏と冬の大型音楽番組として定番化し、2015年からは放送時間も拡大した。『FNS歌謡祭』は2週にわたる放送となり、『FNSうたの夏まつり』は、「海の日スペシャル」と題して7月18日の11時間の生放送となった。

 「単純に時間が足りなくなったんです。ゴールデン帯の19時から23時の間ではやりたいことが収まらなくなってきた。その4時間だけでは、お祭りというところまで持っていけないという感じがありました」

 テレビが「音楽のお祭り」を作る。それが明確な意図としてあった。

 「お祭りを作ろうということは意識しています。イベントと言っていいのかわからないですけれど、カレンダーに大きな目印を立てるような感覚ですね。テレビ局側がこれは一年の中で大事なイベントなんだということを打ち出して、テレビを観る人もそれを一つのルーティーンとして認識するようにしていく。そこはまさにフェスと一緒ですね。夏と冬に大きな特番があるということを当たり前にしていきたいと思っています。
 だから、11時間に放送時間を拡大したのは大きなチャレンジですね。今後も海の日には『FNSうたの夏まつり』をお昼からずっと観てください、この日は音楽のお祭りです、ということを定番化していきたいと思っています」

 こうして2016年には、3月末に『FNSうたの春まつり』、7月18日の海の日に『FNSうたの夏まつり』、12月に『FNS歌謡祭』『FNS歌謡祭 THE LIVE』と、フジテレビにおいては各季節に特番が放映されるようになった。レギュラー番組もそれを軸に作られるようになったという。

 「年間計画として、今はこれらの大型特番が音楽番組の軸になっています。レギュラー番組を特番からの逆算で作るようになった。たとえば冬の『FNS歌謡祭』でやろうと思っている企画が上手くいくかどうかをまずはレギュラー番組で試してみようとか、大型特番でこの人のスーパーヒットメドレーをやりたいから、その人の新曲はレギュラー番組でもプロモーションしていこう、とか。年間のプランニングを考えて計画的に進めているところはありますね」

 こうしてフェスと音楽番組は結びついていった。夏や冬の特番の1回限りでなく、それが一年を通したテレビと音楽の関係の軸になっていったのである。

(PHOTO: Getty Images)

狙いは「バズる」こと

 これまで繰り返し書いてきたように、テレビとネットと音楽を巡る状況の中で、00年代と10年代の大きな違いはスマホが普及したことだ。

 それ以前に一般的だったPCベースのインターネットは、いわばユーザーのテレビ離れを加速させるアーキテクチャだった。一方、スマホはテレビと併用することが可能だ。「スマホを片手にSNSをチェックしながらテレビを観る」という視聴スタイルが広まったことで、テレビとネットの関係は変わってきた。
 競合する敵同士ではなく、補完しあうものと捉えることができるようになってきた。番組の作り手もそれを意識するようになった。浜崎はこう語る。

 「ネットの普及にテレビがどう対抗するかという枠組みで物事を考えること自体が間違っていたと思うんです。テレビとスマホは並列だし、それぞれ違ったメディアの特性を持っている。スマホは持ち歩いて常時見ることができる。でも、テレビは時間と場所を拘束する。そういうテレビの特性を捉えて、それを活かした番組を作るべきだと考えるようになりました」

 生放送であること、リアルタイムであることは、テレビのメディアとしての特性を活かすために大事なポイントであると浜崎は言う。
 実際、音楽番組だけでなく、テレビ全体において生放送の占める割合は大きくなっている。フジテレビは2016年4月の番組改編で、午前4時から午後7時まで15時間連続で生放送を実施することを発表した。

 「事前に収録したものをただ流すだけでは、観る時間と場所を縛る特徴を持ったテレビというメディアの特性を活かしきれていないと考えるようになったんですね。テレビの前にいないと観られない、でも、だからこそ観たいと思うものが生放送だと思います。昼間帯の生放送が増えているのは、そういう流れだと思いますね」

 そういった流れの中で、SNSなど口コミで急速に情報が拡散し、トレンドの話題になる、つまり「バズる」ということがヒットと同義になっていった。

 「番組を作る時に、たとえば『この人とこの人がこの曲を歌ったら、きっとツイッターのトレンドワードに載るはずだ』とか、そういうようなことはかなり意識しています。バズるもの、SNSを使っている人たちが面白がりそうなものを点在させようとする意識は、強く持って作っていますね」

 SNS、特にツイッターは「今、何をしているか」をユーザーに発信することを強くうながすメディアだ。一つのイベントや番組に参加している人たちの話題はハッシュタグで共有され、短期間にたくさんの人がツイートした言葉は「トレンドワード」としてランキング化される。過去の発言はタイムラインの下のほうに隠れて見えなくなる。常にリアルタイムな情報がやり取りされ、時間が経ったものは目に見えない場所に追いやられる。

 そういったメディア環境に相性のいいコンテンツは、やはりライブ感を持ったものだ。起承転結を作り込んだものよりも、何が起こるかわからない、体験を共有するようなタイプのコンテンツ。音楽業界においてはそれがライブであり、テレビにおいてはそれが生放送だった。

 実際、ツイッターのトレンドワードには、その時に放映されているテレビ番組関連の言葉が並ぶことも多い。ドラマのような作り込まれたコンテンツであっても、公式のハッシュタグを用意してSNSと連動することで、あたかもみんなで一緒に観ているような感覚をもたらす試みが始まっている。

 このことは、メディア環境が変化し、コンテンツそのものよりもそれを介したリアルタイムのコミュニケーションに興味を持つ人が増えたことを示している。つまりは、スマホとSNSが普及したことで、音楽もテレビも「生」に回帰したというわけなのである。

次回につづく!

テレビは新たなスターを生み出せるか?

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ヒットの崩壊

柴那典

「心のベストテン」でもおなじみ音楽ジャーナリスト・柴那典さん。新刊『ヒットの崩壊』では、アーティスト、プロデューサー、ヒットチャート、レーベル、プロダクション、テレビ、カラオケ……あらゆる角度から「激変する音楽業界」と「新しいヒットの...もっと読む

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