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<記者の目>JR北海道の路線見直し=野原寛史(北海道報道部)

夜の増毛駅を出発する留萌線の車両。12月4日の運行を最後に廃止された=北海道増毛町で11月、手塚耕一郎撮影

人口減社会の先例作れ

 経営悪化が深刻なJR北海道は11月、在来線の路線距離の半分を超す10路線13線区(計1237・2キロ)を「単独で維持が困難」とし、バスへの転換や、存続の場合の地元負担を沿線市町村と協議する方針を打ち出した。北海道特有の事情もあるが、人口減少が急速に進む地方の鉄道の問題はいずれ全国で顕在化するはずだ。この課題に向き合うモデルケースを、北海道で作ってほしい。

     JR北は5日、留萌線・留萌-増毛間(16・7キロ)を廃止した。その終着駅が、高倉健さん主演の映画「駅 STATION」の撮影をした増毛駅(増毛町)だった。

     JR北によると、この区間は100円の収益を得るのに必要な費用(営業係数)が2538円。今回提示された13線区のうち6線区で1000円を超す。取材で留萌線に何度か乗車したが、見かけるのは廃線を惜しむ鉄道ファンばかり。住民から「自分たちが乗らなかったから仕方ない」という声が聞かれ、これほど利用者の少ない路線は廃止もやむを得ないと感じた。

     JR北の在来線12路線の収支は、2014、15年度とすべて赤字だった。北海道の面積は九州の約2倍で、人口はその4割ほど。過疎化の著しい地帯を結ぶ長大な線路は、通常の保線に加え除雪などで維持コストがかさむ。

    深刻な資金難 安全意識も低下

     経営難は1987年の国鉄分割民営化の時から分かっていた。国は北海道、九州、四国の3島会社に経営安定基金を設け、北海道には6822億円を充てて運用益での補填(ほてん)を見込んだ。しかしバブル崩壊とその後の金利低下により、見通しは大きく狂った。

     北海道新幹線が3月に新函館北斗まで開通したが、資金難から在来線の車両や設備の劣化が著しい。安全意識も低下し、11年に特急列車が脱線して全焼。13年には貨物列車が脱線し、全社的なレール検査の記録改ざんも発覚した。今年度以降は、国から設備投資向けの追加支援を受けても毎年約180億円の経常損失が見込まれる。経営多角化の柱だった関連会社の株式やホテルなどを売却して資金を確保している状況だ。

     JR北は鉄道を維持する方針の線区についても、施設は自治体が保有し、運行をJRが担う「上下分離方式」を考えている。しかし沿線市町村も財政は厳しく、強く反発。JR他社や国の支援を求める声も出る。ただ他社の株主・利用者の理解が得られるかは疑問で、当のJR北の島田修社長も国の関与を巡り「何度も支援を受けた。投下されるのは税金だが、バケツに穴が開いたままでいいのか」と手法への理解を求める。

    交通以外も議論 「夕張モデル」

     沿線市町村の間でも、利用者数などから温度差がある。方向性をまとめるのに時間を費やせば、選択肢が減り事態が悪化する可能性が高い。

     これほど多くの鉄路のあり方を一度に検討するのは、国鉄分割民営化後では全国で初めてだ。地方の鉄道の将来を考えるモデルケースになる。JRと市町村任せにせず、北海道の場合は道が、両者の仲介と国を含めた調整の役割を果たすべきだと思う。分割民営化を進めた国の関与はもちろん必要で、JR北も公共交通の担い手の責任として地方交通の展望を示し、協力する姿勢が求められる。

     その先例がある。全国唯一の財政再生団体である夕張市は8月、自ら石勝線夕張支線(16・1キロ)廃止を提案。JR北から交通施策への協力や社員の派遣、施設・敷地の譲渡を引き出した。

     60年に約11万7000人だった人口が今年9000人を割り込んだ旧産炭地の同市に、鉄路維持の負担をする余裕はない。さらに市内の民営バス路線が10月に大幅に削減されるなど、厳しい状況に直面している。

     そこで、バスやタクシー会社、学校、福祉の関係者、JR北の幹部らによる協議の場を設け、早ければ19年春がめどの廃線を見据えた交通体系を検討。19年度に完成する予定で、公民館や図書館などを備えた複合施設に、駅に代わる交通拠点としてバスターミナル機能を持たせることになった。

     鈴木直道市長は「夕張は日本の縮図。ここで起きることは全国で起きる」としており、廃線を交通以外の地域の課題も絡めた幅広い議論で解決することで「地域公共交通のモデルの出発点になったと言われるようにしたい」と話す。

     人口減が進む今、鉄路を含む交通インフラは無条件に固守できるものではない。一方で高齢化が進めば公共交通への依存度が高まり、地域福祉サービスの一端を担うことにもなる。誰がどう負担し、いかに使いやすい地域交通を維持するのか。20年後、30年後を見据え、すべての当事者が自らの問題として考える時期が来ている。

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