※本連載の参加者の方の発言は、あくまで個人の見解にもとづくものとなります。
【メンバー紹介(仮名)】
キネコ(26歳)
腐女子歴12年のライター。もともとは「ぷよぷよ」シリーズのシェゾ×アルルなどの男女カップリングにハマっており、男女CP、BL、百合、夢、どれもおいしくいただく。2016年は「Fate/Grand Order」で脳がとろとろに。付き合いたい刀剣男士は御手杵。
クリカ(27歳)
一部上場企業で法務として働く敏腕キャリアウーマンだが、男同士の関係がよだれが出るくらい好き。2015年以降、「刀剣乱舞」にドハマりしており、父親に借金してまで35万円ぶんの同人誌を購入したという逸話を持つ。「まんだらけ」は家のようなもの。最も愛する刀剣男士CPはくりみつ(大倶利伽羅×燭台切光忠)。
イズミ(27歳)
ウェブメディア記者。「腐女子」という自認はなく、BLはあくまで一ジャンルとして適度な距離感で楽しんでいる。……はずだったが「Free!」にハマってからは自分でも同人誌を出してしまうなど、一度熱が入ると止まらない一面も。2016年は松野家長男に振り回された。
ミカノ(27歳)
PR会社勤務で流行りものに目がない腐女子。クリカ同様ここしばらくは「刀剣乱舞」にハマり、三日月宗近と山姥切国広の同人誌などを出しているが、2016年夏には「名探偵コナン」のあかあむ(赤井×安室)にもドハマりしてしまい、安室透ネックレスまで買う事態に。供給の多いジャンルに飛びつく傾向あり。
※岡田育さんはNYよりSkypeにて参加
社会現象を巻き起こした「おそ松さん」
岡田育(以下、岡田) ひとまずは時系列でいきましょうか。2016年の初めといえば、やはり2015年10~12月に放送したアニメ「おそ松さん」に対する熱狂が、さらに加速していた時期でしたよね。
イズミ そうですね。ちょうど年明けから同人が一気に爆発した感じがする。
クリカ 冬コミは申し込みが夏くらいだったからみんな間に合ってなかったんだよね。オンリーは2015年中にあったっけ?
イズミ 年末の時点でちょこちょこあった!
岡田 え、10月開始でそんな時点からオンリー開催!? 早いですね。
クリカ アニメ自体も1話から注目は集めていたけど、みんなが一気に萌えて二次創作が流行り出したのは中盤以降だったよね? 16話の「一松事変」だったような。
キネコ 私の印象では、最初から今の「ユーリ!!! on ICE」くらい盛り上がってたと思うけど。
イズミ でもそれぞれのキャラ解釈をかためるのに少し時間がかかって、「あ~こういうキャラだから萌え!」というのが固まってオタクの間で共通認識ができはじめたのは2クール目入ってからだったかな。
「おそ松さん」ってアニメ自体は1話1話がぶつ切りだから、通底した文脈については、二次創作を読んで補完することが多くて。その補完リソースがととのってきたのが2クール目入ったあたりだった。当時そこまでハマってるつもりもなくて、みんな見てるし追いかけてたらいつの間にか沼に……という。
ミカノ 二次創作の供給が大量にあるのがいいよね。どう転んでも餌がいっぱいある。「おそ松さん」にいると富豪の暮らしができる。私はミーハーなので、そういうのも大事にします。
岡田 すごい! 誰もが富豪になれるジャンル! 私はみずから不毛の地を選んで根づくタイプなので、大変うらやましい……。
国民的アニメはプレゼンしやすい
イズミ オリジナルアニメだったから、毎週新しい燃料が投下されるのもすごくよかったですよね。そして何より個人的には、継続視聴できた一番の理由として「国民的アニメ」感を挙げたい。当時実家暮らしだったんですが、親の前で見てても恥ずかしくなかった。
イズミ 言えなくない!? でも「おそ松さん」はむしろ親のほうから「なんか流行ってるんでしょ~?」とかカジュアルに聞いてくるくらいだったから。内容はえげつないのに(笑)。
クリカ キャラクターグッズとかコラボの展開も、すごくメジャー感がありましたよね。
イズミ そうそう! PARCOにマルイにルミネに、東急電鉄ともコラボしちゃってますからね。そして佐賀県。
岡田 「anan」の表紙にもなってたよね。
ミカノ 東京ガールズコレクションにも出演してたし。
編集R ああいうのって誰が決めるんでしょうね。仕掛けてる側にドハマりしている20代後半~30代女性がいるのかな……?
キネコ どうなんだろう~。流行っている作品は別にいろいろあるし、最近は企業とコラボしている例も多いけれど、「おそ松さん」は圧倒的でしたね。
岡田 おじさまもご存じの赤塚不二夫の「おそ松くん」が、リメイクされて今こんな人気作になってるんですよー、って会社の重役世代にもプレゼンしやすいからじゃないかな?
ミカノ それはあると思います。私はPR会社にいるので、そういうタイアップの話などもときどきかかわるんですけど、IP(版権)を上が知っていて話を通しやすいって本当に重要です。
イズミ あ~、おじさんが理解しやすいんだ、やっぱり!
岡田 わからない人でも理解しやすい、という話は、ファンの広がり方にも言えそうですよね。たとえば刀剣男士がずらっと並んでるうちからどのキャラが好みか見極めるのって、自分の性癖やツボを把握してるわりとコアなオタクじゃないと難しいと思うんですよ。ある種の「図像学」に長けてないと装飾が読み解けない。でも松野兄弟のなかで推しを選ぶのは非常にシンプルで、そんなにストレスがないですよね。顔が同じだからこそ、間口が広い。
クリカ 兄弟それぞれに色があるのもわかりやすかったでしょうね。その色さえ身に着ければ推しの表明ができるし、オタクすぎずにアピールできる。
おそ松さん かくれエピソードドラマCD「松野家のなんでもない感じ」 第1巻
キネコ 推しの表明がしやすいって、このSNS時代とても重要なことですよね。アイドルものが流行っているのもそれが一因だと思うし。
ミカノ でもアイドルものって、なんか「とにかく数いれば誰か好きになるでしょ」方式にいきがちではあるんですよね。「数いたら誰か一人好きな子見つかるでしょ」というのはAKB方式で実際成功しているものではあるんだけど、むしろ全員認識することへの負荷がかかったり。
本当は5、6人でも十分推しは見つかるというのが「おそ松さん」でわかった。まあ、「刀剣乱舞」でいろいろな刀剣男士に山姥切に対して無体なことをしてもらうのも楽しいんだけど……。
岡田 本当にミカノさんは「無体」が好きなんだな……。そうそう、ガチのジャニオタでなくとも「SMAPで誰が好き?」という質問くらいなら答えられる、というのに似てますね。数で攻めてくるコンテンツの多い時代に、その辺が懐かしくも新しいのかな。
松野家は萌えのプラットフォーム
編集R 「間口が広い」という話にもつながるんですけど、私は「おそ松さん」は、人数は少ないけれどひとりひとりのキャラのデザインがフラットなので、無限の腐女子の要望にこたえられるのかなと思っていて。
岡田 ほう。
編集R さっき岡田さんがシンプルで選びやすいという話にもつながるんですが、松野兄弟って個々の人間としての側面ももちろんあるけれど、「6つのパターン」というイメージが強いと思うんですよ。で、「あなたたちが今まで萌えていたキャラやカップリング、嗜好に、松野兄弟を引き寄せていいよ」という懐の広さがあるかなあと。「自分絵注意」と言いつつ、自分絵でイラストを描くのがスタンダードになっているのもそういうことだと思うんですよね。
岡田 あー、つまり「コンテンツ」としてだけでなく「メディア」、むしろ萌えの「プラットフォーム」としての松野家……?
編集R 「自分絵」について一応説明しておくと、かなり記号化されたキャラクターたちであるところを、ちょっと頭身高かったりハンサムに描いたり、原作に似せるのではなく自分のテイストで描くというものですね。松はとにかく自分絵が多い!
ミカノ 「忍たま乱太郎」でも多いんですよ。「自分絵注意」。
イズミ なるほど~!
編集R そもそもがデフォルメされたキャライラストだから、自分絵でもいいよねという感じなのかな?
ミカノ 自分の理想の塩顔男子を描いて、それがおそ松だって言いはればOKみたいなところありますよね(笑)。
岡田 顔で「おそ松さん」二次創作ってわからなくても、色別のパーカー着てるだけで「ああ~~」って気づきやすいしね。顔以外が記号的役割を果たしている。
クリカ それはコスプレについても言える気がする。松のコスプレって「似せる」という発想は全然なくて、パーカー着てればOKというところない?
編集R 「刀剣乱舞」のように細部にこだわったり、刀の持ち方で学級会が起きることもなく、ライトに参入できるんだけど、そのぶん顔面偏差値での殴り合いが起きてますよね。
ミカノ コスプレ見てても心が穏やかだよね。たとえば、かっこわるい三日月宗近を見た時は「お前、その服を脱げ!!!」と思うけど、松の場合は「これは単にパーカーを着ている人……」と心のなかで唱えればいいから……。
キネコ そもそも別にイケメン設定がないですしね(笑)。
「きょうだいカップリング」はあり?
イズミ そういった間口の広さが同人でも作用して、若い子も参入しやすかったのかな? もちろん歴戦のお姉さんが描いているな~という作品もいっぱいあるけど、わりと「松で同人始めました!」という人もいました。
クリカ そして読み手の側の年齢層もだいぶ低いみたい。今年のはじめに、知り合いでずっと「TIGER & BUNNY」で活動していた人が松にハマって18禁本を出したら、会場が若い子だらけで18禁本を買ってもらえなかったという……。
一同 (笑)。
岡田 あの六つ子たちのニート感って、私なんかの歳だともう「何者でもない年下男子かわいいなあ~」って見てるんだけど、これが中高生だと「ちょっとダメだけどかっこいいオトナ」として見ていて、その違いは、描いてる二次創作の手触りでわかりますね(笑)。
編集R 岡田さんは、「おそ松さん」はどうでした?
岡田 今更すみません、私ね、きょうだいカップリングが結構、難しいんですね……。
一同 あ~~~。
岡田 地雷ってほどじゃないし、「ヘタリア」のイギリス&アメリカとかは大好きなんですが、以前「鋼の錬金術師」のエロ本を読み通せなかったことがあって気づいちゃったんですよね……兄弟は兄弟として麗しいものなので「無体が強いられない」というか。これも一種の箱推しなのかな? で、今のところ二次創作として一番萌えたのは、佐々木あららさんが詠んでいた「遠い目のイヤミが話すほんとうはもう一人いた弟のこと」という短歌です! この三十一文字でどんぶり飯何杯でもいける!
クリカ おそ松さん短歌!
キネコ 私は兄弟なのは別にいいんですけど、「同じ顔」なのがダメですね。
岡田 は? 六つ子に無茶言わないであげて!
キネコ Pixivでランキング入りしているR-18小説はジャンルを問わずチェックしているんですけど、ある一カラ作品で、「カラ松はなんてかっこいいんだろう……それに比べて自分は……」という一松のモノローグがつづられていて。「いやいや同じ顔なのに!」ってつっこんじゃうんですよ。
ミカノ それを言ったらおしまいじゃん!
岡田 まぁ、「兄弟カップリングが苦手」「同じ顔が苦手」といった事情のない限り、どんな萌えでも受け入れてくれるのが「おそ松さん」だったということですね。
次回「キンプリがオタク女に残したもの」は12月22日(木)更新予定。