経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

潜在力を解き放つということ

2016年12月18日 | 経済
 今時の高校生はYDKと称して、「やればできる子」を指すらしいね。潜在能力が有るのか無いのか、まあ、やってみなければ分からない。日本経済も同じで、一応、潜在成長率は計算できるのだけど、実績をベースにしているので、やった結果次第で、実は能力が高かったと評価が変わることが起こる。少なくとも、やる前から諦めていては、人作りと同様、可能性を生かすことはできない。

………
 本コラムでは、以前、潜在成長率は、足元の数字が変われば、上がり得るものだとして、ニッセイ研の斎藤太郎さんの『日本の潜在成長率は本当にゼロ%台前半なのか』(8/31)を紹介した。そして、新たなレポート『GDP統計の改定で1%近くまで高まった日本の潜在成長率-ゼロ%台前半を前提にした悲観論は間違いだった?』(12/14)が出された。こういう展開を待っていたよ。

 悲観論が拙いのは、低成長に在って、「金融・財政政策はもう限界、構造改革しかない」という発想に陥り、「成長が望めない以上、増税でしか財政再建できない」となって、緊縮財政で成長を抑圧し、悲観論の低成長を自己実現してしまうことである。潜在成長率の算定のカギになる全要素生産性は、好況期に高まる傾向があるので、自ら望みを捨てるなど、浅はかなことでしかない。

 改定後、1%近くになった潜在成長率は、十分、納得できるものだ。なぜなら、別のアプローチである、先週のコラムで示した消費の長期トレンドも同じくらいだからだ。リーマン後は変動が大きく、均して見ることは難しいが、ショック後の加速を踏まえると、トレンドは生きていると考えられる。むしろ、ショックがあって、金融・財政政策が積極化すると加速することからすれば、成長率を引き上げる余地があるようにさえ思える。

 1997年の消費増税後の財政の特徴は、景気が上向くと緊縮に走る「摘芽型」なので、それをしていなければ、どれだけ成長が加速していたかと想像される。おそらく、いきさつを知らない後世の人々は、2013年に2.0%成長(改定後)まで行けたのに、なぜ、翌2014年に消費増税で潰すようなことをしたのか、不思議に思うだろう。それも、労働組合が支持するリベラル政権が仕込んだものなのだから、なおさらだ。

 昔、戦後日本の経済政策を検証したことがあり、その際は、池田勇人首相の高度成長路線も、大したものに思えなかった。単に時流に乘っただけという見方もできるからだ。しかし、デフレの20年を経験し、潜在能力を活かすのが、どれほど難しいかを思い知ることになった。時宜に合った経済運営をし、余計なものに惑わされず、最大限に成長を確保するには、非凡な見識が要るのである。

………
 さて、今週月曜に10月の消費総合指数が公表されたが、水準補正と基準年変更もあって、日銀の消費活動指数と大差ないものになった。とりわけ、9月の戻りの悪さが直され、そこから10月が+0.4となったことで、7-9月期水準に対して+0.6となった。日銀指数は+0.7であるし、やや気は早いが、10-12月期は、消費を中心に、潜在成長率を大きく上回る2%成長が望める。消費増税の傷が癒えるのを待っただけが功績であるにせよ、成果は上がっている。

 成長が加速する中、人手不足が深まり、外食産業は24時間営業をやめるらしい。需要が日中に集約され、労働生産性の上昇につながるだろう。景気回復によって、賃金、殊に条件の厳しい部分が上がり、労働力の「薄利多売」をせずに済むようになる。これこそが景気回復を通じての、「改革」とは別物の生産性上昇である。経済は、成長すると潜在力が解き放たれ、生産性が向上する不思議な性質を併せ持つ。

 一点、気がかりは、円安が進んでいることだ。円安が輸出増にあまり効果がなく、輸入物価の上昇で消費を圧迫したことは、異次元の「実験」で得た重要な教訓である。それを忘れ、株高を喜んでいる場合ではあるまい。円安は、企業収益を押し上げ、税収を増大させる一方、家計を犠牲にするので、形を変えた緊縮財政になりかねない。時宜に合った水準とするために、日銀は一定の長期金利の上昇も容認すべきと思うが、いかがだろうか。


(図)

※活動指数は、総合指数より、消費増税後の戻りが早く、2015年後半の後退が緩やかという違いがある。両指数とも、多くのデータを統合して作られるが、家計調査と商業動態を足して2で割るという昔ながらの手法でも、方向は読み取れるようだ。


(今週の日経)
 労賃を上げれば人手は増える・大林組社長。領土帰属、進展せず。長期金利0.100%巡り攻防 日銀苦心。日経平均、7日連続年初来高値。中国 不動産バブル抑制、前面に。改正年金法が成立。景況感、世界経済回復で薄日 日銀短観。国債想定金利、最低の1.1%。アパート融資 過熱警戒 金融庁。円、1カ月で15円下落。

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